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第五章
新章8:旅の頁
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そうして翌朝早朝に、シナンを起こさないように気を付けながらカミールと一緒に家を出ると、私はギルドと呼ばれる場所へと連れられて行く。
カミールはドーム状の建物の前に見える掲示板へ向かうと、そこにはいくつもの紙が張り巡らされていた。
気になり私も目を通して見ると、どうやら……仕事の依頼の様だ。
何かを探して欲しいとの依頼や、オーダーメイドの剣を作れる人を募集していたり、見た事もない名前の材料が欲しいとの依頼まで……様々な依頼が大きな掲示板を隙間なく埋めている。
目に留まった依頼を眺めている中、カミールは一枚の紙をはがしたかと思うと、そのままドームの中へと消えていく。
私も後を追おうとするが……昨日身分証がないと云々が頭を掠めると、追うのをやめた。
そうして彼が戻ってくると、私はカミールに連れられ街を出て、森の中へと向かっていく。
鬱蒼とした森の中で沈黙が二人を包む中、何の説明もないことに不安が募っていった。
鳥や虫の音が辺りに響く中、ひしめき合った木々の間から太陽の光が漏れている。
何も説明してくれないのかしら……?
それとも目的の場所へ着いてから話すつもりなのかしら……。
チラチラと様子を覗う中、突然にカミールは森の中で立ち止まると、背負っていた両手剣を引き抜いた。
「なっ、何っ、ちょっと!?」
「静かにしろ……くるぞ」
その言葉を合図に、強い風が吹き荒れると、木々がザワザワと激しく揺れ始める。
私は緊張した面持ちで身構えていると、突然カミールが高く飛び上がった。
突然の事に、唖然とその姿を目で追う中、彼の向かった先には、2メートルほどのウサギのような獣の姿が見えた。
血走った真っ赤な瞳に、プックリまるまる太った茶毛の体。
大きな耳は垂れ下がり、前足には長い爪がキラリと光っている。
ひぇ!!!
あまりの驚きに自然と体が強張っていく中、カミール素早く大剣を構えると、獣へと振りぬいた。
しかし獣はそれを高くジャンプして避けると、鋭い爪がカミールを襲う。
カキンッ、カチャッ
「ちょっ、ちょっと、一体なんなのよ!!!」
「煩い、さっさと俺を援護しろ。……ギルドの依頼は、こいつの討伐だ」
はぁ!?今ここで言うの!?
それよりも……この大きな獣を倒すの!?
ちょっと……初仕事にしては、ハードルが高すぎない!?
って、援護ってどうするのよ……。
恐怖と混乱でその場で狼狽えていると、大剣と鋭い爪が交差し、激しい戦闘が目の前で繰り広げられる。
カミールは大剣を持っているとは思えないような素早い動きで森の中を駆け回る中、獣の爪が彼の肩をかすめ血が流れる姿に、自然と足が震え始めた。
ちょっ、えっ、どうしよう……。
援護って、何をすればいいのよ!!!
こんな突然言われても……!!!
私はその場で頭を抱えながらにあたふたとしていると、ウサギの大きな体が私の上へと落ちてくる。
その姿に思わずしゃがみ込むと、私はその場で小さく蹲っていた。
しかし体を強張らせ、次に来る衝撃に身構えてみるが……何の衝撃も感じない。
恐る恐る薄っすらと目を開けてみると、そこには大剣を構えたカミールの姿があった。
「くそっ、お前なぁ……ぼうっとするな!!!さっさと仕事をしろ!」
「ごっ、ごめんなさい」
その怒鳴り声にようやく冷静さを取り戻すと、私は震える脚を叱咤しながらに、必死に頭を回転させた。
ムカツクけれど……この場に来た以上、何とかしないと……。
お金を稼がないと……壁にも辿り着くことは出来ないわ。
しっかりしないと……。
えーと……援護って……とりあえず防御魔法をはって……。
後は……。
前世で良くプレイしたゲームの画面を思い出すと、手に魔力を集めていく。
確か……ゲームで味方を強化する魔法があったわよね。
体を軽くして、動きを早くしたり……。
剣に付属の力を付けたり……。
攻撃力や命中を上げたりもあるが……それはどうすればいいのかわからないわ。
後……私に出来ることは……相手に隙を与える事ぐらい……かしら。
私は手に魔力を集めると、カミールの姿を目で追っていく。
彼の周りに風を集め、彼の動きを補足よう風魔法を調整していった。
次に彼の大剣に魔力を投げると、静電気を発生させ、雷電を剣に巻き付けていく。
すると彼は驚いた様子でこちらへ振り向くと、先ほどよりも早いスピードで獣へと切りかかった。
想像していなかった動きに、ウサギは慌てて逃げ出していく。
その姿に私はウサギの体に魔法で作った氷柱を投げてみると、獣がこちらへと振り向いた。
氷柱はウサギの爪で破壊されると、真っ赤な瞳が私を射抜く。
その姿に一歩後ずさった瞬間に、獣が私の方へと突進してきた。
「えっ、ちょっ、きゃあああ!!!」
思わず悲鳴を上げると、突然にウサギの動きが止まった。
よく見てみると、ウサギの後ろにカミールの姿が見える。
スローモーションのようにウサギが前のめりで倒れていくと、土の上に紅の水たまりが、静かに広がっていった。
カミールはドーム状の建物の前に見える掲示板へ向かうと、そこにはいくつもの紙が張り巡らされていた。
気になり私も目を通して見ると、どうやら……仕事の依頼の様だ。
何かを探して欲しいとの依頼や、オーダーメイドの剣を作れる人を募集していたり、見た事もない名前の材料が欲しいとの依頼まで……様々な依頼が大きな掲示板を隙間なく埋めている。
目に留まった依頼を眺めている中、カミールは一枚の紙をはがしたかと思うと、そのままドームの中へと消えていく。
私も後を追おうとするが……昨日身分証がないと云々が頭を掠めると、追うのをやめた。
そうして彼が戻ってくると、私はカミールに連れられ街を出て、森の中へと向かっていく。
鬱蒼とした森の中で沈黙が二人を包む中、何の説明もないことに不安が募っていった。
鳥や虫の音が辺りに響く中、ひしめき合った木々の間から太陽の光が漏れている。
何も説明してくれないのかしら……?
それとも目的の場所へ着いてから話すつもりなのかしら……。
チラチラと様子を覗う中、突然にカミールは森の中で立ち止まると、背負っていた両手剣を引き抜いた。
「なっ、何っ、ちょっと!?」
「静かにしろ……くるぞ」
その言葉を合図に、強い風が吹き荒れると、木々がザワザワと激しく揺れ始める。
私は緊張した面持ちで身構えていると、突然カミールが高く飛び上がった。
突然の事に、唖然とその姿を目で追う中、彼の向かった先には、2メートルほどのウサギのような獣の姿が見えた。
血走った真っ赤な瞳に、プックリまるまる太った茶毛の体。
大きな耳は垂れ下がり、前足には長い爪がキラリと光っている。
ひぇ!!!
あまりの驚きに自然と体が強張っていく中、カミール素早く大剣を構えると、獣へと振りぬいた。
しかし獣はそれを高くジャンプして避けると、鋭い爪がカミールを襲う。
カキンッ、カチャッ
「ちょっ、ちょっと、一体なんなのよ!!!」
「煩い、さっさと俺を援護しろ。……ギルドの依頼は、こいつの討伐だ」
はぁ!?今ここで言うの!?
それよりも……この大きな獣を倒すの!?
ちょっと……初仕事にしては、ハードルが高すぎない!?
って、援護ってどうするのよ……。
恐怖と混乱でその場で狼狽えていると、大剣と鋭い爪が交差し、激しい戦闘が目の前で繰り広げられる。
カミールは大剣を持っているとは思えないような素早い動きで森の中を駆け回る中、獣の爪が彼の肩をかすめ血が流れる姿に、自然と足が震え始めた。
ちょっ、えっ、どうしよう……。
援護って、何をすればいいのよ!!!
こんな突然言われても……!!!
私はその場で頭を抱えながらにあたふたとしていると、ウサギの大きな体が私の上へと落ちてくる。
その姿に思わずしゃがみ込むと、私はその場で小さく蹲っていた。
しかし体を強張らせ、次に来る衝撃に身構えてみるが……何の衝撃も感じない。
恐る恐る薄っすらと目を開けてみると、そこには大剣を構えたカミールの姿があった。
「くそっ、お前なぁ……ぼうっとするな!!!さっさと仕事をしろ!」
「ごっ、ごめんなさい」
その怒鳴り声にようやく冷静さを取り戻すと、私は震える脚を叱咤しながらに、必死に頭を回転させた。
ムカツクけれど……この場に来た以上、何とかしないと……。
お金を稼がないと……壁にも辿り着くことは出来ないわ。
しっかりしないと……。
えーと……援護って……とりあえず防御魔法をはって……。
後は……。
前世で良くプレイしたゲームの画面を思い出すと、手に魔力を集めていく。
確か……ゲームで味方を強化する魔法があったわよね。
体を軽くして、動きを早くしたり……。
剣に付属の力を付けたり……。
攻撃力や命中を上げたりもあるが……それはどうすればいいのかわからないわ。
後……私に出来ることは……相手に隙を与える事ぐらい……かしら。
私は手に魔力を集めると、カミールの姿を目で追っていく。
彼の周りに風を集め、彼の動きを補足よう風魔法を調整していった。
次に彼の大剣に魔力を投げると、静電気を発生させ、雷電を剣に巻き付けていく。
すると彼は驚いた様子でこちらへ振り向くと、先ほどよりも早いスピードで獣へと切りかかった。
想像していなかった動きに、ウサギは慌てて逃げ出していく。
その姿に私はウサギの体に魔法で作った氷柱を投げてみると、獣がこちらへと振り向いた。
氷柱はウサギの爪で破壊されると、真っ赤な瞳が私を射抜く。
その姿に一歩後ずさった瞬間に、獣が私の方へと突進してきた。
「えっ、ちょっ、きゃあああ!!!」
思わず悲鳴を上げると、突然にウサギの動きが止まった。
よく見てみると、ウサギの後ろにカミールの姿が見える。
スローモーションのようにウサギが前のめりで倒れていくと、土の上に紅の水たまりが、静かに広がっていった。
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