6 / 51
第1章 廃棄少女テア
第5話 メルデの村で1
しおりを挟む
川に沿って下ること1時間。遠目に人里が見えた。家は藁葺き屋根のように見える。村の周辺は木材を縦にして並べた柵で囲われており、中の様子はわからない。
「さすがに柵を飛び越えるのはまずいか。入り口を探そう」
見られると困るのでここからは徒歩だ。腕から降りて地に足を付けると、てくてくと歩を進める。
村だから小さい、と思ったらそんなことは無かった。ええ、村の入り口に到達するまでたっぷり1時間歩きましたよ。子供の歩幅だから小さいよね。
「とりあえずここに魔石を埋めよう」
こんなの持って村に入るのも怪しすぎる。どのみち換金できないだろうし、埋めて隠しておこう。村の外にある木の根元に穴を空け、そこに魔石とワイバーンの生肉を隠す。そして上から土を被せ、木の根元にバツ印をつけた。まぁ、盗られたら諦めよう。一応深く埋めたから簡単には取れないと思うけど。
「さて、村に入りたいけど……」
村の唯一の入り口であろう、木の門戸は閉じられている。外から声をかけるしかなさそうだ。ぱっと見私は無害な少女なのだし大丈夫だろう。無理なら街までの道を教えてもらう。とりあえず目的は夜露を凌ぐことだ。
「すいませーーーーん」
私はあらん限りの大声をあげた。誰か気づいてくれることを期待しよう。
「誰だ? 子供だと?」
小さく扉が開き、その隙間から村人が私を見つける。そして顔だけ出し、周りを見て他に人がいないことを確認していた。この若いにーちゃんなかなか用心深そうだ。
「あの、一晩でいいんです。どうか寝る場所をお借りできないでしょうか」
私は精一杯の演技で困ってる風を装った。いや、実際に困っているんだけど、異能のおかげで正直そこまでの焦りはないのだ。
「……どこから来た?」
「え……。すいません、遠くから逃げて来ました」
「訳ありか。ちょっとそこで待っていろ」
若いにーちゃんは一旦門戸を閉じた。多分村の偉い人にお伺いを立てに行くのだろう。
待つこと10分。若いにーちゃんが戸を開けて中へ誘ってくれた。
「嬢ちゃん、入っていいぞ」
「ありがとうございます」
私は深々と頭を下げ、中へと入る。村の中は想像通りの村だった。村人は畑仕事に勤しみ、子供たちもそれを手伝っている。牛や鶏もいるようだ。動物の鳴き声が聞こえた。牧歌的でのどかな村、というのが第1印象だね。いいところだ。
「この子かい? まだ年端もいかない女の子じゃないか」
人の良さそうなおばさんだ。見た感じ30代くらいだと思う。もしこれが現代だったら私は40代と認識するだろうけど。
「でも変だろ。逃げて来たわりには服は綺麗だ。そりゃ多少は汚れているけど。お前まさか盗賊団から逃げて来たわけじゃないよな?」
なかなか鋭い。そういや低空飛行とはいえ、空を飛んで来たから服は大して汚れていない。野宿もしていないしね。
「売られた後です。ずっと向こうの建物から逃げてきたの」
私は自分の来ただいたいの位置を指差した。私の足で歩いていけば1日では着かないだろう。道も覚えていないけどね。変に怪しまれるといけない、と思いバカ正直に答えた。
「あんなとこに建物なんかあったか?」
「どうだかね。とにかく疲れたろ。私はマエルってんだ」
「あ、私はテアって言います。あの、一晩だけでいいんです。馬小屋でもいいので泊めてください」
頭を深々と下げお願いする。ここに長くいる必要はない。とにかく一晩泊めてもらい、街への道を教えてもらおう。
「一晩はいいけど、あんた行くあてでもあるのかい? 街までは歩くと大人でも1日かかる。テアちゃんだともっとかかるだろう。森には魔物だっている。悪いことは言わない、ここでしばらく暮らしな 。どうしても街に行きたいなら、行商人が来た時に頼んでやるからさ」
なんていい人なんだろう。こっちはどう考えても訳ありに見えたことだろうに。
「ありがとうございます」
うーん、気は進まないがそのうちこっそり村を出よう。あまり厄介になるのも悪いし。何よりレオン様にお会いしなければならないのだから。
それでもこの場は深々と頭を下げるべきだ。せっかくの好意だからね。
「今日は疲れただろ? 寝床もちゃんと用意してあげるから付いてきな」
「はい、ありがとうございます」
「お腹は空いてないかい?」
「今は大丈夫です」
ワイバーンのお肉たらふく食べたので。しかしこの人、なかなかの世話焼きおばさんかもしんない。でも嫌いじゃないな、そういう人。無償で人に優しくできる人は凄いと思う。私の、牧田莉緒の優しさには必ず打算があったから。
「さすがに柵を飛び越えるのはまずいか。入り口を探そう」
見られると困るのでここからは徒歩だ。腕から降りて地に足を付けると、てくてくと歩を進める。
村だから小さい、と思ったらそんなことは無かった。ええ、村の入り口に到達するまでたっぷり1時間歩きましたよ。子供の歩幅だから小さいよね。
「とりあえずここに魔石を埋めよう」
こんなの持って村に入るのも怪しすぎる。どのみち換金できないだろうし、埋めて隠しておこう。村の外にある木の根元に穴を空け、そこに魔石とワイバーンの生肉を隠す。そして上から土を被せ、木の根元にバツ印をつけた。まぁ、盗られたら諦めよう。一応深く埋めたから簡単には取れないと思うけど。
「さて、村に入りたいけど……」
村の唯一の入り口であろう、木の門戸は閉じられている。外から声をかけるしかなさそうだ。ぱっと見私は無害な少女なのだし大丈夫だろう。無理なら街までの道を教えてもらう。とりあえず目的は夜露を凌ぐことだ。
「すいませーーーーん」
私はあらん限りの大声をあげた。誰か気づいてくれることを期待しよう。
「誰だ? 子供だと?」
小さく扉が開き、その隙間から村人が私を見つける。そして顔だけ出し、周りを見て他に人がいないことを確認していた。この若いにーちゃんなかなか用心深そうだ。
「あの、一晩でいいんです。どうか寝る場所をお借りできないでしょうか」
私は精一杯の演技で困ってる風を装った。いや、実際に困っているんだけど、異能のおかげで正直そこまでの焦りはないのだ。
「……どこから来た?」
「え……。すいません、遠くから逃げて来ました」
「訳ありか。ちょっとそこで待っていろ」
若いにーちゃんは一旦門戸を閉じた。多分村の偉い人にお伺いを立てに行くのだろう。
待つこと10分。若いにーちゃんが戸を開けて中へ誘ってくれた。
「嬢ちゃん、入っていいぞ」
「ありがとうございます」
私は深々と頭を下げ、中へと入る。村の中は想像通りの村だった。村人は畑仕事に勤しみ、子供たちもそれを手伝っている。牛や鶏もいるようだ。動物の鳴き声が聞こえた。牧歌的でのどかな村、というのが第1印象だね。いいところだ。
「この子かい? まだ年端もいかない女の子じゃないか」
人の良さそうなおばさんだ。見た感じ30代くらいだと思う。もしこれが現代だったら私は40代と認識するだろうけど。
「でも変だろ。逃げて来たわりには服は綺麗だ。そりゃ多少は汚れているけど。お前まさか盗賊団から逃げて来たわけじゃないよな?」
なかなか鋭い。そういや低空飛行とはいえ、空を飛んで来たから服は大して汚れていない。野宿もしていないしね。
「売られた後です。ずっと向こうの建物から逃げてきたの」
私は自分の来ただいたいの位置を指差した。私の足で歩いていけば1日では着かないだろう。道も覚えていないけどね。変に怪しまれるといけない、と思いバカ正直に答えた。
「あんなとこに建物なんかあったか?」
「どうだかね。とにかく疲れたろ。私はマエルってんだ」
「あ、私はテアって言います。あの、一晩だけでいいんです。馬小屋でもいいので泊めてください」
頭を深々と下げお願いする。ここに長くいる必要はない。とにかく一晩泊めてもらい、街への道を教えてもらおう。
「一晩はいいけど、あんた行くあてでもあるのかい? 街までは歩くと大人でも1日かかる。テアちゃんだともっとかかるだろう。森には魔物だっている。悪いことは言わない、ここでしばらく暮らしな 。どうしても街に行きたいなら、行商人が来た時に頼んでやるからさ」
なんていい人なんだろう。こっちはどう考えても訳ありに見えたことだろうに。
「ありがとうございます」
うーん、気は進まないがそのうちこっそり村を出よう。あまり厄介になるのも悪いし。何よりレオン様にお会いしなければならないのだから。
それでもこの場は深々と頭を下げるべきだ。せっかくの好意だからね。
「今日は疲れただろ? 寝床もちゃんと用意してあげるから付いてきな」
「はい、ありがとうございます」
「お腹は空いてないかい?」
「今は大丈夫です」
ワイバーンのお肉たらふく食べたので。しかしこの人、なかなかの世話焼きおばさんかもしんない。でも嫌いじゃないな、そういう人。無償で人に優しくできる人は凄いと思う。私の、牧田莉緒の優しさには必ず打算があったから。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
私は逃げます
恵葉
ファンタジー
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
パパー!紳士服売り場にいた家族の男性は夫だった…子供を抱きかかえて幸せそう…なら、こちらも幸せになりましょう
白崎アイド
大衆娯楽
夫のシャツを買いに紳士服売り場で買い物をしていた私。
ネクタイも揃えてあげようと売り場へと向かえば、仲良く買い物をする男女の姿があった。
微笑ましく思うその姿を見ていると、振り向いた男性は夫だった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる