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第38話 無双
しおりを挟む「何だこれ!? 」
空を覆っているのは無数のモンスター。
鳥と人間を合わせたような姿をしていて、ギラギラとした赤い瞳でこちらを見ている。
「ガ、ガーゴイル……!! 」
俺たちを追って外に出てきたソニアが声を漏らした。
ガーゴイル……ゲームで出てくるのあれか。
確かにどこか爬虫類を思わせるような鱗がぬらぬらと光っている。
「お、おい! 早く逃げろ! 」
「え、あの? って、その怪我は……」
声をかけてきたのは先ほどギルドにいた男性。腕から血を流し、立っているのもやっとのようだ。
「俺のことは気にするな! 早くソニアさんを連れて逃げろ! 」
「で、でも……」
このままだとおそらくこの男性は死んでしまうだろう。ガーゴイルという魔物はおそらく強い訳ではないだろうが、いかんせん数が尋常ではない。
倒しても倒しても次の個体が襲いかかってくるので、キリがなさそうだ。
「このままじゃ町が壊滅する! 援軍が来るまでは持ちこたえなければならねえ! 」
おそらく目が霞んでよく見えないのだろう、しきりに瞬きをしながら男が声をあげた。
そしてそのとき、ギャギャギャ!!! と奇妙な鳴き声をあげて、一匹のガーゴイルがこちらに向かってきた。
「お前ら一般人は早く逃げろ! 死にてえのか! 」
まずい、男は俺たちに話しかけるのに夢中で気が付いていない。
「危ない……!! 」
俺が声をあげたときにはもう遅い……。
いや、それより先に少女の小さな体が舞い踊った。
メキメキメキッと嫌な音を立てて、そのガーゴイルを蹴り飛ばすのは……シエルだ。
蹴り飛ばされたガーゴイルは壁に叩きつけられ、そのまま絶命した。
「シ、シエル……? 」
「……私が皆を守ります! ヨリは怪我をしている人と女の人を連れて逃げて下さい」
「そんな、駄目だ……!! シエルも逃げよう! 」
シエルはゆるゆると首を横に振る。
「誰かがここを食い止めなければ皆死んでしまいます。大丈夫です、私は後から追い掛けます」
さも当たり前のような口調でシエルは続ける。それに現に今も、俺と会話をしながら淡々と向かってくるガーゴイルどもを一発で殴り倒している。
「じゃあ俺もここに残る……!! 」
「見られたくないんです。戦っているとこは。……ヨリには絶対に」
シエルはふにゃっと笑顔を浮かべてこう続ける。
「絶対に大丈夫ですから。全て倒して、ヨリたちを追い掛けます。嘘なんてつきませんよ? 約束します」
「……分かった」
シエルは引っ張ったってここに居続けようとするだろう。 俺は重い足取りで踵を返す。
そして傷ついた男を抱えて、放心状態のソニアにこう言う。
「行きましょう、シエルが食い止めてるうちに」
「あ……あ……は、はい」
腰が抜けたらしいソニアを起こし、俺たちは逃げ場を求めて走り出したのだった。
◇◇◇
「くっ……数は減ったとは言えまだまだいるな。ソニアさん、どこに逃げるのが安全だ? 」
「城内です! 城の塀は堅牢で、バリアが張られています。そこに向かいましょう」
「城なら直ぐそこだな……。よし、そこにこいつを置いて行こう」
やはり大の男は重たい。
俺の貧弱な体では支えて引きずるのが精一杯だ。
「くっ……筋トレでもしとくんだったな」
傷が深いのか男は気を失っている。そういえばこの人には仲間がいたはずだがどこへ行ってしまったのか?
……よそう、考えるのは。
今は一刻も早く安全な場所に行かなければ。
「危ない! 」
気をとられている内に、俺に向かってくるガーゴイルが一匹。済んでのところでソニアの放った炎の魔法がそれを防いでくれた。
「ありがとうございます」
「いえ、無事で何よりです。急ぎま……」
ソニアの動きが止まった。
顔色を変えて、パクパクと口を動かしている。
「どうしたんですか? 」
振り返る俺。
そしてそこには、親玉らしき一際大きな個体が空を悠々と飛び回っている。
「隠れて……!! 」
ソニアの声につられるようにして、路地裏に身を潜める俺たち。
今の状態であんなのに見つかれば終わりだ。
「……静かにしてくださいね。去るのを待ちましょう」
「あれがガーゴイルの親玉か? 」
声の音量を下げて問いかける。
ソニアはおそらく、と小さく頷いた。
「あいつを倒せば、もしかして全て解決するのか? 」
「分かりません、ですが戦力を削ぐことは出来ると思います。あ、一人であれに挑もうなんて馬鹿な考えは無駄ですよ」
「分かってます」
俺だってそこまで馬鹿じゃない。
しかし一刻も早くシエルのとこに行きたいのにこれでは身動きが取れないではないか……。
だからと言ってソニアに男を託してここを離れることも出来ない。
早くどこかへ行ってくれ、と俺は心の中で祈り続ける。早くシエルと合流しなくては。
しかし俺の願いも空しく、直ぐそばで親玉は悠々と飛んでいる。俺たちには気がついてなさそうだが、しばらく移動する気もなさそうだ。
そのとき
ヒュルルルルと花火のような音がしたかと思うと、大きな火の玉が親玉に直撃した。
グエエエエと叫び声を上げて地上に落下する親玉ガーゴイル。
「何だ!? 」
誰がやったのか分からないけどありがたい。
「怯んでるぞ! 第二陣、かかれー!! 」
勇ましい声をあげるのは……ミシェルだ。
そうか彼女は騎士だったな。
知らせを聞き付けて、たくさんの部下を従えてガーゴイル討伐に乗り出しているらしい。あまり顔を合わせたくはないが、今の状況では女神のように思える。
「チャンスだ、行きましょう」
俺はソニアと顔を見合わせて頷いた。
城門まではあと少し、シエル。頼むから無事でいてくれ。
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