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勇者になったレオの現在

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 誰が呟いた。

「――――『勇者 レオ・ライオンハート』……か。あの死にたがりが、まだ生きていたのか?」 

 それを皮切りに、噂と悪口が入り交じった言葉が、あちらこちらのテーブルで聞こえる。

「1人で戦場に突っ込む馬鹿だろ? 何で生きてるのさ?」

「昔は、良い冒険者だったぞ。仲間もいて……」

「戦場が頭を狂わせたのさ。仲間も狂死してなきゃ、離れて行ったんだろ?」

 悪い酒が原因か? 悪質とも言える言葉であったが、当の本人は────

 ゆらゆら……

        ゆらゆら……

 幽鬼の如く、歩いている。

 彼に向けられる声が届いているのか、いないのか?
 
 そのまま、最奥にたどり着く。対応した女性は――――

「えっと、ご注文は?」と顔を引き付かせながらも応じる。しかし、レオは小さな声で、

「――――」と聞き取れなかった。

「え?」

「依頼は? 何か良い条件の依頼はないのか……そう聞いた」

 言われてから、女性はこの場所が冒険者ギルドだと言うことを思い出したようだ。

「あぁ、冒険者ギルドとしてのの依頼ですか? 申し訳ありませんが、ここ1年くらいは、新規の依頼は入っていません」

「――――そうか。また来る」と踵を返して出口に向かうレオ……いや、不意に足を止めた。

 ポケットから、取り出したのは金貨。

 今の時代では価値が著しく低下した貨幣通貨……それも古く汚れた物を指で弾くと、

「え?」と金貨が飛んで行ったテーブルに座った男が声を出した。

 男は冒険者を引退して、田舎に帰る計画を立てていた(最も、現在の冒険者は国の予備戦力扱いなので、自己判断で引退はできないのだが……)

 そのため、机の上には地図が広げられていた。

 それが、どうして世界地図なのか? きっと理由は、持ち主の本人もわからないだろう。

 その地図にレオが視線を向ける。 それから――――

「やる」とだけ、口にした。

 言われた本人も呆けた顔を浮かべるだけだったので、レオは「金貨だ。やる」と付け加えた。

 それでも手を伸ばさない男に、

「旅に出るのだろ? 選別だ。昔、世話になったからなぁ……」

「あぁ、それじゃ遠慮なく」と財布にしまいながらも、男は「そう言えば……」と思い出した。

(確か5年前……まだ、前か? たまたま迷宮で協力し合ったこともあったな。覚えていたのか?)

 改めてレオを見る。その瞳には、周りで言われているような狂気は秘められておらず、どこまで正気のソレだった。

 しかし――――

「そこにいるのか、ジェル……待ってろよ」

 地図の上に金貨が落ちた場所。 そこは魔族が支配したばかりの土地。

 どういう理屈だろうか? レオ・ライオンハートは、ただの当てずっぽうに見える行為で、正確に『魔王ジェル』の居場所を、ジェル・クロウの居場所を当てた。

 そして、ふらつきを隠せない歩き方のまま、地図の場所へ。

 魔族が支配する領土に向かって歩き始めた。 ただ……

(徒歩で何日くらいかかるか?)

 そんな事を考えながら――――

 
   
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