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第四章 二人の愛し子

第二十九話

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シェリは真っ白な空間にいた。周りには何もなく、だだ真っ白な空間だけが延々と続いている

だが、不思議と恐怖心はなかった。それどころか、懐かしいとさえ思えた

「…ここは一体、っつ!」

前に進もうとした時、激しい頭痛がシェリを襲った。時間で言えば数秒程の短い時間

(また頭痛だ。あの声と、この空間は関係が…)

『…て』

微かに聞こえた声にハッとしたシェリは、辺りを見渡す

(何も、ない)

『…て!』

落胆しかけたシェリに、再び声が届く。シェリは声のした方を向き、ジッと目を凝らした

「……あれは」

真っ白な空間にほんの微か、黒い小さなモヤが浮かんでいた。シェリは迷うことなく、黒いモヤへと走っていく

長い時間走って、黒いモヤまでたどり着いたシェリは、間近で見たそのモヤの正体に胸が締め付けられ、同時に怒りを感じた

扉程の大きさのモヤの中には、膝を抱え俯く少年がいたのだ。衣服は着ておらず、体は無事な所を探す方が難しい程に傷だらけだ

『痛い、怖い、許して』

うわ言の様に繰り返される言葉。シェリには分かってしまう。目の前の少年は精霊だ

「…僕を呼んだのは君?」

シェリは静かに、優しく声をかけた。少年はゆっくりと顔を上げシェリを見つめた

その目は虚ろで、焦点が合っていない

『助け、て…くれる?』

「…勿論だよ。君は何処にいるの?」

『助け、てくれない…誰も…』

「君がいる場所を教えて?」

『…皆、嘘つきだ…』

「お願い、教えて!」

『うそつき』

そう言った少年に耐えきれなくなったシェリは、黒いモヤの中にいる少年を力強く抱き締めた

「大丈夫。必ず僕が助けるから」

その瞬間。シェリと少年は光に包まれた。凍てつく程の空気だったモヤの中には、日溜まりに包まれる、暖かな空間へと変わっていく

『…愛し子、僕を見つけて』

少年がそう言った瞬間、走馬灯の様に少年の見てきたビジョンを見せられる

シェリが少年を見ると、焦点の合った目で少年は優しく微笑んでいた

シェリの頬に一筋の涙が流れる

「必ず」

シェリの言葉を聞き、少年は安堵したかのように目を閉じる

少年は光となり、シェリの腕の中から消えていった

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