111 / 124
111 切り裂く闇⑥
しおりを挟む
「久しぶりですわね、アベル!」
これまでの長い沈黙を破って、ブランディーヌ率いる『切り裂く闇』が冒険者ギルドに姿を現した。久しぶりの噂のパーティの登場に、冒険者ギルドに居た冒険者たちがざわざわと騒ぎ出す。だが、その音量は少なく、一人一人の声は判別するのは難しいほどだ。
皆、変に絡まれたくないから小声なのだろう。ブランディーヌたちは、噛み付き癖があるからな。
久しぶりに会ったブランディーヌたちは、余裕というものが無かった。心なしかやつれたようにも見える。それでいて、目だけはぎょろりと血走り、確実にオレを視界に捉えていた。
「久しぶりだな。ちょっと見ない間に痩せたんじゃないか?」
「ええ、ええ。貴方のおかげで! ここ毎日楽しく暮らせていますわ!」
「チッ」
オレの言葉を皮肉と受け取ったらしい。ブランディーヌの口の端がピクピクと震えていた。その後ろでは、ジョルジュが舌打ちしている。
オディロンの情報では、毎日喧騒が絶えないって話だし、かなり憎しみが溜まっているのだろう。
たしかに、今のブランディーヌたちは、なにをしでかしてもおかしくはない狂気があるような気がした。
「で? 何の用だ? オレたちは互いに不干渉だったはずだろ? 約束は守れよ」
「くっ! はー、ふー」
一瞬、憤怒に歪んだブランディーヌの顔。しかし、なんとか怒りを飲み込んだのか、深呼吸をする。その後にブランディーヌの顔に浮かんでいたのは、まるでオレに媚びるような顔だ。
並の男よりも大きく、分厚いブランディーヌの体。顔も大きく角張って四角く、まるでおっさんのようだ。胸なのか大胸筋なのかも判断がつかない、まるで野生のゴリラのような女。
そんな容姿だというのに、ブランディーヌは、自分は世界一美しいと自認しているのだから救えない。
オレもべつにブランディーヌの容姿や感性を否定したいわけじゃない。だが、ブランディーヌの場合、自分に靡かない男は、どうしようもないクズと判断するのだから面倒くさい。
なにが言いたいかといえば、ブランディーヌの媚びた視線は危険なのだ。彼女は自分が媚びて靡かない男は居ないと考えている。そして、もし否定しようものなら、烈火のごとく怒りだすのだ。
かなり面倒くさい。
「今日はね、アベル。貴方に素敵なお話を持ってきたの」
気味が悪い猫なで声を出しながら、ブランディーヌがオレに向けてウィンクした。正直、止めてほしい。吐き気がする。
「貴方をわたくしのパーティ『切り裂く闇』に入れてあげるわ。光栄に思いなさい」
「はぁ?」
どんな恨み言が飛び出るかと思ったが、ブランディーヌの言葉は俺の予想の斜め上を突っ走っていた。
「もう一度、貴方にチャンスをあげると言っているのよ。貴方のことは不快だけど、少しだけ我慢してあげるわ。今後は忠告なんて言わないこと。全てわたくしに従いなさい」
「…………」
あまりにバカげた話に、開いた口が塞がらないとはこのことだな。きっとブランディーヌの中では、オレがパーティに入ることが決まっているのだろう。だから、自分たちが上位だと、条件を出す側だと勘違いしている。
そういえば、ブランディーヌたちは金に困ってマジックバッグまで売っ払っちまったんだったか。なるほど。マジックバッグの代わりにオレをパーティに入れようというのだろう。つくづくアホらしくて眩暈がするレベルだ。
オレの知る限り、ブランディーヌたちは、たしかにバカだったが、ここまでひどくはなかったぞ。これが貧すれば鈍するってやつか?
「さあ、泣いて感謝して、わたくしの手を取りなさい、アベル」
目の前に差し出されたブランディーヌのゴツイ手。オレはそれを冷めた目で見下ろし、口を開く。
「お断りだ。オレはお前たちのパーティには入らない」
断りを告げた瞬間、ブランディーヌたちの纏う空気が変わる。まるで今にも噛み付かんばかりの獰猛な雰囲気だ。
「……聞き間違いかしら? アベル、わたくしが言っているのよ? 貴方には選択肢は無いはずだけど?」
「どこまで誇大妄想を膨らませりゃそうなるんだ? オレが今更お前たちのパーティに入るわけがないだろう?」
ブランディーヌの顔面が歪み、怒りの色が添えられていく。
「いいかしらアベル? これは貴方にとってもまたとないチャンスなのよ? こんな貧弱な小娘だらけのパーティなんて捨てて、わたくしたちとまたパーティを組めるのよ? 断る理由がないでしょう?」
ブランディーヌがまるで簡単な法則を説明するように言ってのける。本気でそう思ってそうなところが怖いな。どこまで自分たちの力を過大評価してるんだ?
「くどい! もうお前たちとパーティを組むのなんて御免だ」
「アベルッ!」
もう一度断ると、ブランディーヌが吠えた。彼女は自分の思い通りにならない現実に怒るという悪癖があったが、それはこの数日間で悪化の一途をたどっているようだ。
もはやブランディーヌの顔には憤怒というのも生温い。もうこれ以上怒りという感情を顔面で表現するのは不可能というほど怒りに満ちていた。
「ふー! ふー!」
ブランディーヌは荒い息を吐き、その右手は、背中に吊られた大剣の柄を握っており、今にも抜刀しそうだった。
まったく、こんな奴がパーティを率いるリーダーかと思うと、メンバーが哀れにも思えてくるな。
これまでの長い沈黙を破って、ブランディーヌ率いる『切り裂く闇』が冒険者ギルドに姿を現した。久しぶりの噂のパーティの登場に、冒険者ギルドに居た冒険者たちがざわざわと騒ぎ出す。だが、その音量は少なく、一人一人の声は判別するのは難しいほどだ。
皆、変に絡まれたくないから小声なのだろう。ブランディーヌたちは、噛み付き癖があるからな。
久しぶりに会ったブランディーヌたちは、余裕というものが無かった。心なしかやつれたようにも見える。それでいて、目だけはぎょろりと血走り、確実にオレを視界に捉えていた。
「久しぶりだな。ちょっと見ない間に痩せたんじゃないか?」
「ええ、ええ。貴方のおかげで! ここ毎日楽しく暮らせていますわ!」
「チッ」
オレの言葉を皮肉と受け取ったらしい。ブランディーヌの口の端がピクピクと震えていた。その後ろでは、ジョルジュが舌打ちしている。
オディロンの情報では、毎日喧騒が絶えないって話だし、かなり憎しみが溜まっているのだろう。
たしかに、今のブランディーヌたちは、なにをしでかしてもおかしくはない狂気があるような気がした。
「で? 何の用だ? オレたちは互いに不干渉だったはずだろ? 約束は守れよ」
「くっ! はー、ふー」
一瞬、憤怒に歪んだブランディーヌの顔。しかし、なんとか怒りを飲み込んだのか、深呼吸をする。その後にブランディーヌの顔に浮かんでいたのは、まるでオレに媚びるような顔だ。
並の男よりも大きく、分厚いブランディーヌの体。顔も大きく角張って四角く、まるでおっさんのようだ。胸なのか大胸筋なのかも判断がつかない、まるで野生のゴリラのような女。
そんな容姿だというのに、ブランディーヌは、自分は世界一美しいと自認しているのだから救えない。
オレもべつにブランディーヌの容姿や感性を否定したいわけじゃない。だが、ブランディーヌの場合、自分に靡かない男は、どうしようもないクズと判断するのだから面倒くさい。
なにが言いたいかといえば、ブランディーヌの媚びた視線は危険なのだ。彼女は自分が媚びて靡かない男は居ないと考えている。そして、もし否定しようものなら、烈火のごとく怒りだすのだ。
かなり面倒くさい。
「今日はね、アベル。貴方に素敵なお話を持ってきたの」
気味が悪い猫なで声を出しながら、ブランディーヌがオレに向けてウィンクした。正直、止めてほしい。吐き気がする。
「貴方をわたくしのパーティ『切り裂く闇』に入れてあげるわ。光栄に思いなさい」
「はぁ?」
どんな恨み言が飛び出るかと思ったが、ブランディーヌの言葉は俺の予想の斜め上を突っ走っていた。
「もう一度、貴方にチャンスをあげると言っているのよ。貴方のことは不快だけど、少しだけ我慢してあげるわ。今後は忠告なんて言わないこと。全てわたくしに従いなさい」
「…………」
あまりにバカげた話に、開いた口が塞がらないとはこのことだな。きっとブランディーヌの中では、オレがパーティに入ることが決まっているのだろう。だから、自分たちが上位だと、条件を出す側だと勘違いしている。
そういえば、ブランディーヌたちは金に困ってマジックバッグまで売っ払っちまったんだったか。なるほど。マジックバッグの代わりにオレをパーティに入れようというのだろう。つくづくアホらしくて眩暈がするレベルだ。
オレの知る限り、ブランディーヌたちは、たしかにバカだったが、ここまでひどくはなかったぞ。これが貧すれば鈍するってやつか?
「さあ、泣いて感謝して、わたくしの手を取りなさい、アベル」
目の前に差し出されたブランディーヌのゴツイ手。オレはそれを冷めた目で見下ろし、口を開く。
「お断りだ。オレはお前たちのパーティには入らない」
断りを告げた瞬間、ブランディーヌたちの纏う空気が変わる。まるで今にも噛み付かんばかりの獰猛な雰囲気だ。
「……聞き間違いかしら? アベル、わたくしが言っているのよ? 貴方には選択肢は無いはずだけど?」
「どこまで誇大妄想を膨らませりゃそうなるんだ? オレが今更お前たちのパーティに入るわけがないだろう?」
ブランディーヌの顔面が歪み、怒りの色が添えられていく。
「いいかしらアベル? これは貴方にとってもまたとないチャンスなのよ? こんな貧弱な小娘だらけのパーティなんて捨てて、わたくしたちとまたパーティを組めるのよ? 断る理由がないでしょう?」
ブランディーヌがまるで簡単な法則を説明するように言ってのける。本気でそう思ってそうなところが怖いな。どこまで自分たちの力を過大評価してるんだ?
「くどい! もうお前たちとパーティを組むのなんて御免だ」
「アベルッ!」
もう一度断ると、ブランディーヌが吠えた。彼女は自分の思い通りにならない現実に怒るという悪癖があったが、それはこの数日間で悪化の一途をたどっているようだ。
もはやブランディーヌの顔には憤怒というのも生温い。もうこれ以上怒りという感情を顔面で表現するのは不可能というほど怒りに満ちていた。
「ふー! ふー!」
ブランディーヌは荒い息を吐き、その右手は、背中に吊られた大剣の柄を握っており、今にも抜刀しそうだった。
まったく、こんな奴がパーティを率いるリーダーかと思うと、メンバーが哀れにも思えてくるな。
130
あなたにおすすめの小説
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる