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本編
907 饕餮
しおりを挟む鈍くなった思考回路を必死に動かして考える。
俺は今どうなっている。
どう考えても、これは先ほどとは比べ物にならないサイズだった。
手を見る、足を見る、全てがミニマムである。
「どうしてこうなった?」
呟きながら一つ一つアウトプットする情報を精査していく。
恐らく、装備に蓄積された特殊強化分の魔力が要因だ。
「それが空に打ち上げられ……そして……」
はるか上空にあるエンチャント・ダンジョンコアと反応。
莫大な魔力的リソースを得た簡易式エンチャント・ダンジョンコアが力を増した。
だからこそ、今の状況となっているのだ。
ステータスは全て1、装備レベルも1。
装備の内容に至っても、装備効果は消え去り強化補正や潜在能力も全て1となるマイナスデバフ。
「やべえ」
0という存在しない単位にならなくてよかった。
そう心の底から思う。
存在が消えてしまう可能性だってあったのだから。
だが、そんな気持ちはただの慰めでしかない。
あっさり消えてしまっていた方がむしろ苦痛はなかったんじゃないか?
そう思えてしまうほどの存在が、空から——。
「ヌハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッ」
——空から降ってくるのであった。
ズドン、とさっきまで祠があった場所に着地する3メートル弱の真っ赤な鬼。
筋骨隆々だが、オーガとは違ったもっと人間に近い見た目。
鬼だと人目でわかった角は二本あり、片方が折れている。
「ヌハハッ、儲けもんじゃわい! これは……ダンジョンコアに近いもんか?」
鬼はそう言いながら、片手に持ったエンチャント・ダンジョンコアをマジマジと見つめる。
そして背負っていた巨大な瓢箪と杯を取り出すと、愉快愉快と酒を飲み始めた。
こいつ、俺に気がついてないのか?
だったらすぐにこの場から逃れる方法を考えないと、マジで死ぬ。
よちよち歩きでもなんでも良い、今はとにかくこの場を離れよう。
俺はただ居合わせただけの赤ちゃん!
「……プハァッ、ヌハハ! よくぞ我を復活させたぞ、そこの人間」
「……」
大変だ、話しかけられてしまった。
「……ばぶー」
「赤子のフリをしたところで、わしの偶然得たこのダンジョンコアの影響であることはわかっとるぞ」
「ばぶー」
いや、偶然この場にいただけの幼気な赤ちゃんです。
という意味を込めての「ばぶー」だ。
赤ちゃん語録だ。
「赤子が偶然この場にいただけだと言うのか? ヌハ、聡明過ぎる天才坊主か?」
なんか知らんけど、伝わってしまっていた。
ダメだ、どうやっても赤ちゃんではないことがバレてしまう。
「そうだぞ、天才だぞ」
「ほーう」
苦し紛れにそう言うと、鬼は至極どうでも良さそうに酒を飲んでいた。
そしてジロリと俺に目を向けながら呟く。
「迎酒のあては赤子の肉も良さそうじゃのう……」
「良くない良くない良くない」
さらっとやばいことを言われていた。
食べても美味しくないぞ。
人生に苦労を重ねた30歳の肉なんぞ、若くなったところで渋い味しかしないだろう。
「ヌハハ、冗談じゃい。再び世界に出て、わしが最初に喰らうモノは決まっとる」
その辺に転がっていた石ころをガギガギと噛みながら、鬼は続けた。
「おい坊主、この付近に人の隠れ里は存在せんかったか?」
「隠れ里……? じゃない、ばぶー」
「今更取り繕っても遅いわ。大方貴様がわしを復活させた張本人じゃろうが、質問の答えろ」
「えっと……質問が抽象的過ぎてちょっと……貴方誰なんですか……?」
「わしか? わしはトウテツ。力の神ぞ」
トウテツ……聞いたことがある名前である。
「あっ、アローガンスにワンパンされ——」
「——ヌアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
思い出したように言った瞬間、顔面すれすれに石を投げつけられた。
超速で投げられた石は俺の側にあった地面を蒸発させる。
爆発とか爆散じゃなくて、なんか溶けたように抉れている。
も、漏れそう。
逆鱗に触れるつもりはなかったのに、迂闊だった。
「そいつは、わしが2番目に喰らってやろうと思うとるモノ……!!」
目に力を込めて、酒を一気飲みしながらの恨み節。
しかし、悔しそうにしながらトウテツは続ける。
「いつかあの塔をへし折ってやるためには、先にわしの器を喰わねばいかん」
「器……?」
「仮に顕現できたとて、装備が依代では力を十分に発揮できん。それでは勝てん」
トウテツは、アローガンスに一度負けた。
だからこそ、彼が特殊な人間であると言うことに強い希望を持ち、自分の血を引いた人間を作り出したそうだ。
それが、この土地に蔓延っていた井守衆や百足衆。
3歳から身長が背の高い成人男性だったり、あと筋骨隆々の健康優良児だったり、なんかすごいもんね。
衆の人たち。
「わしの器とこのダンジョンコアが揃えば……ヌハッ、奴なんかワンパンよ」
エンチャント・ダンジョンコアを見ながら愉快そうに笑うトウテツ。
なんとも、またワンパンされそうな未来が俺には見えた。
「坊主よ。そういうわけじゃから、知らんか?」
「えっと、知ってますけど……」
「けど……?」
「多分今は使い物にならないと思いますよ……?」
健康優良児どころか、毒でみんな幼体化しちゃってるからね。
時が戻って再びやり直すとかじゃなくて、中途半端に体は精神がデフォルメされましたって形。
半端は毒が一番厄介だよな、まったく。
「しまった、人間は互いに争い合うということを失念しとった!」
井守衆と百足衆に起こったことのありのままを伝えると、トウテツは驚いていた。
「こんな森の中で繁栄させても魔物に滅ぼされていた可能性もありますけど……」
「ヌハハ、それはない。わしの力の一旦を持つモノたちぞ」
確かにそれはうまくいったけど、結局同族同士での争いだ。
たぶん最悪の状況とかを考えず、ノリと勢いでやってしまったんだろう。
「まあ良い、そのまま蠱毒のように殺し合いをさせて、最後に残ったものを器にすれば良いだけのこと。我の魔力、人の血、そしてこのダンジョンコア……ヌハハハハハハハハハハハハッ! ヌハッ! 待っておれクソ髭、その仏頂面にワシの一撃を叩き込んでやるわい!」
……取り急ぎ、もう話は終わったかな?
なら俺はこれでお暇しようと思うんだが……許されるかな?
「情報提供終わったんで、じゃ、俺はこれで……」
「待て」
呼び止められた。
「お前が何故あの引きこもりのクソ髭アローガンスについて知っている? 奴らは基本、自陣に引きこもって出てこないはずだろうに?」
=====
トウテツついに出せた!
敵か、見方か、果たして……!?
teraのツイッター@tera_father
よろしくお願いします。
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