蒼炎のカチュア

黒桐 涼風

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第一章 蒼髪の少女

1ー1 エドナサイド

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 ユグドラ歴二千二十一年。四ノ月。
 


 国として誕生してから二十年と、まだ国としては歴史が浅い、コルネリア帝国。

 コルネリア帝国になる前は、アトラ帝国って、言われていたらしいんだよ。当時の皇帝であったマルクスという人は悪帝 あくてい、または、厄災 やくさいと呼ばれていて、全大陸の侵略を、始めたんだよ。

 厄災 やくさいっていうのは、例えば、蒼い髪と瞳を持ったと言われている、伝説の女将軍シェリアが、活躍した時代では、メリオダスという人が厄災 やくさいと呼ばれていたんだよ。

 だけど、別の時代だと。人ではない、魔物と呼ばれる動物? 見たいな、人の形をしていない存在も現れたらしいんだよ。

 形は様々、なんだけど、その時代の災いの象徴が厄災 やくさいなんだよ。

 現れたら、どうなるかっと、言うと。人の命や街、そして人々の築き上げた文明を一瞬で崩壊をするって、英雄譚に記されているんだよ。とにかく、やばい存在なんだよ。

 その戦いの終止符を打ったのが、八人の空の勇者と、呼ばれる英雄たちなんだよ。

 空の勇者って言うのは何かというと……わからないんだよ! 

 なんか、空の国から来た人達、見たいなんだよ。つまり、その人たちの活躍で悪帝 あくていを討ち破って、アトラ帝国は滅んだんだよ。

 悪帝を討ち取った、八人の空の勇者たちは、新たな国として、コルネリア帝国を、作り出したんだって。

 そして、ここは、コルネリア帝国内にある小さな村、ライム村。あたしの育った村なんだよ。
 
 ライム村の周りは樹木が密集している森の中にある村で、そのライム村から一番近い村に行くまで、四日ぐらいは掛かるらしいんだよ。「らしい」っていうのも、これは村長さんから、聞いただけの話で、あたし自身、一度も、この村から出たことはないから、わからないんだよ。

 いつかは行きたいなぁ、と思うんだよ。だけどね、今のあたしは村から出て、隣の村や街に行くことはできない。一応、村から出られるよ。そんな、あたしが村から出てやることいえば、近隣の森で狩りをするぐらいなんだよ。

 そして、今日も、あたしことエドナは、狩りをしに、近隣の森へ、出かけるんだよ。

 出かける前に、ちゃんと準備しないと。あたしは忘れ物するのが結構多いから、持ち物の確認しないとなんだよ。

「えーっと……。弓よーし。矢よーし。解体用のナイフよーし。腕輪型の魔道具 まどうぐの装着よーし」

 忘れ物をしないように、声を出しながら持ち物の確認をしているんだよ。

 次は、身だしなみのチェックするんだよ。村長さんから、女の子はどんな時でも、身だしなみは大事って、言われているんだよ。だから、ちゃんと、チェックしないとなんだよ。

 このスカーフで、耳を隠すように頭に巻いて。長い緑色の髪を後ろに三つ編みにして……うん、出来たんだよ! やっと、一人で結べるようになったんだよ。三つ編み結ぶのは、最近まで、できなかったんだよ。初めて一人で挑戦した時は、間違って、髪の毛を二十本も抜いちゃったんだよ。正直、あれは痛かったんだよ……。おまけに、抜けたところから、血も出ちゃったんだよ。それを見た、村長さんはショックで、しばらく、寝込んでしまったんだよ。はうう……。

 あ! 身だしなみのチェックしないと!

 ええとぉ~服装は……、下には短めのスカートを履いているんだよ。まだ、寒い時期だけど、あたしは平気なんだよ。寒さには強い方なんだよ。……たぶん。うん、平気なんだよ。

 ただ、問題はシャツなんだよ。今朝、胸元の辺りのボタンが取れちゃったんだよ。うん、こればかりは、仕方がないんだよ。だけど、せっかく、一週間前に、村長さんの奥さんのドアさんに、貰ったばかりなのに。はうう~。帰ってから、ボタンを付け直すんだよ。うん、これで良しと、するんだよ。

 これで、狩りの準備はできたんだよ。気を改めて、いざ! 出発なんだよ!

 あたしは、家のドアを、開けようとしたんだよ。

「はわわわわわわわわわわわわわわわ!!!」

 足元には何もなかったんだよ! 何もないはずなのに! あたしの足がつまずき、前方へ倒れていったんだよ!!!

 ドカーーーーン!!!

「はうう~、痛いんだよ! もう!!!」

 目の前のドアを突き破って、家の外に出ちゃったんだよ! おまけに顔から先に、落下して、地面に思いきり、ぶつかったんだよ!

「おお! エドナか! 大丈夫か!?」

 聞き慣れた声が聞こえたんだよ。上の方を見上げると、村長さんだったんだよ。

「しかし、お主も相変わらずだの~」

 村長さんの指を刺している方角を見ると。あたしの家のドアだったんだよ。

「どんな、転び方をすれば、こんな形に穴が開くんだか……。お主は芸術作品でも作っているのか?」

 さっき、あたしが転んで破いちゃったドアをよく見ると、猫ちゃんの顔の形になっていたんだよ。

「後でハックに頼んで、直してもらうか?」
「はう~、ハックさんには、申し訳ないんだよ」
「まあ、めげるでない。それよりも、エドナは今から、狩りか?」
「あっ! はい。今日も大物捕らえに行くんだよ!」
「ほ、ほ、ほ、期待しておるぞ。……と言いたいところじゃが、此間 こないだみたいに矢を忘れずにな」
「もう、村長さん!」

 村長さんの言う通りなんだよ。弓を使って射るのに、弓があっても、矢がないとダメなんだよ。でも、あの時は、偶々、なんだよ。偶々、忘れただけなんだよ。……たぶん、なんだよ。

 その前は、弦を直していない弓を持ってきたことも、あったんだよ。だけど、本当に、たまにしかないんだよ。……と願いたいんだよ。

「それとエドナ、こんなことを言うと、セクハラと、思われるかもしれないが、服のボタンはちゃんと閉めんかい! そなたの豊満なボディが丸見えじゃよ」

 あ! やばいんだよ! 指摘されちゃったんだよ。でも、あたしのお胸が大きくなったせいで、ボタンが付けられなくなったんだよ。それどころが……。

「これは今日着ようとしたらボタンが飛んじゃったの……」
「一週間前にばーさんがあげたばかりじゃろ? もう入らないのか?」
「はい……」
「凄まじいの。そうか、今朝の盗賊騒ぎはそれか?!」
「そうなんです・・・・・・飛んだボタンの先の窓ガラスが割れちゃたんだよ」

 そうなんだよ。今朝のことだったんだよ。あたしの家の窓ガラスが割れた音で、偶々、通り掛かったお隣さんが、あたしの家に、訪ねて来てくれたんだよ。なんでも、盗賊が窓ガラスを割って、入ってきたと、思ったらしいんだよ。

 それで、ハックさんに窓ガラスを新たに張り替えてもらったんだよ。なんだか……ハックさんに、また仕事を増やしちゃったんだよ。ハックさんには申し訳ないんだよ。はうう。

 もう、今週だけで八回くらい壊しちゃったんだよ。酷い時は家一軒いえいっけん、壊しちゃったんだよ。だけど、そんな壊れた家も、ハックさんの手に掛かれば翌朝には元の状態に戻っていたんだよ。

「まったく! これでは、旅にでたら、魔物や盗賊ではだけでなく、下心丸出しの、男共が寄ってきてしまうではないか」

 始まってしまったんだよ。村長さんの過保護過ぎるための、説教が、また始まったんだよ。

 心配症の村長さんは、あたしが一人で狩りを、始めた頃から、いつも外の危険性を、一日で長くても十時間くらい話てくれたんだよ。奥さんのドアさんには、いつも過保護すぎで怒られていたんだよ。

「その辺にしときなよ、じーさんや。心配するのはわかるが、余り過保護だとエドナが独り立ちだきなくなってしまう。わしらが、一緒エドナの面倒を、見ることなんて、できんからの」

 そこに救世主……じゃ、なくって、村長さんの奥さんのドアさんの姿が。

「あっ! ドアさんだー」
「おっと! すまんな」

 話に入ってくれたことで村長さんの、長い説教を聞かないで済んだよ。ドアさん感謝なんだよ。

「エドナ。これを持って」

 ドアさんに渡されたのは、いつも焼いてくれるコッペパンを使った。具材たっぷりのサンドイッチだったんだよ。あたしが狩りに出かけるたびに、作って渡してくれるんだよ。これがとても美味しんだよ。

「ありがとうなんだよ! ドアさん」
「そうじゃ、エドナよ。今夜はわしの家で夕食を食べんか? 今夜は……シチューじゃよ」
「いいのですか? ありがとうなんだよ! これは大物を取らないとなんだよ! ……あ! そろそろいかないと、では行ってくるんだよ!」
「気を付けるんじゃよ。ボタンは飛ばしても、スカーフは外すんじゃないよ」
「わかりました!」

 あたしは村長さんとドアさんに挨拶した後、村入り口まで走って行ったんだよ。村から出ようとしたところで。

「おっ! ちっこい嬢ちゃんじゃないか。相変わらず、元気そうだな!」

 村から出ようとしたところに、声をかけられたんだよ。振り向くと。

「ハルトさんだー」

 ハルトさんは、元々、ライム村に住んでいたけど、どこの街だったかは忘れちゃったんだけど、その街で、武器屋をやっていて、時々、ライム村に来て武器を支給してくれるんだよ。

 ハルトさんは、あたしが小さい頃までは、村に住んでいたけど。あたしが十歳頃、辺りから、この村から出て行っちゃったんだよ。

 それよりも。

「ところでなんで、あたしのことを、まだ『ちっこい嬢ちゃん』なんですか!? あたしはエドナだよ! エ・ド・ナなんだよ!」

 あたしは、ハルトさんに、一度も名前で呼ばれたことがないんだよ。昔から「ちっこい嬢ちゃん」って呼ばれ続けられているんだよ。十五歳になった、あたしに「ちっこい」は失礼なんだよ。確かに、あたしは背が低いんだよ。村にいる女性の方々よりも、ずぅーーと背が低いんだよ。あたし、もう、十三歳から、背が一センチも伸びていないんだよ。それなのに年々体が重くなっているんだよ。もう! 何でなんだよ!?

「昔から名前を覚えるのは苦手で……、それ以外は覚えられるんだが」
「もうー。きっと、ハルトさんが、ずっと、『ちっこい嬢ちゃん』と呼んでいたから、背が伸びなくなっちゃったんだよ! もしかて、ハルトさんは呪い術者だと、あたしはそう考えているんだよ! きっと、そうなんだよ!」
「そんな、力ねぇよ。……悪かった。今度、村に戻った時に、美味しいって、評判の店のお菓子あげるから」
「ホント? やったー!」

 お菓子が貰えることが嬉しいんだよ。でも、何でお菓子貰えることになったのかな? ……忘れちゃったんだよ。

「ハルトさんは、もう街に帰るんですか?」
「ああ、そうだな」
「いいな~」
「嬢ちゃんが、旅に出た時には、立ち寄ってくれ」
「うん。必ず、ハルトさんの住んでいる街に、寄るんだよ」
「そうだ! いい弓を手に入れたから、いつものところにあるよ。嬢ちゃんが来たら渡すよう言ったから」
「本当ですか!? ありがとうございます! 後で取りに行きます! 楽しみにしています」

 いつもの、ところと言えば、村の食料や狩道具といった、生活に必要な品物を管理しているマスティさんの家なんだよ。狩りが終わったら取りに行こう。

「じゃあな、俺はこれで。狩りを頑張りな、嬢ちゃん」
「ハルトさんもお元気で!」

 村から出ると、あたしは森の方へ走って向かったんだよ。だけど……。

「はわわわわわわわわわわわわわわわ!!!」

 ドーーーーーン!!!

 また、転んちゃったんだよ。もう派手に、顔から落ちちゃったんだよ。

「大丈夫か?」

 ハルトさんが遠くから声を掛けてくれたんだよ。

「はうう……。大丈夫なんだよ……、いたた……」

 あたしはすぐに立ち上がり、何事もなかったかのように、森の方へ走って向かったんだよ。

 気を取り直して、いざ、狩りへ出発なんだよ。



 いつもの日常。だけど、この時のあたしは思いもしなかったんだよ。

 向かう先で、あの伝説の女将軍によく似た女性との出会いを。

 そして、これが村長さん含めたライム村の人々とは会うことができなくなるということを、まだ……。
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