3 / 18
1-3
しおりを挟む
御堂の寝所に抱きかかえられたまま入った時、あまりの異常な空間に鳥肌が立った。
「なに、ここ……?」
襖を開けると三人程眠れそうなくらい大きいベッド。それ以外はなにも置いてはいない。しかし壁一面にギッシリとわたしの写真が張られており、写真の中の自分と眼が合った時には身震いを隠せなかった。特大ポスターのサイズから、写真サイズまで。大きさはバラバラなのに共通することは一つ。
(カメラのピントにわたしの視線が合ってない)
朝起きて眠そうに歯を磨いているわたしも、体育の授業で水着で泳いでいるわたしも、授業中に退屈そうに頬杖ついているいるわたしも、フォンダンショコラを幸せそうに頬張っているわたしも、どれも当たり前のように過ごしているわたしの生活を映されていて、そこにカメラの存在なんか意識している様子はない。
「よく撮れているでしょう」
うっとりと微笑む男には勝手に写真を撮っていた罪悪感なんて一つもないんだろう。
(この人やっぱり普通じゃない)
駄目だ。ここにいては危険だ。この男は狂っている。そう思うのに力の入らない腕で御堂の胸を押してもなんの意味もない。むしろ楽しそうに笑う余裕があるとまできている。
「調理実習をしている写真なんかどうです? ピンクのエプロンが似合っていて――まるで私のために花嫁修業をしているかのようだ」
あまりに可愛いものだからつい使わせていただきましたよ、と続ける御堂に脳内に響く警戒音が鳴りやむことがない。
(だって写真を使うって。それはつまり……)
――それ以上のことは考えたくなかった。
「やだっ、わたしに触らないでよ!」
御堂に対して堪らないくらいの嫌悪感がわたしの胸を支配する。自分の体重を掛けて彼を押しのけようとすれば、御堂も少しは油断していたようでなんとか畳に着地することが出来た。
(良かった。早くこの部屋から出なきゃ)
もうこれぽっちもこの空間に居たくない。そんな思いで襖に手を伸ばそうとしたが、すぐに御堂の手が覆いかぶさってくる。
「お嬢さん、そんなに暴れると余計にクスリが廻ってしまいますよ」
「くすり?」
「ええ。もう立っているのも辛いのではありませんか?」
そんなもの飲んだ覚えはない。しかし、もしもさっきの紅茶に仕込まれていたとしたら……
「なにを、飲ませたの?」
「ただの媚薬ですよ。遅効性のね」
「びやく」
一瞬意味が分からずそのまま言葉に出して、ようやく彼の本意を知る。
「そう。まずは弱い筋肉弛緩剤が効き、相手の動きを鈍くした後に、ジワジワと甘く疼いてくるそうですよ。そのうち身体が熱なっていきますからね」
「熱く……?」
そんなことになんかなっていない、と彼の腕を跳ね除けようとした時だった。身体がカクンと床に崩れ落ちて、そのまま身体が動かすことが出来ないことに気付いた。
(いやだ、そんなの!)
このままでは逃げられないじゃないか。
「身体の感覚は残るようなので安心してくださいね? 私がお嬢さんに気持ちいいことを教えてあげますよ」
ちっとも大丈夫じゃないことを彼は言う。
「御堂、お願い。やめて……」
いやいやと首を横に振っても彼の笑みは深まるばかりだ。
「ふふ、可愛らしい反応ですね。けれど、それが男の欲を増幅させるのですよ」
わたしの唇にゆっくりと親指でなぞる彼は薄く笑い、そのままわたしの上着を剥ぎ取っていく。
「やっ! やだ……」
力の入らない腕で彼の手を抑えても無駄なこと。彼はどんどんわたしの衣服を脱がしていき、すぐにわたしは靴下しか纏っていない姿となる。ニーハイだけしか身に着けていないのに、御堂はネクタイすらも緩めないままキッチリとダークグレーのスーツを着こなしていることがより羞恥心を煽る。慌てて腕で胸を隠そうとすれば、あえなく彼の腕に纏めあげられてしまう。
「隠さないでください」
それは明確な命令だった。別に大きな声で怒鳴られたわけではない。けれど、彼の鋭い一声に逆らうと余計に恐ろしいことになると容易に想像ができる。そのためわたしにできるのは眼を瞑って、早く御堂のねっとりとした視線が逸れることを祈るだけだった。
「嗚呼、やっぱり想像していたモノなんかより綺麗だ……」
興奮しているのだろうか。いつもより掠れた声は妙に色っぽくて艶があり、それだけでわたしの肌がゾクリと泡立った。
「ふふ、これは良いコレクションになりそうですね」
(え……?)
わたしが疑問に思ったことを口にするよりも早くパシャリとカメラの音が響き渡る。
「御堂、今の音は?」
「お嬢さんの美しい姿をカメラに納めただけですよ」
当然だとばかりに言い切る彼に一瞬言葉を失いそうになる。
「…………なんでそんなものを」
「お嬢さんが私から逃げようとしたらいけませんからね――いわば保険です。借金の回収でも女を風俗に飛ばす手段でもあるんですよ。最初の内に映像を撮ってしまって逃げる気を削いでしまう手段は古典的ですが未だに有効な手ですからね」
これでお嬢さんは私から離れられませんね、と口付ける御堂にわたしは思い切り睨み付けてやる。
「いやっ! 今すぐに消して下さい」
「これでお嬢さんを繋ぎ止められるというのに、どうして消す必要があるのですか? 大丈夫。お嬢さんが良い子でいれば私しか見ませんよ」
つまりわたしが離れようとした瞬間に公表するというのだ。
「ひどい。どうしてそんなことをするんですか」
「どうして……? 私が貴方を愛しているからですよ、お嬢さん」
「本当に愛しているというのならこんなひどいことはしないはずですっ!」
「ひどい? それならばお嬢さん。私はここ一年ずっと貴方に優しく接してきたつもりです。それなのに貴方は私を怖がって、ひたすら私に関わらないように避けていただけじゃありませんか。だから私も思ったんです。徹底的に貴方を調教してやろうと。例え貴方が私を嫌いでも、身体が私を求めるようにしてしまおうと」
長い告白はどこまでも歪で、それがわたしが御堂を狂わせてしまったのだという確かな証拠でもあった。
「なに、ここ……?」
襖を開けると三人程眠れそうなくらい大きいベッド。それ以外はなにも置いてはいない。しかし壁一面にギッシリとわたしの写真が張られており、写真の中の自分と眼が合った時には身震いを隠せなかった。特大ポスターのサイズから、写真サイズまで。大きさはバラバラなのに共通することは一つ。
(カメラのピントにわたしの視線が合ってない)
朝起きて眠そうに歯を磨いているわたしも、体育の授業で水着で泳いでいるわたしも、授業中に退屈そうに頬杖ついているいるわたしも、フォンダンショコラを幸せそうに頬張っているわたしも、どれも当たり前のように過ごしているわたしの生活を映されていて、そこにカメラの存在なんか意識している様子はない。
「よく撮れているでしょう」
うっとりと微笑む男には勝手に写真を撮っていた罪悪感なんて一つもないんだろう。
(この人やっぱり普通じゃない)
駄目だ。ここにいては危険だ。この男は狂っている。そう思うのに力の入らない腕で御堂の胸を押してもなんの意味もない。むしろ楽しそうに笑う余裕があるとまできている。
「調理実習をしている写真なんかどうです? ピンクのエプロンが似合っていて――まるで私のために花嫁修業をしているかのようだ」
あまりに可愛いものだからつい使わせていただきましたよ、と続ける御堂に脳内に響く警戒音が鳴りやむことがない。
(だって写真を使うって。それはつまり……)
――それ以上のことは考えたくなかった。
「やだっ、わたしに触らないでよ!」
御堂に対して堪らないくらいの嫌悪感がわたしの胸を支配する。自分の体重を掛けて彼を押しのけようとすれば、御堂も少しは油断していたようでなんとか畳に着地することが出来た。
(良かった。早くこの部屋から出なきゃ)
もうこれぽっちもこの空間に居たくない。そんな思いで襖に手を伸ばそうとしたが、すぐに御堂の手が覆いかぶさってくる。
「お嬢さん、そんなに暴れると余計にクスリが廻ってしまいますよ」
「くすり?」
「ええ。もう立っているのも辛いのではありませんか?」
そんなもの飲んだ覚えはない。しかし、もしもさっきの紅茶に仕込まれていたとしたら……
「なにを、飲ませたの?」
「ただの媚薬ですよ。遅効性のね」
「びやく」
一瞬意味が分からずそのまま言葉に出して、ようやく彼の本意を知る。
「そう。まずは弱い筋肉弛緩剤が効き、相手の動きを鈍くした後に、ジワジワと甘く疼いてくるそうですよ。そのうち身体が熱なっていきますからね」
「熱く……?」
そんなことになんかなっていない、と彼の腕を跳ね除けようとした時だった。身体がカクンと床に崩れ落ちて、そのまま身体が動かすことが出来ないことに気付いた。
(いやだ、そんなの!)
このままでは逃げられないじゃないか。
「身体の感覚は残るようなので安心してくださいね? 私がお嬢さんに気持ちいいことを教えてあげますよ」
ちっとも大丈夫じゃないことを彼は言う。
「御堂、お願い。やめて……」
いやいやと首を横に振っても彼の笑みは深まるばかりだ。
「ふふ、可愛らしい反応ですね。けれど、それが男の欲を増幅させるのですよ」
わたしの唇にゆっくりと親指でなぞる彼は薄く笑い、そのままわたしの上着を剥ぎ取っていく。
「やっ! やだ……」
力の入らない腕で彼の手を抑えても無駄なこと。彼はどんどんわたしの衣服を脱がしていき、すぐにわたしは靴下しか纏っていない姿となる。ニーハイだけしか身に着けていないのに、御堂はネクタイすらも緩めないままキッチリとダークグレーのスーツを着こなしていることがより羞恥心を煽る。慌てて腕で胸を隠そうとすれば、あえなく彼の腕に纏めあげられてしまう。
「隠さないでください」
それは明確な命令だった。別に大きな声で怒鳴られたわけではない。けれど、彼の鋭い一声に逆らうと余計に恐ろしいことになると容易に想像ができる。そのためわたしにできるのは眼を瞑って、早く御堂のねっとりとした視線が逸れることを祈るだけだった。
「嗚呼、やっぱり想像していたモノなんかより綺麗だ……」
興奮しているのだろうか。いつもより掠れた声は妙に色っぽくて艶があり、それだけでわたしの肌がゾクリと泡立った。
「ふふ、これは良いコレクションになりそうですね」
(え……?)
わたしが疑問に思ったことを口にするよりも早くパシャリとカメラの音が響き渡る。
「御堂、今の音は?」
「お嬢さんの美しい姿をカメラに納めただけですよ」
当然だとばかりに言い切る彼に一瞬言葉を失いそうになる。
「…………なんでそんなものを」
「お嬢さんが私から逃げようとしたらいけませんからね――いわば保険です。借金の回収でも女を風俗に飛ばす手段でもあるんですよ。最初の内に映像を撮ってしまって逃げる気を削いでしまう手段は古典的ですが未だに有効な手ですからね」
これでお嬢さんは私から離れられませんね、と口付ける御堂にわたしは思い切り睨み付けてやる。
「いやっ! 今すぐに消して下さい」
「これでお嬢さんを繋ぎ止められるというのに、どうして消す必要があるのですか? 大丈夫。お嬢さんが良い子でいれば私しか見ませんよ」
つまりわたしが離れようとした瞬間に公表するというのだ。
「ひどい。どうしてそんなことをするんですか」
「どうして……? 私が貴方を愛しているからですよ、お嬢さん」
「本当に愛しているというのならこんなひどいことはしないはずですっ!」
「ひどい? それならばお嬢さん。私はここ一年ずっと貴方に優しく接してきたつもりです。それなのに貴方は私を怖がって、ひたすら私に関わらないように避けていただけじゃありませんか。だから私も思ったんです。徹底的に貴方を調教してやろうと。例え貴方が私を嫌いでも、身体が私を求めるようにしてしまおうと」
長い告白はどこまでも歪で、それがわたしが御堂を狂わせてしまったのだという確かな証拠でもあった。
10
あなたにおすすめの小説
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる