私の担任は元世界的スター

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初恋

もう一つの顔

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ーーーー綾城side



俺は今、髪を下ろし元の姿“レオ・グリシヤ”として撮影現場のビルへと来ていた。

教師としての職務を終えた俺は前の仕事の同僚であり、友人の“須屋 凛仁”を手伝いに来たのだ。

テレビに出る事は辞めたが、こうして友人の頼みを聞く雑用ならば顔を出しても良いと思えたのは、倫太郎も共に居てくれるからだ。

凛仁の撮影を終え帰る支度をを始めた俺ら3人

「お疲れさん」
「お疲れ様」
「いやぁ雨降りそうなのに、ありがとなぁ?」
「これくらい構わねぇよ。この後ウチ来んだろ?先に行っててくれ」
「お?レオは用事?」
「久しぶりのその姿だ。あまり目立つなよ?」
「あぁ、分かってる」

二人を先に家に向かわせれば、窓際に置かれた喫煙所で一服をする事にした俺。タバコの煙を吐き出しながら窓の外を眺めると、既に本降りになった雨が仕事の疲れを倍増させる気がした。

暫く外を眺めていると、目の前の公園のベンチで傘も持たず丸くなる女性を見つけた。どこか山本に雰囲気が似てる気もするが、彼女がこの道を通る事は無いはずだ。

だが、もし山本であれば何かあったに違いない。本人かも定かでは無いが念の為、傘を渡してやろうとタバコの火を消しもう一度窓の外へ目を移した。

するとその矢先、山本に似たその女性は草むらの死角へと連れ込まれてしまう。

俺は直ぐに警察へ連絡し、公園へと走って行けば不埒な男を蹴り飛ばしていた。

お陰で傘を忘れたのを後悔したが、もうそれどころでは無い。驚き今にも泣きそうなその女性は確かに山本莉緒だし、震え怖がっている様子だ。彼女が山本であれば警察へ引き渡すのはマズイと考えた俺は、駆けつけた警察にだと説明し帰ってもらう事にした。

「お前、こんな所で何してんだよ」

そう問い掛けたが、彼女は俺を綾城レオだと認識していない様だった。俺を見上げてキョトンとする表情は少し可愛くも見える。

髪を下ろして髭も身嗜みも整えただけで、ここまで気付かれない物なのだろうか?

そして名前を聞かれた俺は、咄嗟に「レグリー」と答えてしまった。そんな咄嗟の嘘ですら簡単に信じてしまう山本だが、自分でも名前のセンスに呆れてしまいそうだ。

自身の付いた嘘に戸惑っていると、山本は礼儀正しくお辞儀し丁寧に礼を述べる。学校では無口で口の悪い子だが、他所では案外しっかりしているらしい。

「お前、この後予定は?」
「え?」

俺は何を言っているんだ?
相手は山本で俺の生徒だぞ…

家に入れるのは宜しくない。

そう理解していても服が透けて寒そうな彼女を放って置く訳にも、あの家に返す訳にも行かない…今なら家に倫太郎も居るし、俺は綾城レオでは無く“レグリー”としてここに居る。

そう思うと俺は言葉を止める事が出来なかった。

「あの…自分で何言ってるか分かってます?」

あぁ、分かってる
俺も俺の止め方知りてぇよッ!!

だが時既に遅し…ごめん倫太郎。
お前を利用させてもらうぞ。

金木という名を出すと安心した山本。こうして俺は山本を車に乗せ家に帰ることとなった。




自宅に戻り生徒を家に入れてしまう俺は、倫太郎から鋭い視線を食らう。

「お、お邪魔します…」
「あれ?女の子だっ!」
「山本さんッ!?」

チャラい凛仁はさて置き、倫太郎はずぶ濡れの山本を目にすれば近くにあったブランケットを持って山本に掛けてやる。

「金木…先生っ」

倫太郎を見て安心した山本は、再び泣きそうになるもぐっと堪えていた。

「あぁ何だ、倫太郎の生徒か」
「お前の生徒だろ?さっきそこで拾った」

白々しく付く嘘に倫太郎は再び俺を睨みつけたが、直ぐに状況を悟ってば「あー、そうですね」と冷たく答えた。

「とりあえず山本はシャワー浴びて来い。そのままだと風邪引くだろ、洗濯機も乾燥機も好きに使え」
「え、でも…」

知らない人…それも男の家で風呂に入る事に抵抗があるのだろうか?戸惑う彼女に俺は、いつもの様に頭に手を置いて撫でてしまう。

「遠慮すんな」

ペコッとお辞儀した山本が脱衣場へ向かうと、俺は一気に気が抜けその場に座り込んだ。


「なぁ…倫太郎。俺って馬鹿だよな」
「今更ですか」
「レオちんが向こう見ずなのは昔からでしょ?」
「はぁぁ…」
「ところであの子誰?結構可愛いじゃん?」
「俺の生徒だ。手出したらその舌切り落とすぞ」
「レオちん怖っ!」

ケラケラ面白がる凛仁は遠慮なくテーブルの上のお菓子を食べ始め、次に倫太郎が山本の話を振ってくる。

「あの子は貴方が綾城だと知らないんですか?」
「あぁ…自分でも分かんねぇけど咄嗟に偽名を言っちまったしな」
「偽名?」
「…レグリー」

俺が名前を言うと声を上げ大笑いする凛仁と口を押え必死に笑いを堪える倫太郎。自分でもセンス無いと理解してるが、ここまで笑われると自分が情けなくなってくるものだ。

「レオちん最高っぷふっ」
「レオ・グリシヤだから…レグリーっくくっ…何だか短絡的というか…ふふっ」
「笑えねぇよクソが」

そんな会話をしていると、山本がチラリと俺らの居るリビングに顔を覗かせた。

「あ…あのぉ」
「どうした?」
「…服…」
「あ…」

山本に風邪を引かせない事ばかり考えて、彼女の着替えをすっかり忘れていた俺に凛仁は再び腹を抱えて笑い始める。

「っあははっもう今日最高っ!」
「凛仁、笑ったらに失礼ですよ?」
「だってコイツっくふ、あははっ無理っ腹裂けるっ」
「レグリー、何か服を貸してあげては?」
「そうだな…山本、少しでかいと思うがTシャツとかで良いか?」
「はい、ありがとうございます」

俺は自分が部屋着にしていたTシャツと半ズボンを彼女に手渡した。タオルを体に巻き、手を伸ばした山本…俺は彼女の体型を見て素直に“綺麗”だと感じた。

勿論、モデルや女優も綺麗な人は沢山見て来たが、それとは何か違う…俺はそれが何なのか、まだ分からなかった。






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