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1章「はじまりの道編」

6話「アカデミーその①」

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その日、リリィちゃんの部屋をノックしたものの完全無視され、泣く泣く一人で寝ることにした。あてがわれた部屋は元々お客さん用の部屋らしく、私物が非常に少なく、住人の個性を感じる物が少ない簡素なものだった。ベッドで大の字になるものの、やはりすぐには寝付けなくて、本棚にあった本を適当に読む。ロマンス小説は砂吐くほど甘くてパス。これは誰の趣味だろうか……と考えたが2秒でやめて、旅のガイド本を見てのんびり過ごした。画像付きで暇つぶしにはもってこいだ。



思えば一人でいるのは久しぶりだ。いつもは友達なり、兄貴なり、誰かしらが私の周りにいる。一人でいるのも別に悪い気分ではない。たまにはゆっくりするのも必要だ。だが、どこか寂しさを感じる。胸に塞ぎようのない空洞があるのを感じていた。っていうか、みんなどうしているのかな。私がいなくなってどれだけの時間が向こうでは過ぎているのだろうか。心配していないといいのだけれど。




「あ~寝よ寝よ」




でも、明日になれば一人ではないはずだ。活字に目を通していたおかげで割と早めに眠気がやってきた。これを利用しない手はないね。ゆっくり寝て明日に備えよう。







次の日の朝。





「オハヨー!オハヨー!」




いつの間にか寝てたらしい。上から羽音とうっさい声が聞こえる。目を開けると、バカでかいオウムが「オハヨー!」と叫びながらぐるぐる飛んでいる。これが起床魔法かよ……単なるオウムじゃねぇか。




「シャワーして、ハヲミガク、トイレヲスマセ、ジュンビガデキタラ、ソトヘデル。
カオアラウ、ハヲミガク……」




「わーたよ。っていうか、洗面所どこにあんの。つか、リリィちゃんは?」




「リリィ、ドッカデカケタ。センメンジョ、アンナイスル」




「へーい」



と、案内される。
お手洗いを済ませ、シャワーでふうと回復。お湯が張っており、ついでに風呂も済ませる。日本とやり方が違う……かと思いきや、ほぼ同じだ。少しデザインが違うくらい。おかげで戸惑うことなく、少しはのんびりできた。ちなみにオウムが替えの服と下着を用意してくれた。




下着を装着、スクールブレザーを着て、スカートを履く。
ブレザーの上からマントを羽織り、ベレー帽を被って完了。
お、いい感じ。サイズもぴったり。


準備を整えて外に出ると、ソフィア先生が待ってましたと言わんばかりに鼻息を荒くしていた。なんと馬車もある。



「準備は済んだか? さっそく行くぞ」



「先生、馬車で行くんですか? 魔法使いだからほうきかと思いました」



「アオイは箒に慣れていないだろう? それに箒も乗る奴を選ぶからな。まあ、その内教えてやるさ。とにかく乗るといい」


「はあ~い。でも、御者ぎょしゃさんいないんですが」



馬車には馬が二頭いるだけだ。
馬を専用座席から操作する作業者の御者さんがいない。



「あれは特殊な早馬だ。魔馬車と言って、目的地に確実に向かってくれる。少し値段が張るが、すごく早いぞ。御者はいないが、馬は目的地を把握しているから大丈夫だ」



タクシーみたいなもんかな?
取り合えず乗ることにした。
世間話でもしようと思ったが、馬は全速力で飛ばす。
でも、風とかGの圧力は感じなかった。これも魔法の力なのかな?
というか、風景を楽しむ暇もなく、ものの数分もしない内に馬車は停車する。
なんという速さだ……タクシーというより新幹線だわ。




「よし、降りよう」


「え、もう着いたんですか……」



先生が降りたのを見て、私も続いて降りる。
もうちょい背景を楽しみたかったが、まあいいか。
それはまた今度の機会にしよう。




「オーナーお疲れ様です」



と、丁寧に頭を下げる女子おなごが一人。
髪は金髪のショートでウェーブ。
顔立ちは少し大人っぽい気もするが、背は140ぐらいで私より10小さい。
あれ、このおっぱい小っちゃい女の子は。




「マキア、出迎えご苦労。休みなのに呼び出してすまない」



「いえ、大丈夫です。ところで、そちらが」



「あなたがマキちゃんね!! 雑誌で見たわぁぁぁ!!」




と、私は大げさに彼女の肩をバンバン叩く。
マキちゃんは少しムッとしたようだけど、咳払いして続ける。



「あ、あなたがアオイさんね? お話は昨日、オーナーからお伺いしました。
アカデミーの転入を希望していると」



「うん、そだよー」



「では、転入試験を受けてもらいます。それに合格すればあなたを我が校の生徒として認めましょう」




「なるほど、試験か」




一般の学校でも外部試験や転入試験はある。
こういった学校なら尚更そういうのがあるだろう。
しかし、勉強してない……というか、この世界の事ろくに知らないのにできるのかな?



「試験の模様は全てロロムに配信されます。一切の不正はできません。よろしいですか?」



「何、ロロムって?」



「あなた、ロロムも知らないの? 相手と個別で通話したり、文字でやり取りができる小型端末よ。私のは学園から支給された特別製で生配信するのにも利用できるスグレモノ。これであなたの試験を全国の人々が視聴できるというわけ。アーカイブも残るから言い訳はなしよ」


マキちゃんはロロムを操作すると、宙に浮いた。どうやら今まさに映像わたしたちを撮っているらしい。大物人気配信者になったような気分だ。やっほ~と手を振ってあげた。視聴者たちはどんな風に私たちを見ているんだろうか。動画共有サイトで楽しんでいるのかな? この世界にもそういうのがあるのね。



「試験は三項目あります。それらを合格すれば、入学を認めます。一つでも落とすと、その時点で失格になるので注意よ」



「で、マキちゃん最初は何すんの?」



「……まずは魔力量が既定の数値あるかどうかの検査よ。いくら入りたい意欲があっても魔力が少なければ才能は無いからね。雑誌で見たことがあるなら、私の魔力値10万も知っているでしょう? ふふ、学園内では最高記録なのよ。100年ぶりの更新なのよ」



と、マキちゃんは鼻高々と言った感じで自慢している。
わかりやすい子だな。



「合格にはどれだけ必要?」



「基本的には1万を超えればいいのだけど、転入の場合は3万超えが条件よ」



「で、どうやって測るの?」



「カメコ様!」



と、マキちゃんが呼びかけると、男子生徒二人が小さいミニチュアのドールハウスの家を慎重に持ってこちらに向かってきた。家を地面に置くと、ドアが開き、中から亀が姿を見せる。私はしゃがんで亀をじっと見る。



「おはようさん。私みたいなババに何かご用かね?」



「おはようございます。亀のお祖母ちゃんかな? かわいいですね」



「あらあら、お上手だね、お嬢ちゃん」



「こちら、カメコ様は何百年も前から生き続けているこの国の生き字引。各国の国王に意見できる数少ない御方です。長年、我が学園の魔力測定を務めていますわ。妹のカメヨ様と二人で測るの通常だけど、今は他国で仕事をしててね。カメコ様に測ってもらいましょう」



「おばあちゃんにどうやって測ってもらうの?」



「おばあちゃんとは失礼な! ちゃんと敬称をつけなさい!」



「いいんだよ、マキアちゃん」



「ですが……」



「アオイちゃん、あたしに向かって、何でもいいから魔法を撃てばいいんだよ。あたしゃ魔法は使えないけど、魔法は一切効かないんだ。これはあたし達、神亀しんき族の特徴でねぇ」



「なるほど。シンプルでわかりやすいですね」



と、周囲にいつの間にかギャラリーができているのに気づく。学園の中も外もワイワイガヤガヤしている。見た感じ、10代の女の子が多い印象だ。私と年齢あまり変わらない感じかな? 中には私とマキちゃんで食券を賭けている人も。生配信を見て気になった学生たちだろうか。




「人が増えてきたわね、ひとまず測定はグラウンドでやりましょう。輸送班、カメコ様をグラウンドまでお願い」



「はっ!」



男子二人は敬礼し、再び家にカメコ様が入ったのを確認してから丁重に運んだ。
よほど、カメコ様は敬われているのね。



「ねえ、マキちゃん。ただ試験受けるのもアレだから賭けをしない?」



「金銭的な物や特定の物を渡したりするのは禁止されているわ」



「そのどっちでもないよ。負けた方が学園にいる間、相手の相棒になるの。時に親友、時に恋人、時に秘書。朝、昼、夜を問わず、忠義を尽くし、相手に奉仕するの」



「それ、奴隷になれって言ってるのと同じよ」



「そこまでは言ってないよ。それとも負けるのが怖いから、こういう勝負は嫌い?」



「……言っておくけど、魔力値10万は並大抵のことではできないのよ。3万に引き下げているとはいえ、それでもかなりのレベルよ。アカデミーを卒業しても3万を超えた先輩はほんの一握り。オーナーの親戚と聞いてはいるけど、さすがにね」



「ふ~~~~~~~ん、そうやって断るんだ? 自分に自信ないんだ? 魔力値10万って散々自慢してたくせに抜かれるのが怖いんだ? ふ~~~~~~~ん」




「………なんですって?」




「その自信満々の鼻っ柱、叩き折ってあげる♡ あんたの10万軽く超えてあげる」



私のセリフにギャラリーがどよめいた。
あいつ正気か、ふざけているのか、こりゃ面白い。
色々な声が聞こえてくる。



「……なかなか大口叩くじゃない。じゃあ、魔力値10万を超えて、尚且つ他の試験も見事合格してみなさいよ。そうしたら、あんたの奴隷でも恋人でも、し、親友にでもなってやるわ!」



今、親友の所だけドモったな?
もしかしなくても友達いない?
まあ、どっちでもいいや。
勝てばいいんだからね♡



「交渉成立ね☆ よっしゃがんばるぞーー!」




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