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本編
910 込める思いは何だって一緒だ
しおりを挟む「——食に関してはあんたが弱者だ」
「……なに? わしが弱者だと?」
飯なんて関係ない、とばかりに殺気を剥き出しにするトウテツ。
「ヌハハ! 今すぐ無慈悲に、一捻りに……してやろうか?」
顔は笑っているが、声色は一切笑っちゃいなかった。
「トウテツ、一つ良いか?」
フラフラとおぼつかない小さな足に力込め、俺は立ち上がった。
背筋をしっかりと伸ばし、大地を踏み締め、トウテツを見据えて言う。
「一つ、勝負をしないか?」
「ヌハッ! まさかとは言わんが、食い道楽での勝負ごとか?」
「そうだよ」
勝負どころだ。
今の俺にできることは、こいつに強く訴えかけることだけ。
力では勝てない。
ならば、可能性のある土俵に引きずり込むのだ。
最後の晩餐と称して食べた飯につられて、こいつは俺の土俵に来た。
インベントリにあるポチの残した料理。
どんな状況でも、最後の最後まで俺は諦めないぞ。
「それを勝負とは言わんぞ、坊主」
「ならもう一つ聞くけど……あんたは戦う時、その拳にどんな思いを込めるんだ?」
「もちろん、必ず打ち倒すという絶対的な意志よ!」
「でしょ? でも、それはどんな時だって同じなんだよ」
俺も装備には自分の出来る限りの最善を尽くす。
つまり、魂を込めるんだ。
製作だって、料理だって、何だっていつだって戦いである。
「そういう意味では、さっきのくだりでは、お前は弱者ってことになるんだわ」
「ほう、一理あるが、再びわしを弱者呼ばわりしたな? 喰った後のお前との約束を反故にするぞ?」
「元より信頼してないけどな。まあ、撤回して欲しかったら勝負で俺に勝つしかないよ」
「たかが飯に勝ち負けなど存在するものか。喰らいたい時に喰らう、それだけだろうに」
「そう思うんだったらそれで良いさ」
仮に勝負事だと認めずに、俺を一瞬で殺しても残り続けるぞ。
俺の食べていた料理を食べたがったという事実は、一生消えない。
匂いを嗅いだ瞬間に気づいたはずだ。
「……仮に勝負だとして、どうやって勝敗をつけるつもりだ?」
「単純だよ、もう一度食いたいくらい美味かった。そう一言を言わせれば勝ち」
「話にならんな」
トウテツはそう吐き捨てながら続ける。
「勝負というのはわかりやすい形で決着しなければ一生終わらんものだ。貴様ら人間が血で血を洗うような争いをいつまで立っても続けとるのがその愚かな考え方の証拠でもあるだろうに。飯が美味かった方が勝ち? フンッ、そんな嘘がつけるような決着の付け方なんぞ、勝負のうちには入らんぞ?」
脳筋かと思っていたが、存外頭の回る奴だった。
「つまらんな」
殺気が一気に膨れ上がっていくように感じた。
威圧感だろうか。
巨大な圧力が全身を襲って、背筋や首筋がピリピリと痙攣しているようだった。
「かなりの胆力を持っているかと見ていたが、いちいち下らん理屈をこねくり回して面倒だ。わしの優先順位は一つ、アローガンスをぶちのめすこと、お前と無駄な問答をしている暇は無い」
くそ、失敗したか。
こいつの求めているものは、単純明快な答え。
話が通じるタイプかと思ったが、通じなかった。
状況的には最初から詰んでいたのかもしれない。
「もっとも、願いを聞いてお前の言う勝負とやらはその次に回してやろう」
「……」
「せいぜいわしの腹の中で、あっと驚くような飯を考えておくことだな」
「……チッ」
思わず舌打ちが出る。
ポチの残した飯に存在していた一つの可能性が、たった今潰えてしまった。
「ヌハハハハッ、約束を信じとらんかったようだし、守るつもりは毛頭無いぞ」
トウテツは巨大な手で俺を掴み上げる。
蛇のように、顎の関節が外れたのかってくらいに口を開いた。
クソッ!
考えろ、考えろ。
ダメだ、考えても何も思い浮かばない。
ダンジョンのデバフ効果さえなければ、ガチンコで勝負を挑めたってのに。
こいつの土俵に上がれたってのに、ちくしょう。
俺は、ここで終わりか——。
「——チビ」
「——ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
=====
トウジの領域展開【理屈捏ねくり回し謎理論展開】
これは相手の頭をなんか錯覚させて、一時的におかしくしてしまう技。
サイン本のプレゼント企画がやりたいけど
ほしい人がいない説が浮上していて悲しみにくれております。
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