プライベート・スペクタル

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第三話 第五章

第十節

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ステッキを振るうと同時に鳩の群れはドロップに向かって一斉に飛んでいく。
「~ッ!?」

【演目】『砂糖で出来た神話 神聖創造 大樹ユグドラシル

「不完全…ッ」
【演目】で迎撃しようしたドロップ。築いた要塞を大樹の形へと変えようとする。だが熱により完全な形にならない。
その隙間を縫って多くの鳩が通り抜ける。
更に鳩が止まると『爆炎』の炎が巻き起こり飴の形取ることが出来ない。
「飴が、く~そゥ!!?」
最終として自らの体内から飴を取り出そうとするドロップ。
そこに二羽の鳩がやって来る。
一羽は冷気を纏い即座にドロップの全身を凍結させる。
そしてもう一羽はチェルシーへと姿を変えるとモップによりドロップを貫く。
そしてドロップの身体を粉々に砕いた。

『……勝負ありですね』
制御を失ったのかドロドロと流れ出す飴を見て睦美はそう確信する。
あれだけの量の飴を操り強固な矛や盾に変えていたドロップには脱帽だが、それよりも…。
『まさかチェルシーにあんな技があったなんて……』
「ああ他者の【演目】を使う。確かにアレなら火力不足を心配する必要は無い」
未だこちらも詳細はわからないが、晴菜やダイヤ、エイプリルやミコ等の【星】が共にいれば攻め手は無限に増える。まさに従者にふさわしい技である。
『ふむ…【演目】を閉じ込めて使う以上、相方の負担はあるかもしれませんが、確かに…寧ろ相手の【演目】を使って相手を消耗させることも…』
『なんか勘違いしているけどよ、アレはチェルシーが模倣しているんだぜ』
「『は?』」
通信機の奥より大和のそんな声が聞こえた。
『待ちなさい二号。貴方はチェルシーの新技を知っていたんですか?』
『ああ、本人から聞いていたぜ…チョイと前、詳細は省くがピンチになった時があってよ。その際にな』
『どうしてそれを今の今まで隠していたんです?』
「そんな事は後でいい、それよりも模倣だと…?」
その事実に驚愕する門司。【演目】とは【星】個々の個別の技能。つまりは【星】のアイデンティティと言っても良い。おいそれと模倣なんて出来るわけないのだ。
『ああ、俺もそんなこと出来んの?って思ったけれどよ、出来ちゃったんだよな~本人には「従者の嗜みですよぅご主人」ってはぐらかされてどういうタネかは教えてもらえなかったけれど…』
「従者の基本的な技能か、チェルシー自体が本来持つ技能かはわからないという訳か…」

「なん~だよ…それ……」
ぼそりと呟いたドロップ。飴の肉体故なのか粉々に砕けて動けないようだが話すことは出来るようである。
「これま~で相対した【星】の【演目】を再現す~るなんて無法過ぎるじゃん、チートだよチート…」
「そう言ってもらえるのは光栄ですねぇ…ただ勢いで誤魔化しましたが、貴方の使った【演目】よりは幾分か劣っているのですよ」
おそらく真っ向勝負にて撃ち合えば敗北することはチェルシーも理解している。その辺りは【演目】を紛いなりに再現する故に仕方が無い。
「それで~も無法だ~よ、それに俺の【演目】は魅せてから僅かし~かなかった。それなのにどうやって?」
「あれは貴方の【演目】にそっくりですが、違うモノですよぅ。以前お仕事にてお手合わせいただいた。さる【星】の風を操る【演目】それと周囲に貯まった貴方様の飴の破片をかき集め、それらしいものを作り上げたのですぅ……貴方が【演目】を取り込んで放出している者だと誤認させるために……」
「っ、俺がそう思うのも狙ってやってい~たという訳か…だま~くらかすなんて、な~んて従者メイドだ」
「ふふッ、光栄の至り」
ドロップの言葉に片眼を閉じて悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「とそういうことで、この相対戦は私の勝ちという事でよろしいですよねぇ?」
「そうな~るね……あ~ぁ、トワの末路見れないのは残念だ…で~も仕方が無いか……」
諦めた様なドロップ、心底残念そうな口調で呟いた。
「…殺りなよ。どうせ役に立たなかった俺をトワは逃さな~い。遅かれ早かれというや~つさ……」
「…………」
「全く、お笑いぐさだ~ね……まさかトワの末路よ~りも、自身の末路の方が先に訪れるな~んて…」
「いいえ、私はやりませんよぅ」
「え…」
いつもと変わらない様子でそう告げたチェルシー。ドロップは気の抜けたような声をあげる。
「おいお~い従者のくせに話も聞いていないのか~よ、もしくは敵の言葉はどうでも良いとか……このま~ま引き下がって~も俺はトワの奴に始末される…俺の末路は無いんだって」
「おやおやぁ、自分の利益だけで付いて回っているだけと仰ったはずなのに、随分と消極的ですねぇ……そのようなことを仰いつつも心の底では、トワに従属しているようで…」
「何だ~と?」
「そも私はどのように懇願されても、貴方の命を頂戴する事はありませんよぉ…命ぜられたのは相対戦での勝利のみ、それにぃご主人の言葉を借りるなら寝覚めが悪いって奴ですしね」
ドロップの元に屈んだチェルシー。破片を一定数集めると炎を出し溶かす。
「それにぃ…私は先の貴方の答えもある意味、気にはなっているのですよぅ…己が欲望とはいえ、恐ろしい道に向かう存在に己の身を投じられるその姿。従者われわれとは決して相容れない、異なるその姿に……」
「……アッハハハ、そうだよ~な!その通りだよ~な!!」
笑い声をあげたドロップ。瞬間、その身を跳ねさせた。
「確か~にそうだ!俺は楽し~みの為にトワに肩入れし~た!だったら楽しくな~いことが待ち受けるなら逃げちま~えばいい!!……言いた~くは無いがありがとう!思い出させてく~れて!この戦い~の末路は別の位置から見るこ~とにしよう!」
スライム状のまま這うように高速で移動したドロップ。そのまま染み込むように地中に潜る。
「ではまた機会があれ~ば…また会おう……」
そう言い残し完全に消え失せたドロップ。
「ええその際は是非、またダンスのお誘いもお待ちしておりますねぇ…」
ドロップの去った先に答えたチェルシー。
これにより二戦目はドロップの場外。チェルシーの勝利となった。

「………ドロップも負けたか…」
自ら一人残されそう呟いたアトラス。これで2連敗、相対戦は言うまでも無くこちらの敗北である。
「だったらなんだ、何もせずに退くのか?……そんな訳ない」
だが最早知ったことが無い。目の前にご馳走があるのに席を立つなんて論外だ。
「そうだろう『鬼神』?」
「…………ああ、当然だ」
前に出たアトラス。門司も呼応するように前へと出る。
そして即座に一合交える。剣撃と打撃の衝撃により大気が震える。
それが盤外戦。否、最終戦の開始の号令であった。

※次回更新は11月9日予定です。
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