精霊の愛し子~真実の愛~

マツユキ

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第四章 二人の愛し子

第三十話

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目を覚ましたシェリの目の前には、ラシードとヴァルがいた

「…シェリ、良かった」

しかし、シェリは反応を見せない。ヴァルはシェリが目覚めてから異変に気づいていた

『…今話かけてはならぬ。愛し子から怒りしか感じない』

ヴァルの神妙な声音に、ラシードは息を飲む。シェリが怒りを感じる時、それは精霊が関わっているときだけである

室内に沈黙が続いた時

「アティアス」

シェリが静かに言った。数秒も経たずアティアスがシェリの前に現れる

「精霊を探して…」

「…承知」

アティアスはそう言うと、再び姿を消した

「…どうして精霊を苦しめるの?」

シェリはうわ言の様にボソボソと話し出す

「許さない…」

繰り返し許さないと言うシェリ

『やめよ!呑まれてはならん!』

「…ヴァル?」

虚ろな目でヴァルを見つめるシェリ

『愛し子、精霊の感情に呑まれてはならぬ』

「あの子ね、まだ小さいのに苦しんでた…皆嘘つきだって…誰も助けてくれないって…僕、」

シェリの目から涙が伝う

「シェリ…」

『助けると約束したのであろう?』

「うん…」

『ならば、我を助けたように精霊も助けられる。愛し子が悲しんでいては、精霊を守る事もままならないぞ?』

「そう、だね…うん!ヴァル、ありがとう」

『気にするな』

ヴァルの体に顔をうずめるシェリ。そんなシェリをラシードは複雑な気持ちで見ていた

シェリが元気を取り戻した事は素直に嬉しく思う反面、何の力にもなれなかった自分に悔しい思いが募る。そんなラシードの気持ちを知ってか知らずか、シェリがラシードの目を見て言った

「…精霊が囚われているみたいなんだ。その子は、とても苦しんでる…僕助けてあげたい。手伝ってくれる?」

シェリの言葉に、ラシードは自分が抱いていた負の感情が消えて行くのを感じる

「もちろんだ」

「ありがとう」

二人は笑いあった



――――



「…許さない」


シェリが運ばれた部屋の前に佇む人影

その背中は憎悪に染まっていく

「愛し子は、一人だけでいい…そう、僕だけで」

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