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063 緑のヴェールの向こうから
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「ふぅ……」
自分の思った以上に深いため息が出た。不快なほど湿度の高いダンジョンの中は精神を疲弊させ、足元に堆積した腐葉土に足を取られ、普通に歩く以上に体力を消耗する。ダンジョンなんてどこでもそうだが、決して快適な環境とは言えない。
そして、いつモンスターの奇襲があるかも分からない状況は、無駄に神経を擦り減らしていく。深いため息が漏れるのも仕方ない。
だが、クロエをはじめとしたパーティの女の子たちは、オレ以上に疲弊していることだろう。元々体力の基礎が違うからな。
「うぐー……はぁ……はぁ……」
オレの前を歩くリディなんて、既に肩で息をしている。リディのぶかぶかの修道服の裾は茶色く汚れ、その歩みは一歩一歩力が入っているのが分かる。パーティの中で一番身長の低いリディは、腐葉土の中を歩くのに、とても苦労しているようだ。皆より相対的に高く足を上げねばならないし、一歩一歩の歩幅が違うせいで、皆より歩数を多く歩かないといけない。
それでも愚痴を言わずにひたむきに歩き続けるリディだが、だんだんとイザベルたちとの距離が開いてきていた。
「もうちょっとペースを落として行こう」
「分かったわ」
前方集団に聞こえるように、少し声を張り上げて言うと、すぐにイザベルの返事が返ってくる。そのことに満足していると、リディが振り返ってこちらを見ていた。その顔には、汗は滝のように浮かんでいるが、目立った感情は浮かんでいない。相変わらず、表情の読めない子だ。
「あり……がと……」
それだけ口にすると、リディはまた前を向いて歩き出す。案外、リディには律儀なところがあるな。
「気にするな」
オレもそれだけ言うと、リディを追うように腐葉土に覆われた道を踏みしめるように歩き出す。ズボッと腐葉土に埋まった足を上げると、前に踏み出す。ズボッと一気にオレのスネの半分ぐらいまで腐葉土に埋まる。これの繰り返しだ。いい加減、嫌になる。
リディの疲労は明白。前を見れば、イザベルたちも顔を俯かせて、周囲を十分に見張れていないことが分かる。警戒が疎かになり、歩くのに精一杯になるほど疲れが溜まっているのだ。
そろそろ休憩の号令を出すべきだな。
「一度休憩を……」
ガサガサッ……!
休憩の指示を出そうとした瞬間、右の草木に覆われたヴェールの向こうから微かに物音がした気がした。
「戦闘準備ッ!」
オレは大声で叫ぶと、ヘヴィークロスボウを右の壁へと構える。その時だった。
ガサガサッ!
今度は間違いなく右の壁の中から白銀の輝きが飛び出してくる。
ボゥンッ!!!
「ちょわっ!?」
白銀の光は、矢のように真っ直ぐにジゼルへと向かう。突然のできごとに、ジゼルの驚愕の声が耳朶を打つ。その時には、既に白銀の光は白い煙へと変わっていた。オレがヘヴィークロスボウで白銀を打ち抜いたのだ。
「わぷっ!?」
白銀の光と衝突する寸前だったジゼルの顔に、白い煙が叩きつけられた。危なかったな……。少し遅れていたらジゼル首から上が喰い千切られるところだった。
ジゼルは慌てたように白い煙を避けると、今頃いそいそと剣を抜き放つ。
「隊列を乱すなッ! 敵襲だ!」
オレはヘヴィークロスボウを投げ捨て、腰に佩いた剣を抜く。オレは長年連れ添った相棒を手に、しかし、動かない。敵がどこから襲ってくるか不明な以上、ここを動くわけにはいかないのだ。
「トロワル! ストーンショット形成! 待機!」
森の中に、イザベルの声が響く。契約している精霊に魔法を行使するように命じているのだ。その凛とした声に群がるように、草木に覆われたヴェールの向こうから、白銀の光が飛び出してくる。
「オオカミッ!」
今度は敵の奇襲に気が付けたジゼルが叫ぶ。右の壁から四体もの大型のオオカミが、襲いかかってきたのだ。
「こちらにも来ましたわッ!」
エレオノールの方を見れば、同じく四体ものオオカミがエレオノールに襲いかかるところだった。
「チッ!」
最悪だ。どうやら、二つのオオカミの群れに同時に襲われたらしい。オレは、クロエたちの実力を信じる一方で、今のクロエたちには荷が重いと判断した。
このダンジョンに潜っての初戦だ。できれば勝利で飾りたい。
オレは、手札を一つ切ることを決めた。
オレは両手をそれぞれ左右のオオカミの群れに向けると、収納の空間を開く。オレが取り出した物は―――。
ダダダダダダダダダダダッ!!!
激しい破裂音を響かせて登場したのは、目には見えないほど高速で飛翔するボルトの群れだ。オレが一発一発ヘヴィークロスボウで撃ち、収納空間に眠らせておいた凶弾の群れ。まるでオオカミたちを逆に喰い千切るように、ボルトの嵐が吹き荒れる。
「なっ!?」
「ほえっ!?」
その咢を開いて、今にもエレオノールとジゼルに喰らい付こうとしていたオオカミが、横に吹っ飛ばされ、白い煙となって消える。その様子に驚愕の顔を浮かべるパーティの面々に、オレは檄を飛ばす。
「敵はまだ残ってるぞ! 気を抜くな!」
ボルトの嵐が吹き荒れた後、残ったオオカミは半減していた。
自分の思った以上に深いため息が出た。不快なほど湿度の高いダンジョンの中は精神を疲弊させ、足元に堆積した腐葉土に足を取られ、普通に歩く以上に体力を消耗する。ダンジョンなんてどこでもそうだが、決して快適な環境とは言えない。
そして、いつモンスターの奇襲があるかも分からない状況は、無駄に神経を擦り減らしていく。深いため息が漏れるのも仕方ない。
だが、クロエをはじめとしたパーティの女の子たちは、オレ以上に疲弊していることだろう。元々体力の基礎が違うからな。
「うぐー……はぁ……はぁ……」
オレの前を歩くリディなんて、既に肩で息をしている。リディのぶかぶかの修道服の裾は茶色く汚れ、その歩みは一歩一歩力が入っているのが分かる。パーティの中で一番身長の低いリディは、腐葉土の中を歩くのに、とても苦労しているようだ。皆より相対的に高く足を上げねばならないし、一歩一歩の歩幅が違うせいで、皆より歩数を多く歩かないといけない。
それでも愚痴を言わずにひたむきに歩き続けるリディだが、だんだんとイザベルたちとの距離が開いてきていた。
「もうちょっとペースを落として行こう」
「分かったわ」
前方集団に聞こえるように、少し声を張り上げて言うと、すぐにイザベルの返事が返ってくる。そのことに満足していると、リディが振り返ってこちらを見ていた。その顔には、汗は滝のように浮かんでいるが、目立った感情は浮かんでいない。相変わらず、表情の読めない子だ。
「あり……がと……」
それだけ口にすると、リディはまた前を向いて歩き出す。案外、リディには律儀なところがあるな。
「気にするな」
オレもそれだけ言うと、リディを追うように腐葉土に覆われた道を踏みしめるように歩き出す。ズボッと腐葉土に埋まった足を上げると、前に踏み出す。ズボッと一気にオレのスネの半分ぐらいまで腐葉土に埋まる。これの繰り返しだ。いい加減、嫌になる。
リディの疲労は明白。前を見れば、イザベルたちも顔を俯かせて、周囲を十分に見張れていないことが分かる。警戒が疎かになり、歩くのに精一杯になるほど疲れが溜まっているのだ。
そろそろ休憩の号令を出すべきだな。
「一度休憩を……」
ガサガサッ……!
休憩の指示を出そうとした瞬間、右の草木に覆われたヴェールの向こうから微かに物音がした気がした。
「戦闘準備ッ!」
オレは大声で叫ぶと、ヘヴィークロスボウを右の壁へと構える。その時だった。
ガサガサッ!
今度は間違いなく右の壁の中から白銀の輝きが飛び出してくる。
ボゥンッ!!!
「ちょわっ!?」
白銀の光は、矢のように真っ直ぐにジゼルへと向かう。突然のできごとに、ジゼルの驚愕の声が耳朶を打つ。その時には、既に白銀の光は白い煙へと変わっていた。オレがヘヴィークロスボウで白銀を打ち抜いたのだ。
「わぷっ!?」
白銀の光と衝突する寸前だったジゼルの顔に、白い煙が叩きつけられた。危なかったな……。少し遅れていたらジゼル首から上が喰い千切られるところだった。
ジゼルは慌てたように白い煙を避けると、今頃いそいそと剣を抜き放つ。
「隊列を乱すなッ! 敵襲だ!」
オレはヘヴィークロスボウを投げ捨て、腰に佩いた剣を抜く。オレは長年連れ添った相棒を手に、しかし、動かない。敵がどこから襲ってくるか不明な以上、ここを動くわけにはいかないのだ。
「トロワル! ストーンショット形成! 待機!」
森の中に、イザベルの声が響く。契約している精霊に魔法を行使するように命じているのだ。その凛とした声に群がるように、草木に覆われたヴェールの向こうから、白銀の光が飛び出してくる。
「オオカミッ!」
今度は敵の奇襲に気が付けたジゼルが叫ぶ。右の壁から四体もの大型のオオカミが、襲いかかってきたのだ。
「こちらにも来ましたわッ!」
エレオノールの方を見れば、同じく四体ものオオカミがエレオノールに襲いかかるところだった。
「チッ!」
最悪だ。どうやら、二つのオオカミの群れに同時に襲われたらしい。オレは、クロエたちの実力を信じる一方で、今のクロエたちには荷が重いと判断した。
このダンジョンに潜っての初戦だ。できれば勝利で飾りたい。
オレは、手札を一つ切ることを決めた。
オレは両手をそれぞれ左右のオオカミの群れに向けると、収納の空間を開く。オレが取り出した物は―――。
ダダダダダダダダダダダッ!!!
激しい破裂音を響かせて登場したのは、目には見えないほど高速で飛翔するボルトの群れだ。オレが一発一発ヘヴィークロスボウで撃ち、収納空間に眠らせておいた凶弾の群れ。まるでオオカミたちを逆に喰い千切るように、ボルトの嵐が吹き荒れる。
「なっ!?」
「ほえっ!?」
その咢を開いて、今にもエレオノールとジゼルに喰らい付こうとしていたオオカミが、横に吹っ飛ばされ、白い煙となって消える。その様子に驚愕の顔を浮かべるパーティの面々に、オレは檄を飛ばす。
「敵はまだ残ってるぞ! 気を抜くな!」
ボルトの嵐が吹き荒れた後、残ったオオカミは半減していた。
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