上 下
64 / 124

064 オオカミ

しおりを挟む
「GArurururururururururururururururururururu」
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」
「GUaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」

 右前脚を失ったオオカミが、その大きな牙を剥き出して唸り声を上げる。それに呼応するように残った三体のオオカミが、イザベルを中心に置いた前方集団に襲いかかった。

「はぁあ!」
「ぐぬっ!」

 左に展開するエレオノールは、二体のオオカミを押し留めようと前に出る。

「なっ!? くっ!」

 しかし、エレオノールに真っ直ぐ向かっていたオオカミたちは、エレオノールと衝突する直前で、まるでフェイントをかけるようにサイドステップを踏むと、エレオノールを避けて、悠々とその横を通過する。

 完全にエレオノールが抜かれてしまった。エレオノールはパーティの守りの要。エレオノールが抜かれてしまうと、パーティの中で一番防御力の低いイザベルが、敵の脅威にさらされてしまうことになる。これはマズい。非常にマズい事態だ。

「トロワル! 放ちなさい! ストーンショットッ!」

 チュドンッ!!! ドゥオンッ!!!

 爆発音のような音が二回響き渡り、イザベルに迫るオオカミ二体のオオカミの内、右の一体が跡形も無く消し飛ぶ。

 イザベルが待機させていた石の槍が高速で発射され、断末魔を上げる暇を与えないほど刹那の時間でオオカミを瞬殺したのだ。相変わらず、イザベルの精霊魔法の威力は素晴らしい。今のままでも高レベルダンジョンで通用するほどの威力を秘めている。

 しかし、その威力に反して連射性は最悪だ。既にストーンショットを放ってしまったイザベルに、残ったオオカミを撃滅する手段は無い。

 オレは、左手をイザベルに迫るオオカミに向けながら収納空間を展開する。オレの手のひらの向こうに、光さえも反射せず、現実味の薄いどこまでも落ちていきそうな黒い穴が出現する。

 収納空間の中に眠る発射済みのボルトの残数は、1000を超える。オオカミを消し飛ばすなど、造作もない。

 しかし、オレは敢えてボルトを射出せずに見守っていた。リディの動く姿が見えたのだ。

 リディは駆ける。

 地面に敷かれた腐葉土の厚い絨毯に翻弄されながらも駆け抜け、必死にその手をオオカミへと伸ばした。

「お姉、さまっ!」
「GYAU!?」

 獰猛なオオカミの爪がイザベルに届く間一髪といったところで、リディの持つ得物がオオカミの首へと届いた。長い柄にの先端に、ひの字を描く刃が光る奇妙な武器。さすまたと呼ばれる主に殺傷能力よりも、捕縛能力に重きを置いた武器の一種だ。

「んっ……ッ!」

 イザベルに飛び掛かるオオカミの軌道が、横からのリディの突撃を受けて、イザベルの右へと逸れた。危ういところで、イザベルはオオカミの魔の手から脱することに成功した。

「GUGAA!?」

 イザベルにその爪を突き立てるまで、あとちょっとのところまで迫ったオオカミが、リディの操るさすまたによって地面に叩きつけられた。

 オオカミの首に喰い込んだひの字を描くさすまたの刃が、オオカミを地面に縫い付ける。

「GAUGAU!」
「んーっ……!」

 オオカミが暴れるほどに、さすまたの刃がオオカミの首に喰い込み、オオカミの首から白い煙が上がり始めた。リディは暴れるオオカミの力に飛ばされそうになりながらも、その小さな体で、懸命にさすまたでオオカミを地面に繋ぎ留める。愛しのお姉さまを護るためにリディは本気だ。

「そのまま確保をっ!」
「んっ……!」

 エレオノールが、リディによって地面に縫い付けられたオオカミの頭に向かって剣を振り下ろす。

「GYAU!?」

 エレオノールが二度、三度とオオカミの頭に剣を振り下ろすと、オオカミは白い煙となって消えた。ようやく倒したか。

 エレオノールがオオカミを屠ると同時に、右手でも白い煙が二つ上がるのが見えた。ジゼルとクロエが、一体ずつオオカミを倒したのだ。

 オレは左手のエレオノールたちを見守りつつ、右手のクロエたちも見守っていた。ジゼルもクロエも危なげなく、オオカミを討伐することに成功していた。ジゼルは一騎打ちの果てにオオカミを倒し、クロエは不意打ちでオオカミを屠ってみせた。

 クロエとジゼルには、合格点をあげてもいいだろう。問題は、エレオノールか……。二体のオオカミを素通りさせてしまったのは、大失態だ。

「おっつおっつー!」
「やった! 勝てたわ!」
「とりあえず終わったわね。後続の敵襲がないか警戒しなさい。怪我人は居るかしら?」
「あーし、爪で引っ掻かれちゃった。ちょー痛い!」
「リディに治してもらいなさい。リディ、お願い」
「んっ!」

 エレオノール本人も分かっているのだろう。戦闘に勝利したというのに、エレオノールは皆の輪の中には入らず、浮かない顔をしていた。

 エレオノールは、極力目立つようにピカピカの鎧を着て、真っ赤なマントまで羽織っている。本人もモンスターの注目を集めようと対策をしているのだが、それでもオオカミに素通りされてしまった。

 なにか更に対策を考える必要があるな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します

すもも太郎
ファンタジー
 伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。  その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。  出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。  そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。  大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。  今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。  ※ハッピーエンドです

見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる

盛平
ファンタジー
新米動物看護師の飯野あかりは、車にひかれそうになった猫を助けて死んでしまう。異世界に転生したあかりは、動物とお話ができる力を授かった。動物とお話ができる力で霊獣やドラゴンを助けてお友達になり、冒険の旅に出た。ハンサムだけど弱虫な勇者アスランと、カッコいいけどうさん臭い魔法使いグリフも仲間に加わり旅を続ける。小説家になろうさまにもあげています。

俺だけ異世界行ける件〜会社をクビになった俺は異世界で最強となり、現実世界で気ままにスローライフを送る〜

平山和人
ファンタジー
平凡なサラリーマンである新城直人は不況の煽りで会社をクビになってしまう。 都会での暮らしに疲れた直人は、田舎の実家へと戻ることにした。 ある日、祖父の物置を掃除したら変わった鏡を見つける。その鏡は異世界へと繋がっていた。 さらに祖父が異世界を救った勇者であることが判明し、物置にあった武器やアイテムで直人はドラゴンをも一撃で倒す力を手に入れる。 こうして直人は異世界で魔物を倒して金を稼ぎ、現実では働かずにのんびり生きるスローライフ生活を始めるのであった。

勇者召喚に巻き込まれたモブキャラの俺。女神の手違いで勇者が貰うはずのチートスキルを貰っていた。気づいたらモブの俺が世界を救っちゃってました。

つくも
ファンタジー
主人公——臼井影人(うすいかげと)は勉強も運動もできない、影の薄いどこにでもいる普通の高校生である。 そんな彼は、裏庭の掃除をしていた時に、影人とは対照的で、勉強もスポーツもできる上に生徒会長もしている——日向勇人(ひなたはやと)の勇者召喚に巻き込まれてしまった。 勇人は異世界に旅立つより前に、女神からチートスキルを付与される。そして、異世界に召喚されるのであった。 始まりの国。エスティーゼ王国で目覚める二人。当然のように、勇者ではなくモブキャラでしかない影人は用無しという事で、王国を追い出された。 だが、ステータスを開いた時に影人は気づいてしまう。影人が勇者が貰うはずだったチートスキルを全て貰い受けている事に。 これは勇者が貰うはずだったチートスキルを手違いで貰い受けたモブキャラが、世界を救う英雄譚である。 ※他サイトでも公開

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

処理中です...