26 / 35
025 アラスティア
しおりを挟む
長かった冬休みも漸く終わり、貴族院での寮生活が始まった。まさか貴族院が始まるのが、こんなに待ち遠しく感じるなんて思わなかった。最近、家に居づらかったからホッとする思いだ。お母様は顔を合わせる度にシュヴァルツとの恋を諦めるように言ってくるし、お父様も何も言わないけど諦めて欲しそうだ。唯一お兄様が私の恋を応援してくれるけど…“今こそ好機、シュヴァルツ殿下を討ち取るのだ!”って…何か勘違いしてそうなのよね…。私は別にシュヴァルツを倒すつもりは無いんですよ、お兄様?
そんな理由もあって貴族院の始まりが待ち遠しかったけど、やっぱり一番の理由はシュヴァルツに早く会いたかったからだ。
私は結局冬休みの間シュヴァルツに会うことができなかった。原因は幾つも思い当たる。私の礼儀作法が王城に行くレベルに達していなかったり、シュヴァルツ自身が忙しかったり…。でも、一番の原因は身分が違いすぎることだと思う。男爵家当主のお父様も王子に面会できる機会なんてほとんどない。当主でも無理なのに、男爵家の一娘でしかない私が、王子であるシュヴァルツと会える機会なんてあるわけがない。
そんな訳で、シュヴァルツと会うのは冬休み前に行われた建国記念日のパーティ以来だ。シュヴァルツと、その、キ、キスをした日から会っていないことになる。
思い出したら急に恥ずかしくなってきた。早くシュヴァルツに会いたいけど、いったいどんな顔をして会えば良いのか分からなくて会いたくない。相反する二つの気持ちに挟まれて胸が苦しくなる。私はいったいどうすれば良いの?!
「急に黙り込んでどうしましたの?」
その言葉にハッと現実に戻される。目の前のテーブルにはティーカップが二つ。向かいの席にはアラスティアが座っている。そうだった。今は食堂で食後のお茶を楽しんでいる真っ最中だった。話し相手が急に黙り込んだら心配を掛けてしまうだろう。アラスティアには悪い事をした。
「なんでもありませんわ。少し考え事を…」
ホホホッと笑ってお茶を濁す。ティータイムだしね。
「どうせシュヴァルツ殿下の事を考えていたのでしょう?」
「ッ!」
当たっているだけに何も言い返せなくなってしまう。
「あらあらー、図星ですわね?」
アラスティアがニマニマと意地の悪い笑みを浮かべる。アラスティア・ラ・ロンデリウム。ゲームでは、シュヴァルツルートにおける友人キャラだった。あのシュヴァルツが私との婚約を宣言した事件以来、周囲は私を腫物を扱う様に接してきたけど、彼女は私に変わらず接してくれる。私にはそれがとてもありがたい。
「ふふっ。教室での振る舞いやテーブルマナーも、まるで別人かと思うくらい完璧な淑女で驚きましたけど、漸く素顔を覗かせましたね。顔を赤らめて、かわいらしいわ」
「そんなこと…」
ビックリして淑女モードが解けてしまったらしい。淑女モードは意識を集中しないとできないから、ちょっとしたことで解けてしまう弱点がある。気を付けないと。
「それで?シュヴァルツ殿下とはその後どうですか?」
アラスティアが身を乗り出して聞いてくるけど、私とシュヴァルツは冬休みの間会うことすらできなかったので、特に進展らしい進展はない。手紙で愛を囁かれたりしたけど、これはアラスティアには内緒だ。
「その後と言われても…特に何もありませんわ」
「残念ですわ。わたくしはお二人の事を応援していますのに」
彼女は、変わらず私とシュヴァルツの恋を応援してくれるらしい。ヴァイスが王太子になって目標を達成した今、今更彼女に私達の恋を応援する必要は無いと思うんだけど…どうして応援してくれるのだろう?
「実は…わたくしは貴女に恩がありますの」
恩?どういうことだろう?私は何かアラスティアにした覚えはないけど。
実はアラスティアに、ある婚約のお話があったらしい。相手は随分年上の人で、何度か会ったけど好きになれる自信が沸かなかったそうだ。でも御家の為には仕方ないと諦めていたのだけど、シュヴァルツの婚約破棄や私との婚約宣言を聞いて、自分の気持ちに正直になろうと勇気を貰ったと言う。そして、彼女は父親に婚約の話を断って欲しいとお願いしたらしい。
「婚約の話は白紙となりました。お二人のおかげで、わたくしは望まぬ結婚を避けることができたのです。結婚は一生の事ですからね。わたくしは貴女にとても感謝しているのですよ」
そう言って、アラスティアが優し気な笑みを浮かべる。
「ですから、わたくしはお二人には幸せになって欲しいと願っていますわ」
まさかアラスティアにそんな事情があったなんて知らなかった。アラスティアが私達の事を応援してくれるのはとても嬉しい。反対意見ばかり耳に入ってきていたので、余計に嬉しく感じる。そうだ!アラスティアにシュヴァルツの事相談してみよう。
「アラスティア様に相談があるのですけど…」
「早速ですね。よろしくてよ」
シュヴァルツに恥ずかしくて会えない事を相談すると、「惚気は結構ですわ」と一蹴されてしまった。なんで?
そんな理由もあって貴族院の始まりが待ち遠しかったけど、やっぱり一番の理由はシュヴァルツに早く会いたかったからだ。
私は結局冬休みの間シュヴァルツに会うことができなかった。原因は幾つも思い当たる。私の礼儀作法が王城に行くレベルに達していなかったり、シュヴァルツ自身が忙しかったり…。でも、一番の原因は身分が違いすぎることだと思う。男爵家当主のお父様も王子に面会できる機会なんてほとんどない。当主でも無理なのに、男爵家の一娘でしかない私が、王子であるシュヴァルツと会える機会なんてあるわけがない。
そんな訳で、シュヴァルツと会うのは冬休み前に行われた建国記念日のパーティ以来だ。シュヴァルツと、その、キ、キスをした日から会っていないことになる。
思い出したら急に恥ずかしくなってきた。早くシュヴァルツに会いたいけど、いったいどんな顔をして会えば良いのか分からなくて会いたくない。相反する二つの気持ちに挟まれて胸が苦しくなる。私はいったいどうすれば良いの?!
「急に黙り込んでどうしましたの?」
その言葉にハッと現実に戻される。目の前のテーブルにはティーカップが二つ。向かいの席にはアラスティアが座っている。そうだった。今は食堂で食後のお茶を楽しんでいる真っ最中だった。話し相手が急に黙り込んだら心配を掛けてしまうだろう。アラスティアには悪い事をした。
「なんでもありませんわ。少し考え事を…」
ホホホッと笑ってお茶を濁す。ティータイムだしね。
「どうせシュヴァルツ殿下の事を考えていたのでしょう?」
「ッ!」
当たっているだけに何も言い返せなくなってしまう。
「あらあらー、図星ですわね?」
アラスティアがニマニマと意地の悪い笑みを浮かべる。アラスティア・ラ・ロンデリウム。ゲームでは、シュヴァルツルートにおける友人キャラだった。あのシュヴァルツが私との婚約を宣言した事件以来、周囲は私を腫物を扱う様に接してきたけど、彼女は私に変わらず接してくれる。私にはそれがとてもありがたい。
「ふふっ。教室での振る舞いやテーブルマナーも、まるで別人かと思うくらい完璧な淑女で驚きましたけど、漸く素顔を覗かせましたね。顔を赤らめて、かわいらしいわ」
「そんなこと…」
ビックリして淑女モードが解けてしまったらしい。淑女モードは意識を集中しないとできないから、ちょっとしたことで解けてしまう弱点がある。気を付けないと。
「それで?シュヴァルツ殿下とはその後どうですか?」
アラスティアが身を乗り出して聞いてくるけど、私とシュヴァルツは冬休みの間会うことすらできなかったので、特に進展らしい進展はない。手紙で愛を囁かれたりしたけど、これはアラスティアには内緒だ。
「その後と言われても…特に何もありませんわ」
「残念ですわ。わたくしはお二人の事を応援していますのに」
彼女は、変わらず私とシュヴァルツの恋を応援してくれるらしい。ヴァイスが王太子になって目標を達成した今、今更彼女に私達の恋を応援する必要は無いと思うんだけど…どうして応援してくれるのだろう?
「実は…わたくしは貴女に恩がありますの」
恩?どういうことだろう?私は何かアラスティアにした覚えはないけど。
実はアラスティアに、ある婚約のお話があったらしい。相手は随分年上の人で、何度か会ったけど好きになれる自信が沸かなかったそうだ。でも御家の為には仕方ないと諦めていたのだけど、シュヴァルツの婚約破棄や私との婚約宣言を聞いて、自分の気持ちに正直になろうと勇気を貰ったと言う。そして、彼女は父親に婚約の話を断って欲しいとお願いしたらしい。
「婚約の話は白紙となりました。お二人のおかげで、わたくしは望まぬ結婚を避けることができたのです。結婚は一生の事ですからね。わたくしは貴女にとても感謝しているのですよ」
そう言って、アラスティアが優し気な笑みを浮かべる。
「ですから、わたくしはお二人には幸せになって欲しいと願っていますわ」
まさかアラスティアにそんな事情があったなんて知らなかった。アラスティアが私達の事を応援してくれるのはとても嬉しい。反対意見ばかり耳に入ってきていたので、余計に嬉しく感じる。そうだ!アラスティアにシュヴァルツの事相談してみよう。
「アラスティア様に相談があるのですけど…」
「早速ですね。よろしくてよ」
シュヴァルツに恥ずかしくて会えない事を相談すると、「惚気は結構ですわ」と一蹴されてしまった。なんで?
0
あなたにおすすめの小説
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!
たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。
なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!!
幸せすぎる~~~♡
たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!!
※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。
※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。
短めのお話なので毎日更新
※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。
※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。
《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》
※他サイト様にも公開始めました!
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる