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後編 魔法学園での日々とそれから

184.もう一度、あの六人で

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「ねぇ、ジェニー! ダニエル様とは最近どうなの?」
「アリス、ノリまで若いわね……。おかしいわね、いつものアリスもアリスらしいわと思いながら会話していた気がするのに……」

 二人きりだからこそ話せることってあるよね。久しぶりすぎて色々とみなぎってくる。
 
「もうー、ジェニーまで。普段はもっと落ち着いてる。今はジェニーと二人きりで興奮状態なだけ」
「ふふ。これからは二人になる時間も設けさせてもらおうかしら。あーあ、毎日アリスとも暮らしたいわ……」
「私だって、ジェニーとも暮らしたい。二人きりにもなりたい。ねぇ、ラブラブなの?」
「そうね……でもアリスたちほどではないかもしれないわ。まさか、もう一人産むとは思わなかったわよ」

 こーゆー系の話って、結局のところエロスだよね。さすがに、どれくらいの頻度でするのとかは聞けない。

「うん……正直なところ、若い時と違って出産後の体の回復も遅かったんだよね……抱っこも腰にくるし。気持ちは若いのに体がついていかない」
「そうよね」
「でも、ジェニーは一学年差で二人目だったもんね。それもすごいと思ったけど」
「あんなにすぐできるとは私も思わなかったわ。さすがに次は開けたわよね」

 ジェニーたちには、セドリックと同い年の第一王子と、一学年下のさっき会ったステファニー、それから十一歳の第二王子がいる。

 二十代ならすぐに妊娠するってお母さんも言ってたからなぁ。私も実際そうだった。
 アラフォーでは、あと一人と思ってから何年もかかった。お母さんから昔聞いたアドバイスがあったから諦めの境地での妊活だったけど、やっぱり辛かった。

「はー……、ジェニーったら相変わらずスタイルいいよね」
「まだそんなこと言って。いいじゃない、レイモンド様はお好きなのでしょう?」

 どう聞いても下ネタだ。そんな話の振り方をジェニーがするようになるとは。

「今さらもっとよければとは思わないけど……やっぱりエロティックでグラマラスなプロポーションを目の前にすると、くらくらする」
「何をどうやって、そんなにまでアリスはアリスのままでいられたのかしら」
「人間、変わらないよね……」
「それはそうね」

 落ち着きのあるチュニックワンピースに短めのハーフドレープパンツを合わせる。運動用だ。私もさすがに今は公私ともにロリータ服を着ていない。最低限のフリルはついているけどね。

「着替えたわよ」

 扉を開けてジェニーがダニエル様とレイモンドにそう伝え、もう一度魔女さんを呼び――、私たちは懐かしのその場所へと降り立った。

  ◆◇◆◇◆

「お、お久しぶりです!」

 待っていてくれたユリアちゃんとカルロスが立ち上がった。残念ながら魔女さんはすぐに消えた。

 そう――、ここは最後に六人で遊んだ公園の運動施設だ。貸し切りにしてもらった。外ではかなりの警備体制になっているけれど……二人はそれを知らないかな。準備ができたら同じ方向を向いて目をつむって魔女さんを呼んでほしいとあらかじめお願いした。
 彼らは背中越しに魔女さんを感じはしたものの、瞬時にここに来ただけで姿は見ていないはずだ。

「元気だったか」
「はい。かなり遅くなってしまいましたが、ダニエル様、御即位おめでとうございます」
「そんなに固くならなくていい。私も疲れる。昔のままでいい」
「は、い……。なかなか難しいですが、そういたします」
「まだ固いな。アリス嬢もいるし、じきに戻るか……」

 やっぱりアリス嬢呼びになるんだ。

 カルロスはいつも私たちが親善試合を観覧しに行く時には警護についてくれる。視察や、要人が来る時の警護にも彼がいる。普段も特殊な訓練をしていたり持ち回りで城の警備をしたりだ。
 爽やかさは、かなり消えたかな。いい意味で軍人らしくなっている。警護をしている時の彼はビリッとした緊張感を身にまとっている気はするけど、今はそれがない。

 ユリアちゃんは、そんなに変わっていない。前よりも安定感が増したかな。そのまま、いいお母さんになりましたって感じ。

「ジェニファー様……お久しぶりです。またお会いできて本当に嬉しいです」
「ふふ、ジェニーでいいのよ。ユリアの魔道具はたまにアリスが持ってきていたわよ。そうでないものも頼まれていたみたいだけど。砂絵キットも子供と遊んだわ」
「ああ……光栄です」

 やっぱり二人とも気後れするよね。
 国王陛下と国王妃だしね。

「よぅし! じゃ、皆で遊んじゃおう! せっかく卓球が一般に解禁になるわけだしね!」

 緊張をほぐすためにも年甲斐もなくはしゃいでみせる。ちょっと恥ずかしいけどね。
 
 こっちの世界でもプラスチックが開発された。安価になりつつある。材料が向こうと同じなのかは分からないけれど、よく似ている。ボールやラケットはここで販売し、持ち込みする形だ。予約制で卓球台を使用できるようになる。

「え、アリス様。まだその口調だったんですか」
「人間、変わらないよ。もう突っ込まれ飽きた」
「私はもう、あっちのアリス様に馴染んでしまっていました」
「ユリアちゃんとは、よく会っているもんね。呼びつける形で。使用人もいるしねー……。ここでは様はやめておいて。ダニエルさんにもそうしてって言われたし。偉い人になっちゃった気分になるから、まだ慣れないんだよね」
「まだ慣れないって……もう慣れる日は来ないんじゃないかな。俺以外の前でその口調なのは久しぶりに見るなー。あ、魔女さんを除いてか」
「あれ、レイモンド様もそんな感じなんですね」
「まぁね。いつも俺、偉そうにしているしね」
「むしろ、こっちのお前の方が偉そうなんじゃないか」
「一番偉いのに言われてもね」
「……ったく」

 私たちの会話を聞いて、ジェニーがくすくすと笑う。

「変わらない、あの時と変わらないわね……っ」

 少し涙が滲んでいる。嬉しいからだ。
 私も少しつられて滲んでしまう。

 そうだ。
 この六人で集まれたのなら変わらない。
 変わらないでいられる。

 いつか――、途絶えてしまう日が来る。
 だから今日は思い切り笑おう。

「じゃ、総当たりでいこっか! 実は私、レイモンドとたまに卓球をしているの。私の回転サーブを受け止められるかしら!」
「あら、アリス。私もダニーとたまにしているのよ。ふふっ、どちらがあれから上達したのかしらね」
「え……いきなり勝てる気がしなくなった」
「早いわよ、アリス……」
「アリスさん~、私、ハンデをもらった方がよくないですか?」
「ユリアちゃんが一番キツそうな気はするよね」
「ですよね」

 私はレイモンドとの卓球の他にも、正式な夜会に年に一度くらい召喚という形で呼ばれることもある。ダンスも踊るからまだ鍛えてはいるものの……ユリアちゃんはどうなんだろう。
 子供も二人いるけど、もう大きいから抱っこも必要ない。たぶん一番鍛えてはいないかも……?

 ――この日はキャーキャーワーワー言いながら昔のように盛り上がった。
 
 ユリアちゃんは「ラケットをずっと持っていたら軽く右指が痺れていますー」と言っていた。若い時はそんなこともなかったし、体力も前ほどは続かない。

 でも……。

「私、皆に出会えて本当によかった。お互い、長生きしようね!」

 数年に一度でもいい。
 魔女さんには申し訳ないけど、続けられる限り続けたい。

 私たちは有限の時間を、かつてのように笑いながら最大限に楽しんだ。

 次に集まる時には、宴会セットでも用意してもらおうかなー、なんてね。 
 
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