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知り合い以上友達未満
知り合い以上友達未満③
しおりを挟む優作のいる席までカレーを持って運ぶと、当の本人は左を向いてはずっと一点だけ見つめて動かずにいた。
彼の視線の先を追うように、同じ方向を見遣ると、ひとつ隣のテーブルに例の優作が一目惚れした青年が
独りで学食を食べていた。
奇遇にも彼と同じカレー。
「優」
目の前の千晃に気づく様子もなく、一点を見つめて離さない彼。
今までそんな素振りなんて見せていなかっただけに、恋する優作は気になる人が出来るとこんなにも
周りが見えなくなるのかと実感したと同時に何故だか面白くない。
胸騒ぎがして、その視線を意地でも此方へ向けたくなる衝動に駆られた。
「おい、優」
「いたっ」
眉間に皺を寄せながら、優作の額を指で弾くと漸く存在に気がついたのか、
よくも邪魔してくれたなと言いたげな切れ長の目尻をキツく吊り上げて睨んできた。
そんな優作など気にも留めずに、黙って向かいの椅子に腰を下ろしては、
第一声が「お礼くらい言えよ」だった。
何故自分がこんなにムキになっているのか分からないけど、虫の居所が悪い。
しかし、そんな感情はきのせいだったかのように、優作が「ありがとう」と素直にお礼を言ってきたことによって
千晃の中に沸々と沸いた苛立ちは収まっていた。
カレーを乗せた匙をとって、口元へと運ぶ優作を眺めながら、先ほどの自分は醜かっただろうかと反省する。
いつもだったら、優作に何かしてもお礼の言葉が返ってくることはほとんどないし、千晃自身も要求するようなこともなかった。だけど、今日ばかしは我慢ならなかっただけの話。
俺ってこんな浅ましかっただろうか…。
「飯代いくらだっけ?」
「えっ?」
千晃が悶々と反省している中、唐突に優作から提案されて、思わず顔を上げた。
腰を浮かせて、尻ポケットから平べったい黒い長財布を取り出すと、右手首を掴んできたかと思えば
小銭を握らされた。手のひらを徐に開いて、中身を確認すると500円玉硬貨が、記念碑メダルのような特別感を放っていた。
今の今まで、飯代を律儀に渡してくれることはなかった。
いつもなら奢っても何食わぬ顔で飯を食べている筈なのに、どういう風の吹き回しなのだろう。
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