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110 冒険者ギルド
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「おい! ありゃあ……」
「へー。ついに出てきたか……」
「あの人もよくよく運が無いね。恩を仇で返されるというのは……」
冒険者ギルドは相変わらず賑わっているが、ずっと屋敷に閉じこもっていたオレたちの登場に驚いたような雰囲気があった。騒いでいた冒険者たちの視線を独り占めだ。それだけオレたち『五花の夢』と『切り裂く闇』の対立は、注目を集めているのだろう。
「なんだかすごい注目集めてない?」
「アベるんすっごい見られてる!」
「こんなに注目されてしまうと、緊張してしまいますねぇ」
「ん……」
「冒険者同士の対立なんて珍しくもないでしょうに。やはりアベルへの注目度が高いのね。なんといってもレベル8ですもの。その動向には、皆が注目しているのね」
クロエたちも冒険者たちの視線を感じて、身構えていた。人の視線って重いんだよなぁ。なんていうか、独特の重さがある。オレも未だに慣れない。
「んじゃ、行くか。予定通り、軽く飯でも食おうぜ」
オレは『五花の夢』の少女たちを引き連れながら、冒険者ギルドの食堂に足を踏み入れた。
丁度空いていたテーブルの一つを占領すると、すぐにウェイトレスが注文を聞きにくる。
「いらっしゃいませー。ご注文はお決まりですか?」
「オレは仔牛のワイン煮を頼む。バゲットにはたんまりバターを塗ってくれ。お前らはどうする?」
「あーしはステーキがいい!」
「貴女ね、この後ことも考えなさいな。もう少し軽いものにしなさい。私はサラダをもらえるかしら?」
「えぇー!? サラダだけとか! 食べた気にならなくなーい? ダイエットでもしてるの?」
「うるさいわね」
料理を注文するだけなのに、なんでこんなに時間がかかるんだろうな。そう思いつつも、オレはジゼルとイザベルの言い合いを見守った。これも少女たちのコミュニケーションだからな。この後のことを思えば、邪魔する気も起きない。これが最後の会話になるかもしれないからな……。
「冒険者ギルドのお料理は、量が多いのですけど、軽食やスイーツの類はあまりありませんねぇ」
「スイーツ! あたし季節のケーキとか食べてみたい!」
「んっ!」
なるほど。エレオノールの言う通り、冒険者ギルドの食事は、腹を満たすことが第一で、あまりおしゃれなものは置いていないな。
そして、クロエとリディはケーキが食べたい、と……。オレはあまりよく知らないが、甘味処とかに連れて行ったら喜ばれそうだな。その時は、姉貴も連れて行こう。まぁ、いずれにしろ、まず今日を生き延びないとな。
やがて少女たちの注文も決まり、ウェイトレスが去っていく。
それと同時に、オレたちのテーブルに近づく人影があった。腰の左右に剣を佩いたフル装備の冒険者の青年だ。知らない武装した冒険者の接近に、クロエたちは静かに身構えた。ジゼルなんて剣の柄に片手を置いている。マジの臨戦態勢だ。
オレは右手を上げてクロエたちを制しつつ、見覚えのある冒険者の青年に左手を上げた。
「よお、久しぶりだな。最近どうだ?」
「アベルさん、お久しぶりです。最近はぼちぼちですね」
青年は苦笑を浮かべて、クロエたちに降伏するように軽く両手を上げてみせる。クロエたちに争う意思はないと伝えているのだ。
「聞きましたよ、アベルさん。恥知らずに狙われているようですね」
「お前まで知ってるのかよ……」
「有名な話ですよ。知らない冒険者はモグリですね」
そう言い切った青年の顔には、もはや笑みは浮かんでいない。
「ご迷惑でなければ、俺たち『蒼天』にもお手伝いさせていただけませんか? 無論、お代は結構です。俺たちは貴方に恩をお返ししたい」
恩……ね。
たしかに、昔、青年のパーティをダンジョン内で助けたことがある。とはいっても、戦闘不能になった青年のパーティをダンジョンの入り口まで護衛しただけだが。
青年は、律儀にそのことに感謝し、今回、手助けを申し出てくれた。
本当に、情けは人の為ならずってやつだな。
「ありがたい申し出だ。だが、もう仕掛けは始まっててな。わりぃが、今回はパスさせてくれ。だが、お前らの気持ちは受け取った。ありがとよ」
「そうでしたか……。せっかくの恩返しのチャンスと思ったのですが、乗り遅れたようですね」
青年の真剣な顔が解れ、苦笑を浮かべる。
「ああ。なにかあったら、また頼らせてくれ。『蒼天』の名前、覚えたぜ」
「ありがとうございます! 俺たちも頼ってもらえるように切磋琢磨していきます」
まったく、気持ちのいい青年だったな。ああいう奴を見ると、冒険者もまだまだ捨てたもんじゃないと思えるな。
「『蒼天』といえば、レベル5ダンジョンを踏破した若手の注目株じゃない。そこに惚れ込まれているなんて……。分かっていたことだけど、貴方ってすごいのね」
「叔父さんすごい!」
「アベるんやるじゃん!」
そんなにすごいことでもないんだがなぁ。まぁ、クロエたちに褒められるのは悪い気がしない。もっと褒めて!
しかし、ご満悦だったオレの機嫌は、この後急降下する。冒険者ギルドに入って来た五人の人影を見たからだ。
「へー。ついに出てきたか……」
「あの人もよくよく運が無いね。恩を仇で返されるというのは……」
冒険者ギルドは相変わらず賑わっているが、ずっと屋敷に閉じこもっていたオレたちの登場に驚いたような雰囲気があった。騒いでいた冒険者たちの視線を独り占めだ。それだけオレたち『五花の夢』と『切り裂く闇』の対立は、注目を集めているのだろう。
「なんだかすごい注目集めてない?」
「アベるんすっごい見られてる!」
「こんなに注目されてしまうと、緊張してしまいますねぇ」
「ん……」
「冒険者同士の対立なんて珍しくもないでしょうに。やはりアベルへの注目度が高いのね。なんといってもレベル8ですもの。その動向には、皆が注目しているのね」
クロエたちも冒険者たちの視線を感じて、身構えていた。人の視線って重いんだよなぁ。なんていうか、独特の重さがある。オレも未だに慣れない。
「んじゃ、行くか。予定通り、軽く飯でも食おうぜ」
オレは『五花の夢』の少女たちを引き連れながら、冒険者ギルドの食堂に足を踏み入れた。
丁度空いていたテーブルの一つを占領すると、すぐにウェイトレスが注文を聞きにくる。
「いらっしゃいませー。ご注文はお決まりですか?」
「オレは仔牛のワイン煮を頼む。バゲットにはたんまりバターを塗ってくれ。お前らはどうする?」
「あーしはステーキがいい!」
「貴女ね、この後ことも考えなさいな。もう少し軽いものにしなさい。私はサラダをもらえるかしら?」
「えぇー!? サラダだけとか! 食べた気にならなくなーい? ダイエットでもしてるの?」
「うるさいわね」
料理を注文するだけなのに、なんでこんなに時間がかかるんだろうな。そう思いつつも、オレはジゼルとイザベルの言い合いを見守った。これも少女たちのコミュニケーションだからな。この後のことを思えば、邪魔する気も起きない。これが最後の会話になるかもしれないからな……。
「冒険者ギルドのお料理は、量が多いのですけど、軽食やスイーツの類はあまりありませんねぇ」
「スイーツ! あたし季節のケーキとか食べてみたい!」
「んっ!」
なるほど。エレオノールの言う通り、冒険者ギルドの食事は、腹を満たすことが第一で、あまりおしゃれなものは置いていないな。
そして、クロエとリディはケーキが食べたい、と……。オレはあまりよく知らないが、甘味処とかに連れて行ったら喜ばれそうだな。その時は、姉貴も連れて行こう。まぁ、いずれにしろ、まず今日を生き延びないとな。
やがて少女たちの注文も決まり、ウェイトレスが去っていく。
それと同時に、オレたちのテーブルに近づく人影があった。腰の左右に剣を佩いたフル装備の冒険者の青年だ。知らない武装した冒険者の接近に、クロエたちは静かに身構えた。ジゼルなんて剣の柄に片手を置いている。マジの臨戦態勢だ。
オレは右手を上げてクロエたちを制しつつ、見覚えのある冒険者の青年に左手を上げた。
「よお、久しぶりだな。最近どうだ?」
「アベルさん、お久しぶりです。最近はぼちぼちですね」
青年は苦笑を浮かべて、クロエたちに降伏するように軽く両手を上げてみせる。クロエたちに争う意思はないと伝えているのだ。
「聞きましたよ、アベルさん。恥知らずに狙われているようですね」
「お前まで知ってるのかよ……」
「有名な話ですよ。知らない冒険者はモグリですね」
そう言い切った青年の顔には、もはや笑みは浮かんでいない。
「ご迷惑でなければ、俺たち『蒼天』にもお手伝いさせていただけませんか? 無論、お代は結構です。俺たちは貴方に恩をお返ししたい」
恩……ね。
たしかに、昔、青年のパーティをダンジョン内で助けたことがある。とはいっても、戦闘不能になった青年のパーティをダンジョンの入り口まで護衛しただけだが。
青年は、律儀にそのことに感謝し、今回、手助けを申し出てくれた。
本当に、情けは人の為ならずってやつだな。
「ありがたい申し出だ。だが、もう仕掛けは始まっててな。わりぃが、今回はパスさせてくれ。だが、お前らの気持ちは受け取った。ありがとよ」
「そうでしたか……。せっかくの恩返しのチャンスと思ったのですが、乗り遅れたようですね」
青年の真剣な顔が解れ、苦笑を浮かべる。
「ああ。なにかあったら、また頼らせてくれ。『蒼天』の名前、覚えたぜ」
「ありがとうございます! 俺たちも頼ってもらえるように切磋琢磨していきます」
まったく、気持ちのいい青年だったな。ああいう奴を見ると、冒険者もまだまだ捨てたもんじゃないと思えるな。
「『蒼天』といえば、レベル5ダンジョンを踏破した若手の注目株じゃない。そこに惚れ込まれているなんて……。分かっていたことだけど、貴方ってすごいのね」
「叔父さんすごい!」
「アベるんやるじゃん!」
そんなにすごいことでもないんだがなぁ。まぁ、クロエたちに褒められるのは悪い気がしない。もっと褒めて!
しかし、ご満悦だったオレの機嫌は、この後急降下する。冒険者ギルドに入って来た五人の人影を見たからだ。
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