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第53話 惨劇の始まり
しおりを挟むすると場面がめまぐるしく動き始めた。次に目を開けたとき、俺たちの目の前に飛び込んで来たのは信じられない光景だった。
炎に包まれるイースの街。
そして空を覆い尽くすのは大量の竜たち。
ぬらぬらとした鱗が光を滑らせる。
竜たちは次々にイースの人々に襲い掛かり、食らい付いていく。
ぎゃあという悲鳴と、ほとばしる鮮血。
竜はその鋭い瞳で獲物を捉えると、素早い動きで次々に仕留めていく。
俺の横でルーナがうえっと吐き気を催しているようだった。
「な、なんだこれは!? 竜!? 」
ベルグさんが俺たちの気持ちを代弁するようにこう言った。
「何が起きてるんだ……!? 」
「ベルグさん! こっち! 」
大巫女様が声を荒げ、ベルグさんの手をひいた。
「大巫女様……!! 一体これは……」
すると大巫女様はスッと細く白い指を竜に向けた。
「……あの竜の額を見や。こういうことは貴方の方が分かるやろ」
「額……? 」
その声に釣られて視線を移す俺たち。
そこには見たことがない紋章が刻まれていた。
祈りを捧げる女神の姿が刻まれたエンブレムだ。
「アルノーヴァ帝国!! 」
ベルグさんとルーナの声が重なった。
「アルノーヴァってえっと、王国の次にでかいという? 」
俺はあまりぴんと来ないため、そう問いかける。
「そうだけど……いや、でも……」
ルーナがもごもごと口ごもる。
するとまるでベルグさんが俺の質問に答えるようにこう言った。
「そんな、有り得ない! 帝国がこんな残虐な行為を行うなんて……!! 」
「我とて信じられぬ。恐らく目的は……巫女に伝わる神話じゃろうな」
「神話……? それってさっき聞かせて頂いた……」
「帝国にとってイースの民は邪魔なんじゃろう。いや、イースの民がというよりもイースの民に伝わる神話が」
「そんなことで!? そんなことで人を殺して良い訳がない!! 」
大巫女様はとある所でピタリと足を止めた。
そこはシェルターのような大穴だ。
「のう、ベルグさん」
「はい? 」
「我はこの国と共に滅ぶ、さすれば奴等は神話も途絶えたと勘違いするじゃろうて」
「え、それはどういう……? 」
次の瞬間、大巫女様はベルグさんをその大穴に突き飛ばすと、扉を閉めた。
バチン! と激しい音をたてて閉まる扉。
「大巫女様……!! 」
「この神話を伝えられるのは君しかもうおらぬ……!! 厄介なことを押し付けてすまないな」
「大巫女様……!! 開けてください! 」
ドンドンと扉を叩くベルグさんだったが、何か魔法の力で閉ざされているのか、ビクともしない。
「……我はもう行く。我の命を差し出せばもしや民の命は助けて貰えるかもしれんからの」
「大巫女様……!! 大巫女様……!! 」
「さらばだ、ベルグよ。最後にそちのような者と話が出来て楽しかった。今度は冥府で続きを語ろうぞ」
足音がドンドン遠くなっていく。
それと同時に外の物音は激しさを増していく。悲鳴、何かが壊れる音、木々が倒れる音。
思わず耳を塞ぎたくなるような状況だ。
「……ああ」
ベルグさんは諦めたようにその場に座り込んだ。
「……ベルグさん!? 」
そのとき、暗闇の奥から誰かが声をあげた。
声のした方にいたのは、サクヤだ。
顔を血で真っ赤に染め上げながらも怪我はないようだ。
「サクヤちゃん!? 」
「皆にここに入れられて……!! それで、出れなくて……」
ひどく取り乱したサクヤが瞳からボタボタと涙を流して訴え続ける。
「お、落ち着いて。ほら、ゆっくり息を吐いて、吸うんだ」
はぁ、はぁとか細い息を繰り返すサクヤ。
そしてわぁ! と次の瞬間に泣き出した。
「セイヤが……セイヤが! 」
「一体何があったんだい? セイヤくんは……」
サクヤはぐしぐしと乱暴に涙を拭うと、ポツリポツリも話し始めた。
「いきなり知らない竜が私たちに襲いかかってきたんや……そのときセイヤとはぐれちゃって……でも近所の人がうちの手を引っ張ってここに入れてくれたん……」
するとサクヤは扉を何度も叩く。
「でもうちはセイヤを探しに行かんと……! それにお母さんもどうなっとるか分からんのや……」
ベルグさんはおそらく大巫女様に言われた言葉を思い出していたのだろう、辛そうに顔を歪めた。
が、彼なりの優しさ故か、何も言えなくなっていた。
「……きっと大丈夫だ。セイヤくんも誰かに保護されているだろうし。あんまり動くのは危険だから今はここでじっとしていよう」
「そうやろか……」
「そうさ。サクヤちゃんが怪我なんてしたら皆に心配かけてしまうだろ? 」
するとサクヤは考え込むように下を向いたが、あるときこくりと頷いた。
「それも……そうやな。分かった。うちしばらくおとなしくしとるわ」
「ああ、外の様子が落ち着いたら一緒に皆を探しにいこう」
ベルグさんとサクヤは互いに顔を見合わせると、深く頷き合ったのだった。
そして俺はおおよそこの物語の結末に予想がついていた。
しかしそれを口に出すにはあまりにも残酷な未来だった。
「パパ……サクヤさん……」
隣のルーナはただ祈りを捧げていた。
そんな姿をルークは目を細めて見ているのだった。
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