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本編
904 思わぬ誤算
しおりを挟む3歳の頃から2メートル近くあるだなんて、ほとんど人外である。
ついでに言えば——
「身体能力もその頃と全く変わってねえぞーぉぉ」
だ、そうだ。
「成長してもクソもやし、ということですね。さすがは百足衆100年に一人の逸材ですね」
「ぶっ殺すぞぉ?」
すだれ男は気怠そうな表情のまま、ただのスライムになってしまったキングさんを見据えて続ける。
「だがまあ、その生まれつきのおかげで死なずに済んでるんだけどなーぁぁ」
「ピキィ……?」
「どういうことだ、って言いたそうな顔してんじゃん」
本当にどういうことだ。
確かにポチの弾丸は頭をぶち抜いて、血飛沫を上げて崩れ落ちたはずだった。
その場面を俺は確と見ていた。
「なんで即死してないんだ」
「単純な話だ、昔からしぶといんだよーぉぉ」
「ええ……」
「心臓打ち抜かれようが、体の血を全部抜かれようが、1時間くらいは行動できるぜーぇぇ……まっ、そのあと治せる方法がなかったらおしまいだけどなーぁぁ」
「そこで私の出番です。即死クラスの攻撃さえも生きてさえいれば時を戻してしまう私の力によって問題はありません」
つまるところ、頭部を打ち抜かれて死にかけたけど。
時を戻して無事でした、ってところである。
そんなのありか、と思ったけど、俺も一回死んで復活してるからありなんだろうな……。
「トウジ・アキノ。貴方の攻撃能力はまるで未知数。ビシャス様でさえもその全てを理解することが未だにできていない状況です。そこで私が様々な観点から貴方を分析をした結果、やはり一番良いのは初撃の回避。ふふ、この力をノーリスクで使えてしまう私たちの情報勝利ということでしょうか」
一理ないこともない。
戦いで勝つ方法は、真っ向勝負のガチンコか、相手に全ての手札を切らせることにある。
今回は真っ向勝負を俺が仕掛けて、それをまんまと躱されてしまった。
ここからそれぞれが手札を出し合うような形なのだが……。
弱体化させられてしまった都合上、自力の差で負けかねない。
恐らく他のサモンモンスターを召喚しても、同じように退化を食らうのだろう。
そもそもが退化できないモンスターは、ポチみたいな愛くるしい感じになる。
「……どーすっかな、これ」
簡易式エンチャント・ダンジョンコアを破壊できればこの状況は好転する。
あくまでこの領域内でのみ、こうした状況になっているのだから。
さすがに破壊してもこのままだなんて、無いはずである。
そのままだったとしたら、イグニールとの年齢差がとんでもないことになるぞ。
少し年の離れたお兄さんっぽいのがパパだなんて、子供の教育に悪過ぎる。
「どうするもこうするも、貴方はここでおしまいですよ。この状況は私たちの勝ち確なんですから」
いちいち勝ち誇った顔をする目の前のローブ男を黙らせたい。
しかし、まだ何か隠し持ってそうなすだれ男に睨みを効かされキングさんも動けない。
さすがのキングさんも、ただのスライム状態では勝ち目がなさそうだった。
せめてもの救いは、装備レベルも一緒に下がることで弱体化はしたものの装備の効果は残っていること。
ステータス補正は大幅な弱体化を食らってはいるが、即死を防ぐ能力は健在だ。
「ポチ、戻れ」
俺の腕に抱かれて眠ってしまったポチを図鑑に戻すと、ロイ様とゴクソツを召喚した。
少し顔がマイルドになった小鬼のオーガとスライムキングを両脇に、片手剣を両手に握りしめて構える。
もう泥仕合だ。
基礎戦闘能力は下がってしまったとは言え、キングさんの特殊能力は健在。
自力の差は、仲間と一緒に埋めるんだ。
「……ん? スライムキング?」
「プルァ?」
何か問題でも? と言いたげな表情をするロイ様。
……あ、そっか。
ロイ様はスライムロイヤル。
つまり、スライムキングから進化した最上位系統のスライムだった。
強制退化したとてただのスライムキングに戻るだけなのである。
「プルァ!」
「プルァ?」
スライム状態になったキングさんと、スライムキング状態になったロイ様が何やら話していた。
とても分かり辛いのだが、キングさんはスライム状態なのだから「ピキィ」あたりにしてもらえないだろうか。
多分、してもらえないだろうな。
プルァと取ってしまったらそれはもうキングさんではない気がする。
「……ピ、ピキィ」
なんらかの話し合いの末、なぜかロイ様がむりくり野太い音声でピキィと言い始めた。
……作戦会議かと思ったら、口調を変えろとのお達しだったらしい。
そもそもスライム語なんて俺にはわからんし、プルァでもピキィでも一緒なんだが。
「つーか、どうやってんだそれ……」
スライムキングはデフォルトで「プルァ」じゃないのか?
何がどう変わってピキィになってるんだ。
ピキィになったとしても、人語に変換したら言ってることは同じじゃないのか。
ま、まあ良い。
キングさんの無敵、ロイ様のクリティカル率上乗せ、ゴクソツの反射。
泥仕合にはうってつけの構成である。
「……まさかスライムキングのさらに上位の存在を隠し持っているとは……これは情報を修正する必要がありますね……」
さらに、ロイ様が退化してもスライムキングだったことによってローブの男が少し焦りを見せていた。
なんだか知らんが、良い感じに勘違いしているぞ。
ロイ様はわりかし戦いに登用していたはずなんだが、いつも目立っていたのはキングさんだったからね。
「情報情報さっきからうるさいぞ、他にも色々とお披露目してないものがあるからな? お前の後ろにいてどうせこれも見てるだろうビシャス、この機会にお披露目してやるから対策してみろよ」
馬鹿みたいな効果を持った装備もたくさんある。
この機会に色々とお披露目しつつ、相手を混乱させてやろう。
今の俺でも使えて、かつユニークな効果を持つ武器といえば……これである。
「…………なんですか急に武器を切り替えて……それは、ガラガラ……?」
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