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それから数日が過ぎた頃、藤堂元帥に呼ばれて第一室の隊長達と第二の長谷部少佐、第三の藤堂少佐が呼ばれ集まる。

夜神は藤堂元帥がどうなるのかが不安で仕方がなかった。このまま軍を去ってしまうには惜しい人なのだ。出来ることならこのまま居て欲しい。

部屋に集められた人間は、皆ソファに座り元帥の一言を待つ。しばらく沈黙が続いたが、元帥が口を開く
「知っている者もいると思うが、上層部と話をしてきた。結果は惨敗だ。私に対して特に何かといったものはないので、このまま元帥を続けていいみたいだ。腑に落ちんがな・・・・」

元帥が軍から去ることはなくなったようで、そこは安心する。それは皆も同じだったようで顔に安堵の色が浮かぶ。
「藤堂元帥、何か脅されたりしたのですか?」
七海は確認する。去ることなく続けていくのだ、何かしらのことがあったのは間違いないだろう。

「脅しはなかったが注意喚起は受けた。そして、だ。ここに集まってもらったのは階級について話す為だ」
これ以上の詮索は無意味だと、藤堂元帥は話を進める。
「夜神大佐と同じように、階級が一つ上げるようにとの上層部からの指示だ。それでこれ以上は首を突っ込むなと圧をかけられた」
藤堂は苦虫を噛み潰したような顔で話していく。

階級が上がるのは悪いことではない。上がれば上がるほど、軍の中で力を付けることができる。
「・・・・・階級についてはありがたく頂戴します。藤堂元帥本当になんですね?」
七海は真剣に聞いてくる。それを聞いた周りも神妙な面持ちで成り行きを見守る。

「大丈夫だ。これ以上の心配は無用だ。後日、記章等をそれぞれ届けるので身につけるように・・・・・色々とすまなかったな。結局、何も解決出来なかった。不甲斐ない」
ギリギリと歯を噛み締めて、拳を握り込む。その拳は微かに震えている。

ここに座っている人間は皆知っている。元帥を筆頭に色々と動いていることを。だが、壁が高すぎた。動くならもう少し、準備をしないといけないことを痛感した。

「分かりました。この件にはこれ以上の話は無用ですね。進退に問題もないのなら、私達はこれ以上は関わりません。ですが、何かあれば駆けつけます。考えが必要なら考えます。これだけは胸に留めていてください。私から以上です」
いつもの飄々とした七海からは、想像もつかない落ち着いた、静かな声で元帥に向かって話す。

「ありがたく頂戴するよ。その時は、馬車馬の如く働いてもらうぞ。特に虎次郎がな」
少しだけ顔が緩むのを見て、夜神は少しだけ安心した。
必要以上に思い詰めていないか心配だったのだ。けど、七海の「何かあれば駆けつる」の言葉を聞いて、一人でも多くの仲間がいることを知ったのかもしれない。

「さて、しばらくは大人しくしておかなければならないな。危険人物に認定されてしまったからな・・・・だが、何かあれば遠慮なく言いなさい。その時は皆で考えよう」
「大人しくね~?約一名大人しく出来るか分からないのがいるがな?」
七海はニヤニヤしながら無精ひげを撫でてこっちを見てくる。
「何でこっち見るの?もしかして私のことを言っているの?」
「い~や~もしかしたら、大人しく出来ないのは、俺かもしれないしなぁ~。いや~、まいった、まいった」

わざとらしく肩をすくめて「ヤレヤレ」としている七海を、皆が「また、始まった」と黙って見守る中、夜神一人だけが鬼のような形相で七海を睨む。それを涼しい顔で受止める七海。

「分かった、分かったから。相変わらず成長しない二人だな。大人しくするように。これ以上ここにいても、何もならないのでこれで解散だ。二人も喧嘩は他所でするように」
呆れ顔で諌めて、退出を促す藤堂の言葉を聞いて、集まった人間は立ちあがり敬礼して出ていく。

藤堂の後ろで立っていた七海中将はため息をする
「あのバカ息子、気を使ってくれるのは良いが、なぜ人を巻き込むのか・・・・夜神大佐も可哀想に」
「虎次郎の良いところではあるんだかなぁ、けど、あの一言で退出を促す切っ掛けになったのも事実。流石切れ者なだけはある。凪は仕方がないな。言い合いが尽きないが、虎次郎の事は「兄」として慕っているのは知っているからな」

子供達の成長する過程を幼い頃から見てきたのだ。皆がそれぞれ、どんな風に相手を思っているのかも知っている。
そして夜神が、嵐山と血の繋がりのない事も。嵐山がどうして夜神と養子縁組をしたのかも知っている。

「我々、おやじ達は子供達の成長を見守りながら、余計な火の粉が降りかからないように、気を配らないといけないな」
「火の粉か・・・・・本当に大丈夫だったのか?」
「あぁ、色々とあったが、危険人物認定だけですんだのは奇跡だな。けど、これから動くのには、慎重にしないといけないのは事実。見てみぬふりを続けながら、水面下で準備を進める。その時は七海親子も頑張ってもらうがな」

ソファの背もたれに体を預けて、ため息をしながら今後の事を考える。目の前には移動した七海中将が話を聞くために座る。
それからしばらく、話し込んでいった。

「すまんかったな。けど、夜神のおかけで退出の切っ掛けが出来て、良かったよ、いやー良かった!」
一人満足して廊下歩く七海に、冷たい目線を皆が送る。
「虎、満足するのはいいけど、夜神大佐のフォローはしっかりしときなさいよ。今にも何かを召喚しそうな雰囲気よ」
式部が現状報告をする。その報告を聞いた七海は、口笛を吹く。

「召喚とか勘弁してくれよ。庵青年か夜神が一番いいポジションでリアクションしてくれるんだよ。今回は青年がいなかったから、夜神になっただけであって、故意ではないんだけどなぁ~」
言い訳なのかわからない言葉を並べる七海を、じと━━と、白目で見つめる夜神は静かに微笑む。

「そう、分かった。よほど壁と親友になりたいのが理解した。今から仲良しになりに行こうか?」
「夜神!お前最近、色々と吹っ切れてないか?それに俺は親友は沢山いるから、遠慮する。その親友は、庵青年と仲良くさせたほうがいいのではないでしょうか?」
明後日の方向を見る七海に、夜神以外の全員が冷めた目で見始める。

そして一人、また一人と二人を残して皆は先に、自分たちの部屋に戻っていく。
残された二人は、お互い顔を合わせる。七海が先に動き出すが、それ以上のスピードで夜神は七海の腕を掴み、ニッコリする。
「逃げないでよ、虎次郎。さて、道場は開いてるかなぁ~」
身長も体格も、七海の方が有利なのに、何故か逃げられない。
「あちゃ~・・・・夜神大佐~お手柔らかにお願いしますね~」
覚悟を決めて、七海は少しでも、ダメージが少ないようにするには、どうしたら良いかを考える。
それはいつも作戦を考えるように慎重に。

だが、そんな作戦は夜神の前では意味がなかった。
宣言通り、七海は壁と友達という名の「激突」を夜神から与えられた。


そして後日、長谷部室長から渡されたのは、肩の階級章など階級にまつわるもの一式だった。それらを慎重な面持ちで七海達は受け取った。
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