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バッシングの治まった中で健闘したが、庵の結果は負けだった。相手が悪かった。
なぜなら夜神に憧れている大勢の一人で、事前に庵の事をな日本軍の誰かが教えた為、敵対心丸出しで立ち向かっていったのだ。これには庵も手も足も出ない、出せない状態で頑張ったが結果は負けだった。

庵が膝を着いた時には拍手や口笛が響き、相手を賛えていたのは言うまでもない。
「いつか、覚えていろよ━━!!」と心の中で叫ぶ庵だった。

そんな、渾沌極める中で一日目、二日目と過ぎていく。
過ぎていく中でも、組み込まれた演習のプログラムをこなしていく。

そして、遂に三日目を迎えた。朝から熱気の収まらない両軍は今か、今かと待っている。
この、サバイバルゲームでも七海中佐の例の「勝った人は相手国の人と観光」を採用している。

長谷部はワサン中佐から打診があったとき、正直今回は見送ろうと思っていたが、相手国の嘆願書の束を見せられた時に、色々と考えてしまい一番被害を被る夜神大佐に相談した。

夜神大佐からの答えは「どっちでもいい」と半ば投げやりな答えに、「諦めているな?」と思ったが、グッとそこは飲みこんだ自分は偉いと思う。
そうして、採用されたものだから、今回も相手国の熱気と殺気とやる気と様々なものが高まっていて、「今回もかぁ・・・・」と半羽嘆いている日本軍の精鋭達がいる。

そして、一番の被害者の夜神は真反対の考えで「今回も頑張るか!」と諦めの境地を昇天させ、楽しむことに開花させていた。色々な意味で見習いたいものである。

「長谷部中佐、宜しくお願いしますね」
「こちらこそ宜しくお願いします。個人的な事でサポートしてもらうのは忍びないが・・・・・」
ワサン中佐と個人的な事の決着を決める間、相手からの妨害があれば、それを御する役目を夜神大佐が担っている。
もし、同じように自軍がワサン中佐に妨害をしょうとした場合は夜神大佐からの注意がくる。

「とんでもない。二人の激戦を間近で見れるのだから役得ですよ」
クスクス笑ってゲーム用の刀の柄を握る。
「しっかりと、二人が思う存分遺恨を残さず出来るよう最善を尽くしますね」
「期待に添えるよう頑張るよ」
こちらもゲーム用の革製のグローブを握り、その場で軽く正拳突きをする。
「そろそろ行きましょうか。思う存分暴れて下さいね」
「あぁ、暴れさせてもらうよ」
今度こそ決着をつけよう。応援してくれる人の為に。自分の為に。



決着は着くのだろうか?
夜神の感想は至って簡潔であった。
示し合わせたように、二人の中佐が現れると、互に拳を握り構えだす。
そして、そこからは二年前の再来を彷彿させる、激しい体術が繰り広げられる。

さらに、タイ軍の数人が現れて長谷部中佐を攻撃しょうとしたのを確認すると、夜神は刀を抜いて相手を気絶させる。
「水を指すような行為は駄目だよ?」
すでに気絶した人間に淡々とした態度で注意を促す。
それを数度繰り返していった。
その結果、気絶した人間の山が完成していった。
それから数刻・・・・・・

互に汗を流し、ゼーゼーと肩で息をしながら対峙する二人は、中々決着がつかず平行線の状況がおかしくて互に笑い合う。
『長谷部中佐!そろそろ疲れたでしょう?降参してもいいんですよ?』
『ワサン中佐こそ?息が上がってますよ?』
軽口を言い合い、落ち着いた所でまた一歩も引かない攻防戦が繰り広がる。

「いた、いた、いた!!夜神仕事してっかー」
七海が飄々と現れる。それを見た夜神はとりあえず手をふる
「ちゃんとしてるよ。虎次郎こそどうしたの?」
虎次郎と合流する予定はない。なのに現れたのは何か意味が在るのだろうか?
「多分、この二人は最後まで戦い続けるだろうから、自軍の点数稼ぎに夜神が暴れ回ってきて欲しいと思ってね。ここは俺が受け持つよ」
無精ひげを撫でながら笑う。たしかに点数は欲しい。それに、待ち受けてばかりは少しだけ飽きてきたところだ。
なら、ここは虎次郎の好意に甘えよう。

「ありがとう。そろそろ動き回りたいと思っていたの。それじゃ行ってくるね?そうそう・・・・・」
夜神は指をさして、にこっと笑う
「右に三人、左に二人・・・・片づけてからでいい?」
「あぁ、頼む」
「了解!」
返事をすると、刀の柄に手を置いて人数の多い右側に向かって走り出す。

そして、二人の戦いを邪魔する不届き者を成敗していく。気分は正義の味方だ。そうして近くの邪魔者を片づけて自由に動く。
元々は長谷部中佐の決着が着いたら自由に動く予定だった。それが早まったと思えばいい。

抜き身の刀を納刀し、気分で決めた左側を走りながらタイ軍を見つけては気絶させる。


そうして、花火が打ち上がりサバイバルゲームの終わりを告げる。
「終了だね。長谷部中佐は結局どうなったのかな?でもあの調子だと今回も引き分けかな?」
勝ってほしい気持ちと、勝負つかずで次に持ち越して、更に楽しんでいる二人を見たい気持ちがある。
好敵手ライバルの二人が真剣に勝負している姿は見ていて好ましい。素敵な関係だと思う。
それに、二人ともなんだかんだで楽しんでいるのは間違いない。
そんな二人に横槍入れてくるが莫迦が多くて困ったが、私もちゃんと役目をこなしたし、後からは虎次郎が交代して、思いっきり動けたし満足かな?

「さて、集合場所に向かいますか」
結果は最後までわからない。何が起こるのかわからないのが演習なんだから。

『両軍お疲れ様。結果だか、一位は日本軍の夜神凪大佐。二位はタイ軍ダーオルング・アポヤポン少佐。三位は日本軍相澤千明中佐以上である。両軍健闘を賛えて拍手!!』
パチパチと両軍の拍手で締めくくられる。
幹部の人間がいなくなると、ワサン中佐が現れる。そしてその顔を見て一瞬言葉をつまらせる。

例えるならボクシングの試合後の選手のような顔だった。全体的に腫れて、口の端は切れて血が滲む。瞼はガーゼをあてているが、青痰が出来ている。
すぐ隣には長谷部中佐もおり、こちらも似たような顔で、戦闘の激しさを物語っている。

『凄い顔ですね。色々と物語ってますよ』
少し、苦笑いで答えると二人とも気まずそうになりながらもそれぞれお礼を言ってくる。
「大佐のおかげで思う存分出来たよ。結果は引き分けだったけど、今度こそは白黒決めようと思う。ありがとう」
『夜神大佐のおかげで邪魔されず、集中出来ました。ありがとうございます。所で我々は七海中佐の「勝者は相手国の人と観光」を適用してます。誰と行きますか?アポヤポン少佐とかいかがですか?』

ワサン中佐は知っている。アポヤポン少佐は夜神大佐を崇拝する信者の一人だと。今回の事を労って少佐を勧めてみる。
すると、タイ軍から(主に男性陣)雄叫びに近い、雄々しい声で各自を立候補する声が聞こえてくる。

「・・・・・・いつものことながら疲れる。虎次郎のせいだ・・・・・」
ボソッと呟いて、ため息をする。そして顔を上げてワサン中佐を見上げると凛とした声で高々と告げた。
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