空飛ぶ大どろぼう

八神真哉

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第28話 大どろぼうは、あきらめない

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ほかに、だれがいるというのだ。
しかも、最後のたのみのつなだったというのに。

それにしても、どうやって忍びこんだのだろう。
鬼山は、翔太の疑問を見すかしたように笑みをうかべる。
「やつが入りやすいように、3階の広間の窓を開けておいてやったんだ。入ってきたら、センサーが働いて、そこに閉じこめられるという仕かけでな」

鬼山は、翔太の頭に猟銃をぐいぐい押しつける。
「やつには、すべての罪を背負ってもら――」
その言葉が終るより早く、広間のあるあたりから、破壊音が聞こえてきた。

2度、そして3度、いやもっとだ。
何度も何かをたたきつける音がした。

3階の廊下から鼻の下にひげをたくわえた背の高い男が現れ、踊り場に立った。
昨夜と同じ、黒メガネ、黒マント、黒いシルクハットの黒づくめ。
手には、ステッキの代わりに、折れかけたゴルフクラブをにぎって。

あの広間にあったクラブを使って、ドアにあなを開けたのだろう。
何本もぎせいにして。

顔色を変えた鬼山は、おまえはじゃまだとばかりに翔太の頭を猟銃でついてきた。
翔太はバランスをくずし、階段を転がり落ちる。
3階から2階との間の踊り場に。さらに2階の間の踊り場まで。
体が軽いためだろう、バウンドするように転がった。

「子どもから目を離すな!」
大どろぼうに向き直った鬼山が、田抜に声だけで指図する。

だが、田抜は、それを実行できなかった。
とつぜん、顔をゆがめて悲鳴をあげる。
ペケが、その足にかみついていた。

今度は、美月の反応もすばやかった。
田抜の手にかみついてナイフをうばうと、翔太に向けてペケを救いあげるように放ってくる。

バランスをくずした田抜は足をふみはずし、音を立てて転がり落ちた。
今度こそ立ちあがれないだろう。

翔太は、受け取ったペケの口をふさぐ。
鬼山に目をやると、翔太に背を向け、空飛ぶ大泥棒に銃口を向けていた。

猟銃を向けられた大泥棒の左手には、白い紙がにぎられている。
あの部屋には金庫もあった。
鬼山と田抜、木津根がかわした念書を、手に入れたのだろうか?

だが、鬼山は鼻で笑う。
「それを見せれば、わしがなにか口走るとでも思ったのか? そもそも、あの部屋の金庫に念書は入っておらん――撃たれたくなかったら、その帽子とメガネを――」

鬼山は、そのセリフを言い終えることができなかった。
正確には、悲鳴に変わったというべきだろう。
翔太が投げつけたペケが背中にはりついたのだ。

ペケはこれまでの仕返しとばかりに、情け容赦なく首すじに、そして耳にかみつく。
鬼山は、猟銃を取り落とし、その場に転がった。

大泥棒は、鬼山のもとにとびおりると、折れかけたゴルフクラブで鬼山の足をたたき、動きを止める。

再び、かみつこうとするペケをなだめ、猟銃を手にすると、なれた手つきで弾を取り出し、ポケットに入れた。
猟銃はホールに投げ捨て、耳から血を流し、うめき声をあげる鬼山の体をさぐる。
見ると、手袋をしている。指紋を残さないためだろう。

ふり向くと、「間に合ったようだな」と声をかけてきた。口元が笑っている。
そして、聞き覚えのある低音で、つけ加える。
「わたしが囮になる――君たちは3階の広間のベランダから逃げろ。城山をこえれば安全だ」

「でも、窓やドアにはロックがかかっていて……」
言い終える前に、大どろぼうはマントをひるがえし、ふわりとホールに向かってとびおりた。その手に、ゴルフクラブをにぎったまま。

翔太の推理は、間違っていなかった。
背が高く、オーデコロンをふきつけたぐらいでは消えないタバコのにおい。
警察の裏をかくことができるのも当然だった。

――考えこんでいる時間はない。リモコンが先だ。
たおれた鬼山に駆け寄るが、まわりには見当たらない。
ポケットを探ろうと手をのばす。

「くそっ!」
翔太をふりはらい、鬼山が、立ちあがる。あやうく、はね飛ばされるところだった。
ゴルフクラブで殴りつけてやりたかったが、大泥棒が持って行ってしまった。

軽い体では勝ち目はうすい。銃や凶器を持ち出されてもやっかいだ。
リモコンなしで、脱出なんて無理に決まっている。大泥棒についていこう。
翔太は、鬼山にほえかかるペケをだきあげると、手すりを乗りこえ、美月のいる1階と2階の間の踊り場に着地する。

美月の手を取り、大泥棒のいるホールにとびおりる。
ペケを美月にあずけたとたん、上から声がふってくる。
「逃げられんぞ! 窓という窓、ドアというドアにカギがかかっているんだ!」

大泥棒は、その声に反応し、3階の鬼山をあおぎ見る。
そして、にやりと笑い、左手をあげる。

それを見た鬼山は、あわててポケットをさぐる。
「――きさま」

玄関のドアが、音を立てて開いた。
霧がホールに流れこんでくる。
続いて家中の窓とドアが、音を立てながら次々と開いていく。

大泥棒の手には、リモコンがにぎられていた。

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