いたずらはため息と共に

常森 楽

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3.成長

152.海とか祭りとか

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その後、2人はいくつか会話を交わして、静かになった。
あたしは優里達のそばに寄って、膝を抱えた。
弟に「やる?」と聞かれたけど首を横に振った。
「ハァ」と大きくため息をついて、自分で自分の胸をさする。
なんか、胸焼けしてるみたいな感覚…気持ち悪い。
あたしって、また傷口に塩塗ってる?

…優里、告白されたって言ってた。
あたしは最近、全然誰からも告白されていない。
それは永那がそばにいて、あたしが永那と付き合っているように振る舞っていたからだと思う。
今回の相手と優里が付き合うかはわからないけど、いつかは優里もパートナーができて、あたしはまたひとりぼっちになるのかな。
…嫌だな。
弟を見る。
モテそう。
今は好きな人がいないって言ってたけど、中学生、高校生になったら、きっと好きな人ができて、青春するんだろうなあ。
今のあたしは、部活もやってないし、恋人もいないし、何もないな。
ただ叶わない恋をして、無様にしがみついているだけ。
だからって、また適当な相手を見繕いたいとは思えない。
ため息をつく。

「千陽。やっぱ、やりなよ」
弟があたしにコントローラーをわたしてくる。
「何でため息ついてるのかわかんないけど、とりあえず楽しまない?」
そんな、キラキラした目であたしを見ないでよ。
わたされたコントローラーを手に持って、優里と対戦する。
ゲームをしていたら気が紛れて、不思議と憂鬱な気分も晴れていった。
「ねえ、誉」
「な、なに?」
あたしが名前を呼ぶと、弟はいつも挙動不審になる。
「月曜、どっか2人で行かない?」
「え!?どうしたの?急に。…いいけど」
「千陽と誉すごい仲良しー!ずるいー!私も遊びたいー!…水曜じゃだめ?」
「だめ」
あたしが言うと、優里が「なんでなんでー!」と騒ぐ。
「あたしは絶対月曜がいいの」
「じゃあ、月曜は2人で、水曜は3人で遊ぶ?」
あたしが頷くと、優里が両手をあげて喜ぶ。

永那が起きて、優里と3人で帰る。
優里は途中で別れた。
「月曜は、あたし誉と2人で外に遊びに行くから」
「え?」
「水曜も、優里と3人でどっか遊んでくる」
「そ、そーなんだ」
永那がポリポリと頬を掻く。
「ヤるんでしょ?浴衣で」
永那の目が見開かれて、顔が真っ赤になる。
…なに?今更。
中学のときは何の感情もなく、あたしの気持ちも考えずに、セックスしたこと言ってたのに。
「聞いてたの?」
あたしは無視する。
胸がチクチク痛む。
無言のまま、あたし達は帰った。

次の日は特に何もなく、火曜日と同じように過ごした。
永那が空井さんを抱きしめながら寝て、あたしは弟とゲームをする。
なんてことない日。

金曜。
永那も空井さんもいない。
でも、風景は大して変わりない。
2人がいたとしてもベッドで寝るのだから、あたしの視界にはほとんど入ってこない。
強いて違いをあげるなら、お昼ご飯のときだけか。
「千陽、永那より上手いんじゃない?」
ゲームをしながら弟が言う。
「あたしも買おうかな、これ」
「マジ!?そしたら通信できるじゃん!…俺、1人でしか遊べないんだけど、好きなゲームあって、千陽がそれもやってくれたら、めっちゃ嬉しいんだけど!通信プレイできたら、離れてても遊べるよ!」
…待って。おかしい。
今、あたしの心臓が、鳴った気がする。
あり得ない、あり得ない。
5歳も年下の、小学生相手に。犯罪じゃない?
なに?永那と空井さんを見過ぎて、頭おかしくなった?
しかも話の内容的に、どこにもときめくようなことなんてないんだけど?
気のせいだ。うん。
あたし、あまりの寂しさに気が狂い始めたのかも。

弟が料理をしてくれる。
あたしは椅子に座って、ただ眺める。
「今日は永那がいないから、カレー!…市販のルーじゃなくて、カレー粉で作ったんだよ?」
ドライカレーだった。
ほとんど食べたことないけど、口にすると、普通のカレーよりも好みだった。
「おいしい?」
あたしが頷くと、また弟は嬉しそうに笑う。
あたし達は向かい合って座っている。
「ねえ」
「なに?」
「キスしようって言ったら、どうする?」
弟の目が見開いて、顔が真っ赤になる。
「な、なに言ってんの!?…あ、あれだな…姉ちゃんと永那がキスばっかしてるから…おかしくなっちゃったんだって思うよ」
弟はカレーをかき込む。
そうだよね。やっぱりあの2人のせいだよね。
「それか…千陽は姉ちゃんにキスしてたし…千陽はキス魔ってやつなんだなって思う」
ふむ。…空井さんの唇はやわらかくて、気持ちよかったな。
「そうだね」
あたしはカレーを食べる。
「そ、それだけ?」
「他に何かある?」
弟はポリポリ頬を掻いて、カレーを食べた。
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