蒼炎のカチュア

黒桐 涼風

文字の大きさ
上 下
303 / 321
第二十章 悪女の素顔

20-10 ナギサイド

しおりを挟む
 何とか、ユミル達は、毒尾の狐を倒し終わったようで、私達の元へ駆けつけてくれた。

 今思い出したんだけど、毒尾の狐って、確か、尻尾が本体で、胴体を切り離したら、死ぬんだった。でも、対象方法は知っていたかわからないけど、尻尾を切り取って倒したようだ。

 見た感じ、毒尾の狐の毒を受けていないようだ。あの毒は即死系ではないが、すぐに、症状がでるんだ。確か、もの凄い激痛が襲いかかるんだっけ?

 無事で何よりだ。バルンクなんか、まともに喰らってしまったからね。幸い、障壁を纏っていたから、毒は通さなかったんだ。

「やりますね。思ったよりも、早く倒しましたね。あの狐、結構厄介な魔物はずなんですが……」

  ネールがため息を吐いた。

「ここから、私が一人で相手にしないといけないか。……とは言え、勇能力を持っていたとしても、さすがに、一人で、相手にするのは、厳しいか。私の攻撃にも耐えるし、毒尾の狐も、一瞬で倒しちゃうし。……仕方がない」

 ネールの全身が光り始めた。これって……。

「さあ、本当の恐怖を教えてあげるわよ」

 まずい! あれは確か……、いや! もう手遅れだ! 今向かったら、返り討ちに合う!

「ふう。これ使うと我を忘れがちだから、使いたくはなかったんですが」

 覚醒しやがった。しかも、覚醒後の姿が、まるで女王様だ。勿論、悪徳の方で。

「ネール。今更だけど、あんたと闘う必要があるのか? とてもじゃないけど、あんたが、ゲス皇帝のために戦う柄ではないはず」

 アイラが問い出す。

「それで、戦いをやめると思う?」
「あんたの考えは、全く分からない。ユンヌお姉ちゃんのことは嫌いの様だけど」
「そうよ。ユンヌは嫌いだよ、私」
「でも、分からない。あの日、ユンヌお姉ちゃんが、魔物の毒にやられた時、あんたは必死に看病していたはず。嫌いな相手なのに何でだ?」

 ユンヌが魔物の毒にやられた話って、確か、マリンの父の前皇帝アスラが、軽率な行動によって引き起った事件。その毒の後遺症でユンヌは死んだと。それがきっかけで、アイラは、アスラを憎んだんだっけ?

「……お喋りは、そこまでよ」

 話を途中で、遮断しやがった。何か、聞かれるのが嫌なことでもあるのか?

「行くわよ」

 消えた!? いや!

 キーーーーーン!!!

「きゃあぁぁぁぁぁ!」

 ユミルが後方へ飛ばされていった。ユミルがいた所には、鉤爪の籠手を左手に装着したネールの姿があった。

 鉤爪の籠手も、さっき戦った時に、装備していた鉤爪の籠手よりも、爪の部分が長くなっている。その長さはネールの身長分の長さだろう。

 一瞬だったけど、ユミルは刀を抜いて、ネールの攻撃を防いだが、力負けして吹き飛んでしまった。

 幸い、ユミルは、飛ばされながらも、背中の翼を広げて、体制を整えた。

「お姫様にしては、いい反射真剣ね。パワーがあれば、受け止められたのに」

 やばい。ネールの足が一歩、踏み込んだ。ユミルに留めを刺しに行くのか? そうはさせ……。

 チャラーーーーーン!!

「何!?」

 ネールは床から生えてきた鎖に手足を巻きつかれていた。

 その鎖は、アイラの魔術で構成した鎖だ。その鎖で、ネールの動きを封じているんだ。

「あら? 次の魔術の発動がないわね。この短時間で発動もできるのに。それに、あなたの、魔術の発動が遅いわね。じゃなきゃ、セシルの王女様に近づけさせる前に、その鎖で私の動きを封じられていたのに。もしかして、この鎖の魔術は無詠唱ではない? あなたは、確か、勇能力を持っていたはずでしょ?」
「お生憎様、僕は、勇能力が使えなくなったんだ」
「ふーん。勇能力がなくなったの? そんなことも、あるのね。なら」

 アイラの背が縮んでいる? いや、アイラの真下に、黒い沼見たいのが出来ていて、アイラはその黒い沼へ沈んでいっている。以前、リリカも似たような魔術を使っていたが、これは、闇の魔術か?

「子供の時よりも弱くなったじゃないの?」

 まずい、いつの間にか、ネールがアイラの傍へ移動していた。

 あの爪が、アイラに襲い掛かる。

 速過ぎて、詠唱が間に合わない! 簡単な魔術じゃ、あの武装に当てても、全く動じない。

 くそ! 今更だけど、勇能力を失った弊害がここに来るなんて……。

「そうはさせないよ。」

 いつの間にか、リリカがネールの目の前にいた。そして、リリカは、二本の立てた指をネールに向けた。

 ピッカーーー!!!

 二本の指から、光線が放出され、ネールは避けることができないまま、光線を受けてしまい、後方へ飛ばされていった。

 飛ばされたネールの真上に、瞬間移動したかのように、いつの間にか、リリカが現れて、傘の先を真下にいるネール目掛けて、思いっきり刺し押した。

 ドーーーーーン!!!

 ネールは床に思いっきり叩きつけられた。

「よくもやったわね」

 起き上がったネールは、爪をリリカ目掛けて、切り裂こうとしたが、リリカの傘によって、防がれた。

 覚醒による身体強化はあるものの、リリカはそれに負けないぐらい、攻撃を受け止めていた。

「強い! 覚醒状態の私と、誤解にやり合うなんて、あなたは、人間ではなく、何かしらの亜種かしら」
「ヴァルキュリア族」
「ヴァルキュリア族? ああ、幻の亜種と呼ばれているわね」
「そうよ。でも、油断しないことよ」

 ネールの攻撃を受け止めつつ、リリカは足を上げて、上空に目掛けて、蹴りを入れた。だが、ネールはそしてを察して、蹴りから避けた。

 ピッカーーー!!!

 そして、蹴りと同時に床から光の柱が出現して、その柱の天辺がネールに命中した。

「さすがのヴァルキュリア族でも、障壁を壊すことは、難しいよね」

 ネールの装備している、籠手についている爪が、さらに大きくなっていった。

 ネールはリリカに切りつけようとするが、リリカは、それを軽々と躱した。

 躱したはずだった。

 ズバ!!!

「え?」

 リリカの左腕に切口が出来ていて、飛び散った血が飛翔していた。

 何が起きている?

 だけど、リリカが危ない!

「こっちだよ」

 私は咄嗟に、星型の氷を複数構成して、ネール目掛けて投げつけた。

 星型の氷の一つがネールの足元に当たると、当たったところから凍り始めた。

「リリカ! 無事か?」

 怪我を負った、リリカの元に、マリンとロゼッタが駆けつけてくれた。

 ロゼッタは槍で、ネールを攻撃しようとするが、ネールは鉤爪で受け止められてしまう。

「危ない!」

 マリンが大鎌を構えて、ロゼッタの真横に立った。

 シャキーーーーン!

 マリンの鎌に何かがぶつかったようだ。

 私が見えたのは、ネールが鉤爪で切り裂く動作した場所から、まるで、獣の爪で切り口を付けられた跡の形をした、黒い物体が出来ていた。その物体が、ロゼッタの元へ飛んで行ったんだ。マリンが築いていなければ、ロゼッタは、黒い物体によってダメージを受けていたと思う。

 さっきのリリカもこれにやられたのか。

「……時間が経ち過ぎたわね。そろそろけりをつけないと」

 ネールの姿が消えた? いや。

「そこだ!」

 シャキーーーーン!

 私の真後ろに、ネールが現れて、私を咄嗟に、魔術で構成した炎の剣で、ネールの攻撃を受け止めた。

 すると、また、ネールの姿が消えた。

 シャキーーーーン!

 今度は、マリンの背後に現れ、マリンも、ネールの奇襲を防いだ。そして、また消えた。

 シャキーーーーン!

 今度は、ロゼッタ。ロゼッタも何とか、奇襲を防いだ。

 こんな感じで、何度か。ネールの攻撃を防いだ、私達。

 そして、諦めたかのように、私達の目の前に、ネールが姿を現した。

「これで、終わりよ」

 まずい! 築けば、私達の周りには、無数の、爪痕の様な黒い物体が宙に浮いている!

 ネールめ、これが狙いだったのか!

「さよなら、子猫ちゃん達」

 爪痕の様な黒い物体が私達を襲う。

 ここまでなのか?

 絶望の状況だった。

 ボオオオオオオオオオオオ!!!

 私達は蒼い炎に包まれていた。そして、わたしの目の前には、見覚えのある少女の姿があった。

「お待たせ~。遅れて、ごめんね~」
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...