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109 流血表現あり

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一ヶ月の内勤勤務も終わり、討伐任務をいくつかこなしていく。
復帰した時は、下位クラスを学生の庵と一緒に討伐していったが、一緒に行動をしていなかった間に、随分と力を付けていることに夜神は嬉しくなった。

問題だった、判断力も随分と改善されて、確実に相手の弱点を見ながらの攻撃や、反撃された時の次の動きを行う動作の切り替えがスムーズに出来ているのが分かり、庵の成長を頼もしく思う夜神だった。

そして、夜神も何体かの下位クラスの討伐任務をしていく。
そして今、七海と一緒にSクラスの討伐をする為、行動を共にする。

「スティグマ」を皇帝に付けられたことにより、帝國では身体に殺傷行為は禁止されていたが、今は違う。帝國ではない為この「スティグマ」が通用するのかわからないのだ。

万が一のため、今回は七海とその隊員と一緒に行動する。
夜神が前線に立つが、相手が拒否したら七海が代わりに討伐する。

「夜神、緊張してるのか?お前らしくないなぁ?」
「緊張はしてない。けど私ののせいで何かあれば、役立たずのレッテルを貼られるのかと思うとね・・・・・高位クラスの討伐任務が出来ない軍人なんて、必要ないから」

皇帝によって付けられた所有物の証の「スティグマ」のある部分を押える。人間には見えない「スティグマ」も吸血鬼には見えている。もしかしたら皇帝が何かしらの命令しているかもしれない。

「例え、何があっても夜神は夜神だろう。自分が討伐出来ないなら部下を持って育てろ。自分が前線にたてないのなら、別の方法を考えて軍の力になれば良い。そうだろう?」
七海は無精ひげを撫でて、笑う。
それを見て、夜神も伏し目がちだった目線を上げて、七海を見る。七海の目は「違うか?」と問いかけている。
それを見て、夜神は苦笑いをする
「そうだね・・・・・その時は庵君を鍛えようかな?」
「えっ?!本当ですか?」

突然、話を振られて驚いたが、夜神の決意のこもった目を見て頷く。
「その時は、宜しくお願いします!」
「おーおー頼もしいね~。さて、お喋りはここまでだ。そろそろ、あちらさんとご対面だぞ。夜神に庵青年準備はいいか!」
「いつでもいいよ」
「大丈夫です」
夜神と庵は、帯刀している刀に手をかけて、いつでも抜刀出来るようにする。

二人の返事を聞いて七海は軽く笑い、インカムから自分の部隊に指示をしていく。
『目標は二体。どちらもSクラスだ。赤色のクラバットは夜神大佐が討伐する。緑色は俺ら七海隊だ。知っていると思うが、赤色のクラバットが何らかの拒否をしたら、俺らは二体相手にするからな。体力温存しとけよ!』
「「「了解!!」」」

『カウントゼロで行動開始。5、4、3、2、1、0!!』

七海のゼロの掛け声と共に、夜神達は一斉に吸血鬼の前に現れる。
赤いクラバットの吸血鬼の前に、夜神は立つとネクタイを引き抜いて首を見せる。
皇帝によって付けられた「スティグマ」を見せるようにして、刀を構える。これは七海からの指示なのだ。


━━━━『嫌だろうが、Sクラスの吸血鬼と対峙する時は「スティグマ」をわざと見せて相手の反応を見ろ。そして何か喋ったら誘導して、話を聞け』


「「白目の魔女」だと!!これはこれは・・・ほぉー「スティグマ」が本当にあるのだな?では、貴様を殺せば私の地位は約束されたようなもの!死ね!」
吸血鬼は腰の剣を一気に引き抜くと、夜神に向かって走ってくる
「私を殺せば良いことでもあるの?誰が言ったの?」
夜神も蒼月を抜刀して、相手の攻撃に対応する為構える
「皇帝陛下だ。「スティグマ」を持っている「白目の魔女」を、餌の世界なら殺しても構わないとおしゃった。その褒美として、揺るがない地位を授ける約束もしてくださった!死ね!我のために!」

吸血鬼と夜神の剣がぶつかり合う。金属音を響かせて、そのまま自分達の後ろに飛んでいく。

「なら、私はこの世界にいる限り、命を狙われるのね?」
「そうだ!帝國では何も出来ないが、ここなら殺せる!」
剣を構えて走ってくる吸血鬼の顔は、悪鬼の様にも見えるほど歪んで、血走ったまなこで夜神捉えている。

夜神は話を聞いて安堵してしまった。
この忌々しい「スティグマ」のせいで、自分は討伐任務から外されて、教官としての道を歩むのかもしれないと思っていたからだ。
教官としての道を嫌だとは思ってはいない。少しでも軍人として、役に立てるのならそれは本望だ。
けれど、どうしてもこの手で吸血鬼の崩壊をやり遂げたいと思ってもいる。

答えが分からなかった━━━━吸血鬼と対峙するまでは。

そしてその答えはすぐに導き出された。
吸血鬼は帝國では手は出せないが、この世界なら殺しても構わない、むしろ殺した方が地位や、名誉といった褒美を貰える。
それを言ってのけたのは皇帝だった。

あの忌々しい金色の目を、声を思い出す。家族も貞節も全てを奪った吸血鬼は、愉悦に満ちた表情で命令したのだろう。
ならば、その命令を実行する為に刃を向ける吸血鬼は、全て自分の手で討伐するのみ。

「抜刀!!蒼月!吼えよ!」
走ってくる吸血鬼を迎え撃つために、構える。切っ先は悪鬼の形相の吸血鬼の首を捉える。
自分の間合いに吸血鬼が入った瞬間、スッと動いていく。それは風に揺れる花のように、音もなく、静かに。
そして次の瞬間、刀を吸血鬼の首に打ち付ける。それと同時に、青い光の虎がその鋭い爪を吸血鬼に振り下ろす。

振り下ろしたと同時に、刀が首を斬り落としていく。
「がぁぁ━━━!」
断末魔と共に首は刎ねられ、地面に音をたてて落ちた。そして首を無くした体も、ぐらついてドサッと重い音をたてて倒れる。

夜神は赤くなった瞳で刀を見る。鈍色に輝く刀身は、吸血鬼の血で妖しい輝きを放つ。
そして、地面に向けると、斬られた首からは血が流れて地面に染みをつくる。

一ヶ月以上前はコレがいつもの事だった。
先生を亡くした時から、死物狂いで己を追い込み、叩き上げて力を付けて、軍最強の称号を手に入れた。そして皇帝をこの手で殺すためだけに頑張ってきたのだ。

だが、赤子の如くあしらわれ、恐怖を植え付けられてしまった。
今でも、時々思い出しては体が震える。
それらをさとられないように、接しているが感のいい長谷部室長や、七海は知っているだろう。それでも普段と変わらない対応をする事に感謝しかない。

刀に付いた血を落とすために、振ってから刀を納める。
七海達を見ると、既に討伐は終わっていた。
こちらの動きを観察するように眺めて、対応をどうするか考えているのが分かる。

充分すぎるほど、みんなの優しさを知っているから、これ以上は心配をかけられないと分っている。
「虎次郎!ちゃんと言われたことしたよ~」

地面に落ちているネクタイを拾って、みんなにいつもの微笑みを向ける。
「後で報告するね。庵君も大丈夫だった?」
ネクタイを結びながら、庵の安否確認をする
「大丈夫です。夜神大佐も大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。それにいつもと変わらず、相手は襲ってくるし・・・・どうやら教官の道はなくなったみたい」
「ハッハハハ!そうか、そうか!教官はまだまだかぁ~。夜神が教官とか考えられねーもんな!みーんな飛ばして「鬼!鬼畜の夜神教官」なんて言われるのがおちだもんな」

七海は笑って無精ひげを撫でる。けどその笑いは少しだけ安堵の色が見える。
「誰が鬼で鬼畜なの?失礼極まりない言葉ね。虎次郎!」
「本当の事だろう?俺を飛ばしまくったのは誰だよ!」
「・・・・・私だけど?でも指導ではなくて、稽古だから。関係ないよ?」
「それでも飛ばしただろうが。普段からしてきたら出るんだよ!それは庵青年がよ━━く分かっている。なっ?」

突然話を振られた庵は驚いて、視線を右や左とウロウロさせて、空を見上げて静止する。
「庵君?」
「・・・・すみません!ノーコメントでお願いします!!」
庵の絶叫が響く。それを聞いた七海は笑いだしてしまう。それを見ていた、七海の部隊もつられて笑い出す。

周りを見ていた夜神はただ一人、不満な表情を浮かべていた。
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