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 1、2限が終わり昼食の時間。食堂は、かなりの人で埋め尽くされ、なかなか席には座れない。座れない人らは、空き教室へと飯を運ぶ。


 幸い私は、授業を早く教授が終えてくれたため、四人座れる机一人で座っている。何か嫌なやつだが、そういう人は結構いる。一人で座れるところは、もう既に満席なのだ。別に誰かが、ここ座っていいですかなんて言ってきたら、快く承諾する。


 カツカレーを頼んで、トレーで席まで運んでくる。かなりの人が席を探す中で、四人席に座るのはモヤモヤする。でも、空き教室に持って行き、持って帰るのはなかなかめんどい。誰か座ってくれればいいのだが、誰も来ない。


 いつものことだ。私は、目つきが悪いらしい。高校の時の友達によく言われた。高校のではなく、高校の時の友達と言うのは、もう既に関係性は切れたからだ。


 高校を卒業してから、きたラインを返さなくなった。すると、必ず会うという機会もないから、関係は終わる。途端に楽にもなったし、呆気なさを感じて少しだけ切なくもなった。きっと、もしそこでラインを返していても、それだけの関係でいずれ終わっただろう。

「ここ座ってもいいですか?」
  
 そんなことを思っていると、急に女子が尋ねてきた。

「あ、いいですよ」
 
 あ、とつけるのは少し自分を落ち着かせるためだ。最初に、「あ」や「え」と、つけてしまうのが私の癖だ。彼女は一人で、荷物を横の席に置いている。男と女が一人ずつで、誰かが席に座ってくる事はないのを分かっている。だから、私の席を選んだのだろう。


 そんな風に深く考えていないだろうが、私はなぜ自分が選ばれたのかということを気にする。彼女の方に少しだけ目をやると、同じカツカレーを食べていた。なんか、たくさん食べそうでいいなと思った。どうやら、私は食べる女の人が好きならしい。

「カツカレーおんなじですね」

「え?」

 ドキッとした。まるで、頭の中を見られていたようだ。

「あ、おんなじですね」

 咄嗟に言葉を紡ぐ。最近人と喋っていないせいか、バクバクする。

……会話は終わったらしい。彼女は、カレーを口に素早く何度も運ぶ。「なんで話しかけてきたんだ?」 心の声が、声にはならないが、口元を少しだけ動かさせた。私もカレーを食べる。なんか、変な自分の焦りとカレーの辛さが、身体をやけに暑くしていく。

「何年生ですか?」
 彼女は、私の目を当たり前のように見ながら喋ってくる。私も相手の顔を見なければと、視線を上の方にやるが、首の辺りが限界だった。

「2年です」

「あ、おんなじだ」
 おんなじだから、なんなのだろう。

「高校は?」
 なんか、どんどん質問してきて嫌になるが、答えないのもおかしいので一応返す。

「○○高校」

「へー、そうなんだ」

 特に何の関係値もなかったらしい。ここで、「あ、○○いたでしょ?」なんて言ってこられたら、相手はかなりの友達や知り合いを持っている。

 
 そこで、不用意に知ってるなんて言えば、「高校時代の○○どうだった?」とか「△△は知ってる?」なんて返される。高校時代、目立っていなかった者にとって、地獄のクイズだ。


 逆に、知らないと言えば、「え、結構目立ってたと思うけど?」なんて言われ、自分が相手よりも格下な事が確定する。目立ってたから、知らないのだ。自分には、縁のない人間だ。いけない。いろいろ妄想し過ぎた。


 彼女の方を見ると、彼女はにやけてる。

「え、どうしたの?」
 なんか、さっきまでとは違い、自然に言葉が出た。

「なんで、そんな不満気な顔でご飯食べてるのw」 

 にんまりしている。少しだけ可愛いと思った。

「いや、考え事しててw」
 笑いながら言って、ごまかす。
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