ラスボス廃棄少女は幸せになりたい

まにゅまにゅ

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第1章 廃棄少女テア

第2話 私はラスボス廃棄少女2

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    なんだろうこの嫌な臭いは。まるで腐った卵をより一層濃く、深くしたような臭い。こんな所に居たくない。

「ううっ……」

    私はゆっくりと目を開ける。確か私は注射を打たれてそれで気を失って……。

    ふと周りを見る。それでこの嫌な臭いの正体がはっきりとした。周りは死体だらけだ。酷いものだと蛆虫が湧いて肉が溶けているものまである。虫が飛び交い、腐臭漂う害虫のパラダイスか。私には地獄でしかない。死体の周りには木々と建物がある。多分これらの死体はあの建物から捨てられたのだろう。

「……! さ、サーラ……!」

    私のすぐ近くにサーラが横たわっていた。瞳孔が開いており白目を向いている。脈を取ってみたが、全くなし。心音もなければ呼吸もしていない。

「し、死んでる……!」

    この世界で唯一の知り合いサーラ。私個人は出会ってから間もない他人同然だが、テアの記憶では仲の良い友だちだった。それがもういない。私は悲嘆に暮れ、涙をぽつぽつと落とす。

 この感情はテアのもの?
 それとも私のもの?
 わからない。でも今はそんなことどうだぅていいのだ。胸が張り裂けるほどの悲しみと大事なものを失くした焦燥感が私を支配している。それが純然たる事実であり、逃れられない現実なのだ。

「こんなとこじゃ寝れないよね……。せめてちゃんと土に還してあげたい」

    そう思ったが非力な少女の私、テアでは無理だ。
    と、そこで思い出す。そうだ、私は注射を打たれたとき、この世界は乙女ゲーム『君の願いは誰がために』の世界だと気づいた。ならばあるはず。テアのあのぶっ壊れ能力が。

「私にはあのラスボスの能力があるはず」

    あのゲームのテアの能力は【神と悪魔の手】という見えざる手による攻撃と防御だ。見えないという反則級の能力だけど、聖女の魔法で正体が暴かれるのよね。確かこの能力は魔神の血によって目覚めたはずだ。どうやったら出るかわかんないけど、とりあえずやってみよう。

「手出ろ!」

    するとぽんぽん、と8本くらい腕が出てきた。1本あたりの大きさは大人の腕より少し大きいくらいだ。これでサーラを運べないだろうか。この腕は私の意思通りに動くはず。きっとできる。

    そう思い動かしてみる。サーラの身体は軽く、2本の腕で軽々と持ち上がった。なら残りの腕で自分も持ち上げてしまおう。

  ふわり。

    いとも簡単に自分を持ち上げる。よし、まずはここから出よう。私が生きて能力に目覚めたことが知られると面倒だ。

    私は腕を操作し、死体の山を下ってサーラを連れて森の中に入った。幸い天気が良く、それほど暑くもない。少し奥に入ると死臭もしなくなり、森林特有の緑の匂いがしてきた。

「この辺でいいかな。サーラ、ここでおやすみ……」

    私は地面に降り立つと、神と悪魔の手を使い穴を掘った。黒い手には破壊の力があり、その魔力波で地面に大穴を空ける。その中にサーラを横たわらせ、周りの土をかけて埋めた。こうも易々と能力を使えるのも私が原作を知っているからだろう。

「あなたの冥福を祈るわ」

   私は膝をついて両手を合わせる。そしてふと気づく。

    どうして私はサーラを亡くしたばかりなのに、こんなに早く立ち直っているのだろうか。確かに私個人の記憶では知り合ったばかりだ。きっと感情がそちらに支配されているのだろう。私はそんな冷血漢じゃないと思いたいが、自分が人でなくなったのではないか、という嫌な考えがよぎる。

「よそう。今ネガティブな感情に支配されるのは良くない。これから私は生き抜かなくちゃならないもんね」

    空を見上げて独りごちる。生きていくなら希望が必要だ。心の支えになる何かが欲しい。幸いここはあの『君の願いは誰がために』の世界だ。ならばこの世界のどこかにレオン様がいるはず。設定通りなら今は原作の5年前だし、探す時間はあるはずだ。

「よし、私は生き抜く!  そして推しのレオン様に一目お会いしたい。あわよくばラブラブになるのよ!」

    もうこれしかないだろう。はっきり言ってこれは自己暗示だと思う。しかしそうでもしないとこの世界を生き抜く気力が湧かないかもしれないのだ。

    何せ私は不遇ラスボス廃棄少女。これから先どんな困難が降ってわいてくるのかわかったものではない。牧田莉緒の私が味わった不幸が「大したこと無かったね」と笑えるくらいの不幸がストーカーよろしく付いて回るはずだ。

「どんな困難だって生き抜いてやる!  そして私の推しへの愛を証明してやるんだから!」

    傍から見たらツッコミどころ満載のセリフだが、自分のこうあるべき、という想いは口に出すべきなのだ。

    私は高らかに天に向かって宣言すると、鼻息をふんす、と荒げて拳を握りしめるのだった。 
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