私の担任は元世界的スター

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レオ・グリシヤ

名前を呼びたい

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神崎さんの件が落ち着いた後、金木先生も凛仁さんもレグリーの事を“レオ”と呼ぶ事が増えた。まぁ、2人からしたらそれが普通だったんだろうけど、レグリー呼びが私だけという現実に少し寂しさを覚える。

もちろん、特別感を感じてない訳じゃないけど…やはり疎外感というか、生徒と教師の一線を超えない為だけの呼び名になっている気がしてしまうんだ。


そんな寂しさを抱えながらも、今日も平和に放課後の文化祭準備が行われる。

「あれ、綾城は?」
「知らねぇまたサボりじゃね?」
「えぇぇ飾りとか聞こうと思ったのに」

そんな生徒たちの会話も今週何回目だろう…綾城がサボるのはいつもの事。たまに数学の丸つけを教室でしてるけど、基本は職員室か綾城しか入れない屋上でタバコを吸ってる。

「ねぇ健人、看板のフォントってこんな感じで良いと思う?」
「お、良いんじゃねぇ!?なぁ葵」
「うん!莉緒に頼んで正解だった!」

それぞれが作業をしていると、教室の扉が開き珍しく金木先生がクラスに顔を覗かせた。

「数学担当の方はいらっしゃいますか?」
「え、俺ら?」
「だね」

数学担当という事は、綾城の呼び出しなのだろう…私と健人は作業を中断させ金木先生の元へ向かう。

「金木先生、綾城の使い?」
「まぁそんな所ですね、プリントの丸つけ終わったので取りに来て欲しいそうですよ」
「ぇぇえ…自分で教室戻ってくりゃ良いじゃん、あのクソ教師」
「淹れたての珈琲が冷めるの嫌らしいです」
「そんなの知らない」
「まぁまぁ莉緒、とりあえずどうすっかな…俺が行ったら葵のミスカバー出来ねぇし」

そう、葵と健人は合同で細かい作業をしていた。私と葵は細かい作業苦手だというのに、健人の器用さには驚かされる。

「なら行ってくる。文句も言いたいし」
「悪いな!」

こうして私は教室を出て、金木先生と共に職員室へと向かった。



「失礼します」
「おぉ、来たかってお前一人か?」
「皆忙しいの、綾城みたいにグーダラしてないもん。てかプリント明日じゃダメなの?」
「明日は土曜日だろうが」
「あ、そっか」

金木先生は、私たちの会話に笑みを浮かべ自分の席へ戻り仕事を始める。すると3年担当の女性教師が「レオ先生」なんて、馴れ馴れしく名前呼びで声を掛ける。

…金木先生でも綾城なのに…

「で、山本これなんだが…」
「…」
「おい山本、またボーっとしてんのか?」

気付けば綾城の女性教師との会話は終わってたらしく、大量のプリントをカゴいっぱいにして声を掛けてきた綾城。

「…何」
「お前、最近不機嫌だなぁ」
「別に…これ持ってくの?」
「あぁけど重いから山崎と…」

綾城が言い終わらない内にカゴを持とうとしたが、重すぎて持ち上がらない…

「重っ…」
「だから言ったろ、はぁ…仕方ねぇ半分運んでやるから寄越せ」
「…なら綾城が運べば良かったじゃん」
「お前が1人で来るのが悪い」
「私悪くないし」

こんな風に嫌な態度を取れるのは、私がレグリーに甘えてるからなんだろう…それでもよろしく無いのは自分でも重々承知していた。けど彼は、そんな態度も許して「ほら行くぞ」って私に少量のプリントが入ったカゴを手渡してくれる。

何で怒らないんだろ…


そう思いながら廊下を歩いていると、綾城は教室とは真逆の数学準備室へと向かった。

「どこ行くの?」
「良いから着いて来い」

それだけ言った綾城は準備室へ入るなり鍵を閉め、プリントを置いて椅子に腰かけた。

「……」
「なぁ莉緒。最近どうした?また親父さんに何か言われたのか?」
「…違う」
「あんま長居も怪しまれる。5分やるから話せるなら話してみろ」
「何でここで」
「家だと話逸らすだろうが」
「…」

彼の言う通りだ、私が拗ねる度にレグリーは私に問い掛けてくれていた。けどいつもテレビや本で誤魔化して素直に言えないでいる…理由は勿論、迷惑になるから。

私もレオって呼びたいなんて…この関係を思えば辞めた方が良いに決まってる。これ以上、レグリーに迷惑かけたくないんだ…

「言わねぇなら教室行っちまうぞ?」
「…我儘言っても怒んない?」
「ん」
「迷惑掛かる事言っても嫌な顔しない?」
「おう」
「…なら…言う」
「ん、全部言って楽になっちまえ」

ゆっくり深呼吸して、私はこの数週間思い続けたモヤモヤを口にする事にした。

「…皆がズルかった。皆…神崎さんも金木先生も凛仁さんも、レグリーを昔から知ってる人は皆レオって呼んでて…もちろん、レグリーって名前も好きだし、その方が良いのも分かってるけど…私だけ違う…。レグリーの昔の事なんて私は知らないし、さっきだってあの先生、名前呼びしててムカついた」


貯めてた思いをぶつける様に全てを話すと、綾城は少し安心した様子で「そんな事か」と私の頭を撫でた。

「そんな事って何よ…」
「普通に呼べば良いだろ」
「へ?」

正直、拍子抜けした。
綾城はそんなの気にしてなかったの?

「名前でもレグリーでも莉緒が呼びたい方で呼べば良いだろ?さすがに校内はマズイが、ふっ…そうか、最近元気ねぇと思えばっククッ」
「ちょ、笑わないでよ!こっちだって必死に考えてたんだからっ」
「悪い悪い、妬くのも可愛かったから」
「っ…//」
「けど、なんでダメだと思った?俺、なんも禁止にしてねぇだろ?」
「だって…私と綾城は先生と生徒だし」
「学校ではな?」
「外でだって誰が見てるか分からないし」
「ん、けど家の時くらい良いだろ」
「……癖ついて間違えたり」
「名前、呼びたいの呼びたくねぇの?」
「…呼びたい……」

素直に口に出すと綾城は「なら家ではそう呼べ」と微笑んでくれた。確かに職場や学校では難しくても、家に居る時くらいは呼べるんだ。

そう思うと少し疎外感も薄れた私は、思わずギュッと綾城に抱き着いた。

「レオ好きっ」
「おう、けどここ学校な?」
「今誰も居ないもん、レオだって莉緒って呼んだじゃん」
「まぁ、ん、そうだな」

こうしてレオ呼びが許された私は、上機嫌でレオと一緒に教室に戻ったのであった。




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