交わらない心

知り合い以上友達未満

知り合い以上恋人未満⑦

「椿さん。ごめん。俺も知らないんだ」

当然、千晃も毎日来るかも分からない彼を待ってるくらいだ。教えられる連絡先を知っている訳が無い。知っていたとしても常識的に本人の許可無く教えはしないだろう。

「えーなんだ。他に知ってる人いないの？」
「本人が教えてくれないからって他人から教えてもらうのは良くないんじゃないかな」

千晃は苦笑しながら、遠回しにそう諭してやると、彼女はひどく肩を落とし、再び優作の方へと向き直おる。

忘れているのか、それとも気になどしていないだけなのか、先程の行動といい、優作しか見えていない彼女にとって、あの時の自分は暇つぶしでしかなかったとだと改めて痛感する。
千晃が断ったことで素直に諦めてくれると思っていたが、どうしても優作の連絡手段が欲しいのか、肩を揺すりながら「ねぇ。優作くん、いつ教えてくれるの？」と優作に詰め寄っていた。

当の本人は鬱陶しそうに何度も溜息を吐いているに、一歩も引かない椿と優作の攻防戦が始まる。
そのうち優作の堪忍袋の緒が切れてこの公共の場で、再び椿に罵声を浴びせるのではないかと気が気ではなかった。

「あ、あの」

そんな千晃の気苦労から救い出すように第三者の声が二人の間に割るようにして入ってくる。声のほうを見遣ると先程まで隣のテーブルにいたはずの青年が顔を強ばらせながら、自分たちのテーブルの傍に立っていた。
青年の瞳は優作をばっちり捉えているが、握っている両拳が微かに震えていることから緊張しているのだろうかと思ったが、顔を真っ赤に染めて唇を強く噛んでいる姿からとても平穏ではない雰囲気を醸し出していた。

「謝ってください！」
「えっ…」

予想外の割り込みに優作の表情は鳩が豆鉄砲が食らったように口をあんぐりと開けていたが、一瞬にして状況を呑み込んだのか、目を伏せてしまった。気になる想い人と嫌いな女に挟まれて最悪な状況。


「椿先輩に謝ってください！」

椿に対して冷たくあしらいたいのに、想い人はそんな椿を邪険に扱う優作に謝罪を求めている。