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閑話 イタリア共同演習19
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色々とあった演習も終わり、部屋でパソコン作業をしていると、扉をノックする音が聞こえてくる。
「誰?」
夜神は作業を一旦やめて、扉を開ける。そこに居たのは風呂敷包みを持った式部と、笑顔の野村大尉がいた。
何となく扉を閉めようとしたが、ガッ!と足を入られて閉める事は叶わなかった。
「酷いわ~大佐。せっかく持ってきたのに。お邪魔しま~す」
「どうぞと言ってませんけど?」
「気にしない。気にしない。ね~式部」
「諦めなさい。夜神大佐。あずさに勝てるの?」
「・・・・・・剣技なら」
わざと聞こえるため息をして、式部も部屋に入っていく。
野村 あずさ大尉は第四室所属の「高位クラス武器保持者」で、式部と同じく夜神の服装を管理している一人である。
そして、第一室の相澤少佐の彼女でもある。
「千明に聞いた時は、飲んでた飲み物吹きそうになったけど、総長と式部が笑いながら言ってきたから「あ~ぁ」と思ってしまったわ」
「へ~笑いながら・・・・・・」
三度ほど夜神の周りの空気が冷える。式部はそれでも笑みを絶やさない。
「そこから、由紀さんの所行って、事情を話したら由紀さんもノリノリで選んでくれてね~いや~助かったわ~着物なんてド素人だからさ~はい、由紀さんセレクトのトータルコーデです」
野村大尉は式部の持っている風呂敷を掴んで、夜神に押し付ける。
「由紀さんも巻き込んで何してるの?私も幾つか持ってるんだけど?」
「総長曰く「凪の持ってるのは面白くないから」だ、そうです。その点、由紀さんはバライティ豊かですから。ま~諦めて~」
なんだろう?総長はいつ見たのだろうか?なんか恐ろしいのですが・・・・・
「着付けは私達出来ないから、大佐で着てね。ヘヤーメイクは二人でするから。着物がメチャ可愛いからセットも甘々のガーリー系にするから~楽しみに~」
自分に合わない単語が、次から次えと聞こえるのは幻聴だろうか?甘々?ガーリー?やめて欲しい!
「野村大尉?本気ですか?」
「本気よ~ベルナルディ中佐を完膚無きまでに叩き潰す!これは私達の戦いなの。分かった?」
あ~何かどうでも良くなってきた・・・・うん。
「なので、大佐宜しくね~」
色々な感情がシャットダウンした夜神に対して、二人の隊長は、まだ演習中なのかと聞きたくなるほどの闘志を見せてくるのだった。
そんな不毛なやり取りをして、迎えた案内日。朝から二人の隊長に、あれよあれよとされながら、ベルナルディ中佐の約束した場所に、五分前に到着する。そこには有栖川室長を始めとして、野次馬の群れが出来ている。
「夜神大佐!うん。流石由紀さんセレクト!間違いないわ。二人もお疲れさま。私達の戦いは完全勝利ね」
「ありがとうございます!総長!後は反応を見るだけですね!楽しみ~」
「夜神大佐、笑顔よ、笑顔!私達の勝利は大佐次第なんだからね?」
「何で勝負事に発展してるの?」
三人のやり取りが「勝負事」になっているのは何故なんだろう?
それにしても何故、周りに人が沢山いるのか?今からこの人たちも観光に行くのだろうか?
相変わらず斜めの考えをしている夜神に、歓喜の声を上げて近づいてくる人物がいた。
ベルナルディ中佐だ。その姿を見て、一気に疲れが出てきてしまった。
『とてもお似合いですよ!軍服の姿も良いですが、これは・・・・・』
感嘆の声をあげるベルナルディ中佐は、夜神を頭から爪先までじっくりと堪能する。
ターコイズブルーの着物は雪輪と菊柄に、帯は綸子の光沢のある白地にペールグリーンの糸菊が刺繍されている。帯揚げ帯揚げはホリゾンブルーで着物と帯を引き立てる。
そこに白の生地の上から、ベージュの葉模様のレース地を重ねて仕立てた羽織を着ている。
髪もいつものポニーテールではなく、緩く巻いて、それを編み込んで片方に垂らしている。小花のつまみ細工で出来た髪飾りも着物と同じくターコイズブルーで揃えている。
『明るい色もお似合いですよ。有栖川室長ありがとうございます。流石ですよ』
『褒めて頂いて光栄ですわ。これで京都を楽しめますね?』
艶やかな笑みをベルナルディ中佐に向ける。
だが、夜神は見逃さなかった。微かに握りこぶしを作り、見えないガッツポーズをしていることを。
夜神を抜きにした「勝負事」は、間違いなく勝利したのだろう。その為いつも以上に笑顔のような気がするのは、間違いないと思う。
だが、何も言えないのも確かなのだ。言ってしまったら最後、とんでもない事が起こるのは目に見えている。
夜神は無表情でやり取りを見ていたが、ベルナルディ中佐が振り向いてきたので、何となくだがベルナルディ中佐を見る。
ベルナルディ中佐は黒の膝丈のツイード生地のコートに、白のニットセーターとチノパン、シャツは黒色と、モノトーンコーデでまとめている。そして長い手足に金髪を晒しているのだ。
初めて見る人は「かっこいい」と思うかもしれないが、夜神は騙されない。既にベルナルディ中佐の人となりを知っているのだから。
『さて、そろそろ行きましょうか?時間は限られてますからね?』
違和感なくスムーズにエスコートするのは流石と言えるが、夜神は鳥肌になる。慣れていないせいかゾワゾワするのだ。
「何か色々としんどい・・・・・」
小声で呟くが、それはベルナルディ中佐には聞こえていなかったようだ。
夜神達は有栖川室長達に挨拶をして、待たせてあるタクシーに乗り込んで、京都方面の電車に乗るために駅に行く。
その駅では見知った顔の人達が多数見られたが、きっと同じ方面に行くのだろうと、夜神は考えて何も言わなかった。
ベルナルディ中佐は色々と思うことがあるのだろうか、色々と警戒している。
やがて電車は目的地の京都に着くと、ベルナルディ中佐は張り切って夜神を目的の場所まで連れて行く。
「清水寺」は778年に創建された寺院で、世界遺産の一つである。
ベルナルディ中佐は観光客で多い廊下を、夜神と一緒になって歩いていく。
『やはり、有名な寺院だけあって人が多いですね。夜神大佐は大丈夫ですか?』
『大丈夫です。あぁ、あれがこの寺院の本尊の「十一面千手観世音菩薩」ですね』
立派な菩薩像を見てベルナルディ中佐はため息をする
『凄いですね。でも顔と手が多いですね』
『十一の表情と四十二の手で大きな慈悲をあらわし、人々を苦難から救うといわれているんですよ』
『そうなんですね。ありがたいですね』
更に進んでいくと、有名な「清水の舞台」が現れる。
『これがよく見ると「清水の舞台」ですか。高いですねー大佐、写真撮りましょう』
『えぇ、カメラ貸して下さい。撮りますよ?』
『何言ってるんですか?一緒に撮るんですよ?・・・・あぁ、撮ってくれるかね?』
すきあらば写真を撮ろうとするベルナルディ中佐と、それを阻止したい夜神との、攻防戦をずっと繰り広げている。
だが、行く先々でイタリア・日本の両軍の軍人が、何故か高い確率で遭遇して、写真を撮っていくのだ。
そして今も一緒に写真を撮っていく。
肩に手を回し、笑顔のベルナルディ中佐と、ぎこちない笑顔の夜神大佐の相反する写真が、またカメラに収められる。
『・・・・・・・・』
夜神は既に色々と疲れたきた。いつまで続くのか分からないものは、色々と神経がすり減るのだ。
『そろそろお昼ですね。何か食べたいものとかありますか?』
だが、折角日本に来たのだから、楽しんでもらいたいのも、わずかばかりだがある。
『京都は豆腐が有名ですよね。とても美味しそうなお店を見つけて、予約してますのでそこに行きましょう。近くなんですよ』
ベルナルディ中佐は相変わらずの笑顔で対応する。
あまりの用意周到さに驚いたが、それだけ観光を楽しみにしていたのだと思い笑顔で対応する。
『良いですね。寒いので湯豆腐とか美味しいかもしれないですね?行きましょうか』
『行きましょう。楽しみだな~日本の料理は見た目も綺麗だから、楽しみです』
『褒めて頂き光栄です』
他愛もない会話をしながら、目的の店にスマホを見ながら歩いていく二人である。
「誰?」
夜神は作業を一旦やめて、扉を開ける。そこに居たのは風呂敷包みを持った式部と、笑顔の野村大尉がいた。
何となく扉を閉めようとしたが、ガッ!と足を入られて閉める事は叶わなかった。
「酷いわ~大佐。せっかく持ってきたのに。お邪魔しま~す」
「どうぞと言ってませんけど?」
「気にしない。気にしない。ね~式部」
「諦めなさい。夜神大佐。あずさに勝てるの?」
「・・・・・・剣技なら」
わざと聞こえるため息をして、式部も部屋に入っていく。
野村 あずさ大尉は第四室所属の「高位クラス武器保持者」で、式部と同じく夜神の服装を管理している一人である。
そして、第一室の相澤少佐の彼女でもある。
「千明に聞いた時は、飲んでた飲み物吹きそうになったけど、総長と式部が笑いながら言ってきたから「あ~ぁ」と思ってしまったわ」
「へ~笑いながら・・・・・・」
三度ほど夜神の周りの空気が冷える。式部はそれでも笑みを絶やさない。
「そこから、由紀さんの所行って、事情を話したら由紀さんもノリノリで選んでくれてね~いや~助かったわ~着物なんてド素人だからさ~はい、由紀さんセレクトのトータルコーデです」
野村大尉は式部の持っている風呂敷を掴んで、夜神に押し付ける。
「由紀さんも巻き込んで何してるの?私も幾つか持ってるんだけど?」
「総長曰く「凪の持ってるのは面白くないから」だ、そうです。その点、由紀さんはバライティ豊かですから。ま~諦めて~」
なんだろう?総長はいつ見たのだろうか?なんか恐ろしいのですが・・・・・
「着付けは私達出来ないから、大佐で着てね。ヘヤーメイクは二人でするから。着物がメチャ可愛いからセットも甘々のガーリー系にするから~楽しみに~」
自分に合わない単語が、次から次えと聞こえるのは幻聴だろうか?甘々?ガーリー?やめて欲しい!
「野村大尉?本気ですか?」
「本気よ~ベルナルディ中佐を完膚無きまでに叩き潰す!これは私達の戦いなの。分かった?」
あ~何かどうでも良くなってきた・・・・うん。
「なので、大佐宜しくね~」
色々な感情がシャットダウンした夜神に対して、二人の隊長は、まだ演習中なのかと聞きたくなるほどの闘志を見せてくるのだった。
そんな不毛なやり取りをして、迎えた案内日。朝から二人の隊長に、あれよあれよとされながら、ベルナルディ中佐の約束した場所に、五分前に到着する。そこには有栖川室長を始めとして、野次馬の群れが出来ている。
「夜神大佐!うん。流石由紀さんセレクト!間違いないわ。二人もお疲れさま。私達の戦いは完全勝利ね」
「ありがとうございます!総長!後は反応を見るだけですね!楽しみ~」
「夜神大佐、笑顔よ、笑顔!私達の勝利は大佐次第なんだからね?」
「何で勝負事に発展してるの?」
三人のやり取りが「勝負事」になっているのは何故なんだろう?
それにしても何故、周りに人が沢山いるのか?今からこの人たちも観光に行くのだろうか?
相変わらず斜めの考えをしている夜神に、歓喜の声を上げて近づいてくる人物がいた。
ベルナルディ中佐だ。その姿を見て、一気に疲れが出てきてしまった。
『とてもお似合いですよ!軍服の姿も良いですが、これは・・・・・』
感嘆の声をあげるベルナルディ中佐は、夜神を頭から爪先までじっくりと堪能する。
ターコイズブルーの着物は雪輪と菊柄に、帯は綸子の光沢のある白地にペールグリーンの糸菊が刺繍されている。帯揚げ帯揚げはホリゾンブルーで着物と帯を引き立てる。
そこに白の生地の上から、ベージュの葉模様のレース地を重ねて仕立てた羽織を着ている。
髪もいつものポニーテールではなく、緩く巻いて、それを編み込んで片方に垂らしている。小花のつまみ細工で出来た髪飾りも着物と同じくターコイズブルーで揃えている。
『明るい色もお似合いですよ。有栖川室長ありがとうございます。流石ですよ』
『褒めて頂いて光栄ですわ。これで京都を楽しめますね?』
艶やかな笑みをベルナルディ中佐に向ける。
だが、夜神は見逃さなかった。微かに握りこぶしを作り、見えないガッツポーズをしていることを。
夜神を抜きにした「勝負事」は、間違いなく勝利したのだろう。その為いつも以上に笑顔のような気がするのは、間違いないと思う。
だが、何も言えないのも確かなのだ。言ってしまったら最後、とんでもない事が起こるのは目に見えている。
夜神は無表情でやり取りを見ていたが、ベルナルディ中佐が振り向いてきたので、何となくだがベルナルディ中佐を見る。
ベルナルディ中佐は黒の膝丈のツイード生地のコートに、白のニットセーターとチノパン、シャツは黒色と、モノトーンコーデでまとめている。そして長い手足に金髪を晒しているのだ。
初めて見る人は「かっこいい」と思うかもしれないが、夜神は騙されない。既にベルナルディ中佐の人となりを知っているのだから。
『さて、そろそろ行きましょうか?時間は限られてますからね?』
違和感なくスムーズにエスコートするのは流石と言えるが、夜神は鳥肌になる。慣れていないせいかゾワゾワするのだ。
「何か色々としんどい・・・・・」
小声で呟くが、それはベルナルディ中佐には聞こえていなかったようだ。
夜神達は有栖川室長達に挨拶をして、待たせてあるタクシーに乗り込んで、京都方面の電車に乗るために駅に行く。
その駅では見知った顔の人達が多数見られたが、きっと同じ方面に行くのだろうと、夜神は考えて何も言わなかった。
ベルナルディ中佐は色々と思うことがあるのだろうか、色々と警戒している。
やがて電車は目的地の京都に着くと、ベルナルディ中佐は張り切って夜神を目的の場所まで連れて行く。
「清水寺」は778年に創建された寺院で、世界遺産の一つである。
ベルナルディ中佐は観光客で多い廊下を、夜神と一緒になって歩いていく。
『やはり、有名な寺院だけあって人が多いですね。夜神大佐は大丈夫ですか?』
『大丈夫です。あぁ、あれがこの寺院の本尊の「十一面千手観世音菩薩」ですね』
立派な菩薩像を見てベルナルディ中佐はため息をする
『凄いですね。でも顔と手が多いですね』
『十一の表情と四十二の手で大きな慈悲をあらわし、人々を苦難から救うといわれているんですよ』
『そうなんですね。ありがたいですね』
更に進んでいくと、有名な「清水の舞台」が現れる。
『これがよく見ると「清水の舞台」ですか。高いですねー大佐、写真撮りましょう』
『えぇ、カメラ貸して下さい。撮りますよ?』
『何言ってるんですか?一緒に撮るんですよ?・・・・あぁ、撮ってくれるかね?』
すきあらば写真を撮ろうとするベルナルディ中佐と、それを阻止したい夜神との、攻防戦をずっと繰り広げている。
だが、行く先々でイタリア・日本の両軍の軍人が、何故か高い確率で遭遇して、写真を撮っていくのだ。
そして今も一緒に写真を撮っていく。
肩に手を回し、笑顔のベルナルディ中佐と、ぎこちない笑顔の夜神大佐の相反する写真が、またカメラに収められる。
『・・・・・・・・』
夜神は既に色々と疲れたきた。いつまで続くのか分からないものは、色々と神経がすり減るのだ。
『そろそろお昼ですね。何か食べたいものとかありますか?』
だが、折角日本に来たのだから、楽しんでもらいたいのも、わずかばかりだがある。
『京都は豆腐が有名ですよね。とても美味しそうなお店を見つけて、予約してますのでそこに行きましょう。近くなんですよ』
ベルナルディ中佐は相変わらずの笑顔で対応する。
あまりの用意周到さに驚いたが、それだけ観光を楽しみにしていたのだと思い笑顔で対応する。
『良いですね。寒いので湯豆腐とか美味しいかもしれないですね?行きましょうか』
『行きましょう。楽しみだな~日本の料理は見た目も綺麗だから、楽しみです』
『褒めて頂き光栄です』
他愛もない会話をしながら、目的の店にスマホを見ながら歩いていく二人である。
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