チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします

寿司

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第45話 訪問者は誰?

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「ふー、お腹いっぱいです。ごちそうさま! 」

 シエルが自分のお腹を擦りながら満足そうに笑う。
 作ったドーナツは大方食べられてしまっていて、俺は残りを食べければ。

「うっぷ……油が」

 だがアラサーの胃には揚げ物は結構キツイ。
 美味しいと言えば美味しいのだが、大量に食べると吐いてしまいそうだ。

「シエル、もう食べないのか? ……寝てるか」

 空腹を満たしたシエルはくうくうともう眠りについている。子どもって良いよな……直ぐに眠れて。
 最近は睡眠薬なしで眠れるようになってはきたものの、こんな風にすぐには眠れない。

「……冷凍して明日の飯にでもするか」

「何や、良い匂いがするのう」

 聞いたことのある声。

 窓から顔を覗かせたのはサクヤだった。肩に乗せているセイヤもぶんぶんと尻尾を振っている。

「丁度良いところに!!! 」

「ええ!? 」

 俺はサクヤを家に招き入れると、大量のドーナツを押し付けたのだった。

◇◇◇

「いやなんかすまんのう、おやつまでご馳走になってしもうて」

「良いんだ、作りすぎたから」

 サクヤとセイヤは嬉しそうにドーナツをかじっている。

「不思議な菓子じゃの、リング状で、揚げてあるんか? 見たことないわ」

「そうなのか? ま、俺が適当に作っただけだよ」

 異世界のお菓子だよ、とは言いづらくて、適当な返しをする俺。まあこの世界でドーナツを作ったのは俺が初めてだろうから嘘はついていないだろう。多分。

「凄いのう、ヨリは料理の才能があるんじゃね」

「別に、大したことじゃないさ。それはそうと、今日は何の用だ? ガーゴイル騒動を知らないわけないだろう」

「ああ知っとるよ。何とも神の雷が魔物を全滅させたとか」

「……そうなのか」

「まあそのお陰でうちは怪我ひとつしてないの」

 しかし俺はサクヤの足に切り傷のようなものがあるのを見つけた。出血はしていないものの、まだ生々しい。

「それどうしたんだ? 痛そうだ」

 サクヤははっとしたように傷跡を手で覆い隠す。

「あ、これは品出し中にうっかり転んでしもうての。そのときのものよ」

「そうか、大丈夫なのか? 」

「あら心配してくれるん?  平気よ、ただの切り傷や」

 そんなことは置いといて、とサクヤは慌てたように話を変える。

「今日は人に会いに来たのよ、ルーナ=レイモンドさんにね。でも訪ねてみたんじゃが、どうやら留守らしくての」

「まあガーゴイル騒動からそう経ってないからな。避難してるんじゃないか? 」

「かもしれんのう……で、ヨリの家で待たせて貰おうって訳よ」

「それは構わないけど……でもいつ帰ってくるか分からないぞ? 下手したら一週間後とか…… 」

「構わん構わん」

 ケラケラと笑うサクヤ。
 そこで俺はあることを思い出した。

「この家はルーナから買い上げたんだが、元々は彼女の父親のものらしい。もしかしたら何かしら本が見つかるかもしれないぞ」

 そう途端にサクヤの目がキラキラ輝き始めた。

「本当か! 」

「まあ、ルーナの父が本当にベルグさんなのかは分からないけどな。俺も結構探してみたんだけどそんなに良いものはなかったぞ」 

「いや、うちには分かる。この家には何かがあると! なあなあヨリの旦那、書斎、見せてもろうてもええか? 」

 猫なで声ですり寄ってくるサクヤ。
 こういうときだけ調子の良いやつだ。

「良いぞ、でも変なことはするなよ」

「任せときぃ」

 パチンとウインクを一つするサクヤだったが、俺はいまいち信用し切れない。
 まあ丁度シエルも寝ていることだし、サクヤの探し物の手伝いでもするか、という気持ちになったのだった。

「……ヨリ」

 何てことを考えていると、シエルが寝言で俺の名前を呼んだ。思わずびくりと体を震わせる俺。
 そんな俺を見てサクヤがにやにやと笑みを浮かべた。

「ビビりすぎよ、ただの寝言やんな」

「仕方ないだろ。呼ばれたかと思ったんだから」

「本当に大事なんやね~」

「う、うるさい!! 」

 しかしあるとき急にサクヤはからかうような笑みを抑え込むと、どこか遠いところを見るような目をした。

「……竜と人間が一緒に暮らす。ほんと凄いことやわ」

「そうか? 」

 そうよ、と柔らかい口許に笑みを浮かべてサクヤが言う。

「だからヨリもシエルも凄い人なのよ、自分たちじゃ気が付いてないかもしれないけど」

「別に凄くないだろ、普通だよ」

「ふふふ、でもまあ過保護過ぎるとは思うわ」

 そうなのか!? 俺って過保護なのか?
 子どもを育てたことなんてないから普通が分からない……。

「だって最近は竜殺しとかいうやつが現れてるらしいし、危ないだろ」

 俺は思わずはっとした。
 竜殺しというワードを聞いたサクヤの瞳が一瞬だけ揺れた。

「……竜殺しか。それは確かに危ないわ」

「……だろ? しかしどんなやつなんだろうな。顔も性別も何もかもが謎に包まれているらしいし」

「そうやね……もしかしたらイースの生き残りかもしれんね」

「イース? 」

 聞き慣れない地名に俺は思わず聞き返す。

「竜に滅ぼされた小さな国よ。一夜にして大量の竜に滅ぼされた、哀れな国」

「なるほど、確かにそれなら竜を恨んでいてもおかしくないな」

「……恨んで……なんてもん……ないわ」

「え?」

「いや、何でもない」

 サクヤが何か言った気がする。
 しかし俺には上手く聞き取れなかった。

「さあさあ、早速本探しでもしようや。時間が勿体ないからの」

 そう言って立ち上がるサクヤは、なぜか少しだけ小さく見えた。

 
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