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(全く眠れなかった……)
昨日葉山くんがなんでキスしてきたのか意味が分からなくてずっと考えていてしまい、気付いたら朝になっていた。
(ああっ~! 本当に意味が分からない)
ベッドで意味もなくゴロゴロ回転したりしていたけれど、考えた分だけお腹は減る。とりあえず身支度より先に朝食を済ませようとパジャマのまま階段を降りていけば、なんだか母の浮き立つ声が聞こえた。不思議に思いながら扉を開ければ、そこにはなんと葉山くんがいたのだ。
「ちょっと、一花。こんな良い彼氏が出来ただなんてママ聞いてないわ! っていうか、何そのみっともない格好。せっかく蓮くんが迎えに来てくれたんだから、先に着替えて来なさい!」
「おはよう。ごめんね、その、少しでも早く会いたかったから勝手に迎えに来てしまった」
怒涛の如く捲し立てる母に困ったように笑う彼。本当に困っているのはわたしだと言ってやりたい。というより、なぜ娘より先に彼の名前を呼んでいるのか。色々と突っ込みたいけれど、ちょっと今は頭の整理がつかない。
「……ごめんなさい。着替えてきます!」
すっぴんとパジャマ姿を見られてしまった気恥ずかしさから逃げるように階段を駆け登った。扉の向こうから落ち着きのない子でごめんなさいね、という声が聞こえたけれどそんなのは無視だ。とにかく葉山くんがなんで家に居るのかはおいておくとして、さすがにあまり待たせるわけにはいかない。なるべく急いで少しでも見れる顔にしよう。
慌てて二階にもある洗面台で顔を洗った後、化粧水と乳液をつけて、下地を肌にのせてからコンシーラー を叩き込んでいく。寝ていないためにクマが酷いのでコンシーラーが少し厚くなってしまった気がするけれど今日は仕方ないから諦めてしまおう。
ファンデーションもつけるか迷ったけれど下地にも色がついてるし、なにより化粧を先生にしていることがバレても面倒なので今回は省く。
瞳も寝不足なせいで充血してしまっているので目薬をさしてから、ビューラーでまつ毛を上げて、マスカラを軽く塗る。変に校則に引っかかってもいけないのでチークは止めて、薬用の色付きリップだけを塗ることにした。
髪はいつもより丁寧に梳いていき、オイルを少しだけつけてから、ヘアアイロンでうねった髪をストレートにしてみせる。こなれた女子ならワンカールにしたり、巻いたりアレンジしたりするんだろうけれど、そこまでの器用さはわたしにはない。
(っていうかなんで葉山くんがウチに来ているのよっ! 罰ゲームはどこにいっているのよ!)
恐らくは登校の誘いなのだろうけれど目立つ彼と学校に行きたくない。だけど断る勇気もない。仕方なく制服に着替えて、鬱々と階段を下りる。いくら勝手に来たとはいえ、葉山くんが来てからもう二十分経っている。
母が相手をしているとはいえ――むしろ母が相手をしているからこそ、これ以上待たせると失礼だろう。
(出来たら、ちょっと離れたところで別々に登校したいな)
というかそもそも一緒に登校したくない。下手に彼のファンや取り巻き達に見つかったら昨日とは違う意味で即校舎裏に呼び出されるに決まっている。なにせ、相手は校内人気ナンバーワンの葉山くんだ。なんの気まぐれかは知らないけれど彼が迎えに来たということは、このまま一緒に学校に行かねばならないということだろう。せめて人通りの少ない場所で別れられたら良い。
「……待たせてごめんなさい」
「ううん。むしろ学校で見れない姿を見れて嬉しかったよ」
母よ。いくら葉山くんが甘いことを言ってみせてもそんなものはただのリップサービスだ。だからそんなに微笑ましそうにこちらを見ないでほしい。
(……うう。わたしの家なのに、わたしのほうが居辛い)
トーストを食べながら、チラリと葉山くんを見るとその度に頬を緩められる。それを見る母もずっとニコニコとこちらを見ている。せめて彼も朝食を一緒にとってくれたらいいのに、自分の家で済ませたと言っていた。仕方なくいつもより早めに朝食を切り上げて、家を出ることにした。
「勝手に家に来てしまってごめんね。その、本当は家の前で待っていたんだけれど、ゴミ捨てで出てきたキミのお母さんにバッタリ会って……」
「ちょっと待って! 家の前って何時から待っていたの?」
「六時からだけど?」
早すぎじゃないか。なんで当然だと言わんばかりに、首を傾げられたんだろう。思わず歩みを止めると、それに気付いた彼も立ち止まる。
「あの、葉山くん。どうしてウチまで迎えに来たの?」
「彼女と一緒に登校するのに理由がいるのか? それに本当は連絡したかったけど、昨日浮かれて連絡先を聞きそびれてしまったんだ」
ダサいよな、と頰を染める彼にわたしは愕然とした。
(待って。もしかして昨日の告白って本気だったの……?)
だとしたら自分はとんでもないことをしてしまったんじゃないか――そこまで考えて、これは罰ゲームの延長ではないかと思いつく。わたしが本気になったら終了だとか。最後まで致したら終了とか。
だってそうでなければ、何一つ接点のなかった彼に告白されるだなんて明らかにおかしい。おかしいのだとそう思い込みたかった。
昨日葉山くんがなんでキスしてきたのか意味が分からなくてずっと考えていてしまい、気付いたら朝になっていた。
(ああっ~! 本当に意味が分からない)
ベッドで意味もなくゴロゴロ回転したりしていたけれど、考えた分だけお腹は減る。とりあえず身支度より先に朝食を済ませようとパジャマのまま階段を降りていけば、なんだか母の浮き立つ声が聞こえた。不思議に思いながら扉を開ければ、そこにはなんと葉山くんがいたのだ。
「ちょっと、一花。こんな良い彼氏が出来ただなんてママ聞いてないわ! っていうか、何そのみっともない格好。せっかく蓮くんが迎えに来てくれたんだから、先に着替えて来なさい!」
「おはよう。ごめんね、その、少しでも早く会いたかったから勝手に迎えに来てしまった」
怒涛の如く捲し立てる母に困ったように笑う彼。本当に困っているのはわたしだと言ってやりたい。というより、なぜ娘より先に彼の名前を呼んでいるのか。色々と突っ込みたいけれど、ちょっと今は頭の整理がつかない。
「……ごめんなさい。着替えてきます!」
すっぴんとパジャマ姿を見られてしまった気恥ずかしさから逃げるように階段を駆け登った。扉の向こうから落ち着きのない子でごめんなさいね、という声が聞こえたけれどそんなのは無視だ。とにかく葉山くんがなんで家に居るのかはおいておくとして、さすがにあまり待たせるわけにはいかない。なるべく急いで少しでも見れる顔にしよう。
慌てて二階にもある洗面台で顔を洗った後、化粧水と乳液をつけて、下地を肌にのせてからコンシーラー を叩き込んでいく。寝ていないためにクマが酷いのでコンシーラーが少し厚くなってしまった気がするけれど今日は仕方ないから諦めてしまおう。
ファンデーションもつけるか迷ったけれど下地にも色がついてるし、なにより化粧を先生にしていることがバレても面倒なので今回は省く。
瞳も寝不足なせいで充血してしまっているので目薬をさしてから、ビューラーでまつ毛を上げて、マスカラを軽く塗る。変に校則に引っかかってもいけないのでチークは止めて、薬用の色付きリップだけを塗ることにした。
髪はいつもより丁寧に梳いていき、オイルを少しだけつけてから、ヘアアイロンでうねった髪をストレートにしてみせる。こなれた女子ならワンカールにしたり、巻いたりアレンジしたりするんだろうけれど、そこまでの器用さはわたしにはない。
(っていうかなんで葉山くんがウチに来ているのよっ! 罰ゲームはどこにいっているのよ!)
恐らくは登校の誘いなのだろうけれど目立つ彼と学校に行きたくない。だけど断る勇気もない。仕方なく制服に着替えて、鬱々と階段を下りる。いくら勝手に来たとはいえ、葉山くんが来てからもう二十分経っている。
母が相手をしているとはいえ――むしろ母が相手をしているからこそ、これ以上待たせると失礼だろう。
(出来たら、ちょっと離れたところで別々に登校したいな)
というかそもそも一緒に登校したくない。下手に彼のファンや取り巻き達に見つかったら昨日とは違う意味で即校舎裏に呼び出されるに決まっている。なにせ、相手は校内人気ナンバーワンの葉山くんだ。なんの気まぐれかは知らないけれど彼が迎えに来たということは、このまま一緒に学校に行かねばならないということだろう。せめて人通りの少ない場所で別れられたら良い。
「……待たせてごめんなさい」
「ううん。むしろ学校で見れない姿を見れて嬉しかったよ」
母よ。いくら葉山くんが甘いことを言ってみせてもそんなものはただのリップサービスだ。だからそんなに微笑ましそうにこちらを見ないでほしい。
(……うう。わたしの家なのに、わたしのほうが居辛い)
トーストを食べながら、チラリと葉山くんを見るとその度に頬を緩められる。それを見る母もずっとニコニコとこちらを見ている。せめて彼も朝食を一緒にとってくれたらいいのに、自分の家で済ませたと言っていた。仕方なくいつもより早めに朝食を切り上げて、家を出ることにした。
「勝手に家に来てしまってごめんね。その、本当は家の前で待っていたんだけれど、ゴミ捨てで出てきたキミのお母さんにバッタリ会って……」
「ちょっと待って! 家の前って何時から待っていたの?」
「六時からだけど?」
早すぎじゃないか。なんで当然だと言わんばかりに、首を傾げられたんだろう。思わず歩みを止めると、それに気付いた彼も立ち止まる。
「あの、葉山くん。どうしてウチまで迎えに来たの?」
「彼女と一緒に登校するのに理由がいるのか? それに本当は連絡したかったけど、昨日浮かれて連絡先を聞きそびれてしまったんだ」
ダサいよな、と頰を染める彼にわたしは愕然とした。
(待って。もしかして昨日の告白って本気だったの……?)
だとしたら自分はとんでもないことをしてしまったんじゃないか――そこまで考えて、これは罰ゲームの延長ではないかと思いつく。わたしが本気になったら終了だとか。最後まで致したら終了とか。
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