桜は狂気に魅入られる

秋月朔夕

文字の大きさ
4 / 18

1-4

しおりを挟む
「随分長かった――しかしようやく貴方が手に入るのですね」
  布団の上にわたしを押し倒したまま口を重ねる御堂の唇はどこか熱を孕んでいるかのように感じられて、わたしの身体はこのまま御堂によって溶かされてしまうんじゃないのだろうかと思った。
 「はぁ、……っ、ぅんっ」
  どれだけ逃げても追いかけてくる舌に押し負けて、今や彼はわたしの口腔を蹂躙している。
 (あぁ、駄目。息が……)
  キスが深まるたびに力が抜けていき、このままでは押し返すことはできない。酸素の足りない頭ではクラクラと眩暈が起きて、御堂に縋るしかない。
 「み、どぉ……」
  自分でも驚くぐらい甘い声で彼に呼びかければ、御堂はわたしの唇を艶やかに親指でなぞりあげる。それだけの刺激でわたしの背筋はゾクゾクとした痺れが走り、吐息に甘さが混じる。
 「ようやくクスリ本来の成分が廻ってきましたね」
 「ぁっ、なに?」
 「お嬢さん、このクスリの症状を自覚したら最後ですよ? 最初は筋肉を弛緩し逃げられなくする。そして身体が動かなくなったら、今度は遅効性の媚薬が貴方の身体をジワジワと浸食し支配する。効果は遅い代わりに解毒薬はなく、正気のままに快楽を欲するようになるのですよ」
  なんて陰湿なクスリなのだろうか。それはまるで御堂の性格を体言したかのようだ。
 「いやっ……! そんなのいやよ」
  かぶりを振って拒否を表すが、そうすると余計に身体の痺れが伝わった。
 「おやおや、いけませんよ。抵抗すればするほどに、貴方の身体にクスリが廻りやすくなるんですからね」
  チュッ、と音を立てながらわたしの首筋に赤い所有印を幾重にもつけていきながら、彼は歌うようにわたしに囁く。
 「お嬢さん、どうせ貴方はもう私からは逃げられない。それなら諦めて楽しんだ方が身のためですよ」
  蠱惑的に笑う彼は人を地獄に落とす悪魔のようだ。
 「そんなのいやぁっ! だれかっ、助けて……」
  誰か来たところで状況は変わらない。そんなこと頭では分かっている。けれど、身体の奥から燻るような熱を認めたくなくて必至に声を張り上げた。しかし、それが彼の逆鱗に触れたらしい。
 「誰を呼んでるんです?」
  わたしの顎を掴んで固定し、どんな表情すらも見逃してたまるかと鋭く睨み付ける御堂の視線が恐ろしくて、目を瞑ったまま耐え忍ぶ。
 「お嬢さん、貴方は私だけを頼れば良いんですよ」
  どうしてわたしが御堂を頼らなければいけないというのか。学校で孤立させたのも、息が詰まるような生活をさせたのも全部御堂のせいじゃないか。
 「わたしは、御堂を、頼ることはありません」
 「…………でしたら、貴方が私を求めるように仕向けるだけです」
  残虐性が満ち溢れた言葉の意味をかみ砕くよりも早く彼はわたしの足の指を舐めあげた。
 「ひぃ、あっ! や、だ……くすぐったい」
 「くすぐったい――それだけじゃないでしょう? 私が少し舌を這わせただけで貴方の身体はビクビクとのけ反っているじゃありませんか。嗚呼、夢で貴方を抱いていた時よりも敏感でいらっしゃる」
 「ちがっ、ちが、ぁあんっ!」
 「ほら、そんなに可愛く鳴いて否定したところでなんの意味もありませんよ?」
  確かにそれは御堂の言うとおりだった。どんなに強がっていてもわたしの身体は彼の舌が蠢くたびにはしたなく反応し彼を楽しませる。
 「これ、は、ぁ、クスリ、の、せぇ、ああっ!」
 「クスリ? それにしては効き目が早い。これは間違いなく貴方の身体が淫らだからですよ」
  わたしが足にばかり気を取られているウチに彼はわたしの胸を触りだしていた。しかしそれは肝心な部分は触らずにあくまで焦らすようにゆっくりと揉みしだいていく。
 「はぁ……んっ、」
 「可愛らしい胸だ」
  彼の大きな手にすっぽりと収まってしまう小さな胸はわたしのコンプレックスでもある。それをわざわざ指摘されたものだから、わたしの頬は羞恥心で紅く染まる。
 「い、や。さわ、らないでっ」
 「なにを言っているんです? まだ胸の中心は触っていないのに、立ち上がらせておいて――ほら自分でも見なさい。桜色だった胸が上気して紅く色づいていますよ」
  そんなもの自分で確認したくない。ますますきつく眼を瞑りなにも見ないようにすると今度は胸への刺激に集中してしまうことになり、外側を優しくなぞられると身体の奥からもどかしさを感じる。それと同時にひどく身体が熱くて仕方ない。
 「あつい」
 「おや、ようやく媚薬が効いてきましたか」
  独り言のような小さな呟きは御堂に聞かれていて、そのまま嬉しそうにわたしの首筋を舐めあげる。
 「ひぃ、んっ……あぁっ!」
 「ほら、これだれの刺激で身体をうねらせて……あぁ、なんと淫靡で美しいことか。ほら、お嬢さんも目を開けて自分がどんなに感じやすい身体をしているのか自覚しなさい」
  言葉でねぶる御堂に弱弱しく首を振って抵抗の意思を示すとお仕置きだとばかりに乳首を噛まれた。
 「ああっ!」
  普段なら痛いと思うくらいの刺激も今となっては待ち望んだ甘い痺れとなってわたしを襲う。しかしそれも一瞬のこと。わたしを横にし、ゆっくりと背中を撫ぜあげる。
 「ふぅっ、んん……」
  てっきりそのまま胸を責められるのだと思ったわたしは焦らされたように感じて、彼の身体に胸を押し付けてしまう。それだけでも幾分か甘痒さは解消されるが、すぐにもっと強い快楽が欲しいのだと身体の欲が疼いていく。
 「ふふ。積極的だ――欲しいんですか? 刺激が」
 (欲しい)
  素直にねだれば彼はくれるのだろうか。思わず鳴る喉に、自分の浅ましさを自覚する。だけど、一度与えられた胸の刺激を思いだしてしまえば、無意識の内に首を縦に振ってしまった。
 「いい子だ。私が最高の快楽を教えてあげますよ、お嬢さん」


  その時、確かにわたしは悪魔にこの身をゆだねてしまったのだった……
 けれど、わたしは知らない。
  この男が本当に悪魔の本性を隠し持っていることを――知っていたら絶対にこの手を取ることはなかったのに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してないから、離婚しましょう 〜悪役令嬢の私が大嫌いとのことです〜

あさとよる
恋愛
親の命令で決められた結婚相手は、私のことが大嫌いだと豪語した美丈夫。勤め先が一緒の私達だけど、結婚したことを秘密にされ、以前よりも職場での当たりが増し、自宅では空気扱い。寝屋を共に過ごすことは皆無。そんな形式上だけの結婚なら、私は喜んで離婚してさしあげます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...