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第52話 懐かしい街
しおりを挟む「なんつーか……変わった町だな。日本みたいだ」
まるで日本に戻ってきたような、そんな感覚に陥る。
「日本? 」
「いや、何でもない」
やばいやばい、ここは地球じゃないんだ。伝わる訳がない。
『ここはイースという国です、変わった文化が根差した国です』
ルークがさらりとそう言った。
「イースか……」
すると目の前にこの和風な町並みとは似使わない男性が姿を現した。
「パパ……! 」
思わず声をあげるルーナ。
しかし勿論彼に言葉は通じない。
「いやぁ、本当に面白い街ですね。僕たちとはまるっきり文化が違う」
「そうですか……? つまんない場所よ」
そしてその横にいるのは黒髪の美少女、おそらくサクヤだ。しかし今のような快活さはなく、むしろおしとやかな大和撫子という風貌だ。
「はは、サクヤちゃんには見飽きた風景かもね。今度は僕の国に遊びに来ると良い。娘も喜ぶよ」
「うん! 」
すると姉ちゃん! という声と共に黒髪の少年がパタパタと走り寄ってきた。
「セイヤ! 」
サクヤは彼のことをセイヤと呼ぶと、ぎゅっと抱き止めた。
「またベルグさんとお話してるん? 」
「そうや、うちはいずれこの国を出て広い世界を見たいんよ。そのために色々聞いてるん」
「えー! 僕も連れてってよ! 」
「やーよ、セイヤはおねしょするやない」
ケチ! と頬を膨らませるセイヤを悪戯っぽい笑顔を浮かべてからかうサクヤ。本当に仲の良い姉弟のようだ。
「でもセイヤって……あのキツネの名前じゃ……」
一体何がどうなっているんだ?
俺は頭の中がぐるぐると混乱してくるのが分かった。
「じゃあ僕は大巫女様に呼ばれているから行ってくるね。またねサクヤ、セイヤ」
「はーい! 」
ベルグさんがそう言うとまるで映画の早送りのように別の場面に飛んだ。今度は神棚のような場所で、ベールを纏った女性がどっしりと構えている。その妖艶な姿は人間場馴れしていた。
「ふむ、ベルグさんはこの国の神話を知りたいと申すか」
「はい。長年僕の国に伝わる神話に疑問を持っていました。しかしこの国はそれとは違う神話があると聞きまして、ぜひお聞かせ願いたいのです」
大巫女と呼ばれた女は足を組み直すと、ふうとため息を吐いた。
「……外の者にもこのような者がおるとはな。いや、教えよう。我が知っていること全てを」
「ありがとうございます! 」
彼女が語った神話は、俺が聞いたものとはまったく違うものであった。
◇◇◇
この世界にシロノミコトという神がおりました
シロノミコトはこの世界を守る優しい神で 人々を愛し 愛されてきた神でした
そんな平和なある日 滅びの産声という悪神がこの世界を闇で覆い尽くしました
太陽の届かなくなったこの世界で人々は死に絶え、魔物が溢れ、世界は絶望に落とされました
しかしシロノミコトは自分の命を賭して悪神を封じ込めました
そうして世界は平和を取り戻したのです
「シロノミコト……? 」
俺の思ったことと同じことを言うベルグさん。
「左様、君らの神話とは似てはいるものの少し違う」
「僕らの神話だと魔王や女神テゼス様が出てくるのだけど、ふむ、確かに違いますね」
「君らの神話は我らもよく存じておる。ただし疑問が残るのは確かじゃ。魔王というのはなんだ? そしてなぜ君らはそんな不確かなものを倒そうと躍起になっておる? 」
「……」
ベルグさんは答えられずただ項垂れる。
いや、というより何かを考えているといった風だ。
「勇者と名乗る冒険者のことじゃ。皆口を揃えて魔王退治と言うが……その魔王を見たものは誰もおらぬ」
「……魔王に勇者、ううん、何だか頭がこんがらがってきましたよ」
「そちの神話に関しては王に聞いた方が良さげやのう。いやはや、今日は良い情報交換が出来た。我もいつ死ぬか分からないからの」
「死ぬ……? いえいえ、そんな……」
大巫女様はどう見てもまだ若い。そうそう亡くなるような年齢ではなさそうだ。
「直感で分かるんよ、我らを狙う"何か"がそろそろ来そうだな、と」
「何か? 」
「その何かがなんであるかまでは分からん。山賊かもしれんし、天災かもしれん。だがこの神話だけは絶やしてはならんのよ」
「そんな、気にしすぎですよ」
ベルグさんは励ましのつもりで言ったのだろう。しかし一方の大巫女様はどこかもの悲しげにふっと笑う。
「この神話は本来巫女だけが受け継ぐものじゃ。しかし今やそんなことも言っていられない。ベルグさん、どうか繋いでおくれ」
その声の真剣さにベルグさんを表情を改めた。
「……勿論です。貴重なお話を聞かせてくださり、ありがとうございます」
深々と頭を下げるベルグさん。
「あ、あとサクヤとセイヤに良くしてくれてありがとう。あの子らが仕事の邪魔をしてすまんね」
「いえいえいえ、とんでもないです。僕としても話し相手がいて嬉しいです」
「ふふ、まあ何もない国だけど思う存分調べものをしておくれ」
「はい、ありがとうございます」
どうやら大巫女様はサクヤの母親らしい。
つまり本来なら次期の大巫女様はサクヤのはずだったのだ。しかし彼女はイースは滅んだ、と言っていたはず。
すると大巫女様の胸のペンダントがキラリと光った。
「それは……? 」
ああ、これか。と大巫女様がペンダントを取り出す。
それは一匹の龍を模したような美しいアクセサリーだ。
「シロノミコト様を象ったと言われる、大巫女様が受け継いできた代物よ」
「へえ……シロノミコト様は龍なのですね」
「うむ、まあ……本当かは分からんがな」
そのとき、ドゴオオオオオンという爆音が鳴り響いた。
思わず俺とルーナは耳を塞ぎ、構えてしまう。
しかし直ぐに意味のないことだと思い出したのだった。
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