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休憩の間、日守衛生部長が点滴を外して処置をしていく間に、委員会の人達が入室してくる。中には第四室長もいる。そうして、時間になると二回目の答申委員会が開かれる。

「夜神大佐に先に言っておきます。この委員会は黙秘権があります。答えたくないものは無理に答えなくて大丈夫です。宜しいですか?」
「はい、分かりました」
上層部の一人が確認作業をして、双方で共有する。それが終わると質問が始まる。

「夜神大佐の体には数百箇所の噛み跡がありました。これは歯型が全て同一人物と結果が出てます。間違いないですか?」
「っ、そんなに・・・・間違いないです」
全身にあるのは分かっていたが、改めて聞くと気持ち悪い程の数で驚いてしまった。
「夜神大佐と合意の上で行為が行われましたか?」
「違います・・・・毎日、無理やり・・・・・」
自分の体が冷たくなった気がした。寒さから逃げようと、無意識に布団を手繰り寄せて胸の前に持ってくる。

「大丈夫ですか?このまま続けますが答えたくなければ、答えなくて大丈夫です。相手は複数人?それとも一人ですか?」
「ひ、とりです。帝國の皇帝に毎日、無理やり・・・・・皇帝が言ってました。吸血行為に種類があると」
「種類?詳しく教えて下さい」
吸血行為に種類があるなど、初めて聞いたのだ。周りも初めて聞いた事に対してざわついていく。

「「食の牙」は食事の為の行為で、皆がする行為です。痛みも伴います。そして、一部の吸血鬼だけが出来る行為が「色の牙」と言われるもので、吸血行為の時に牙から、媚薬のようなものを体内に流し込んでいく行為です・・・・・毎日「色の牙」を使われました。無理やり変にされて、嫌なのに、毎日、毎日!」

涙が出そうだっだ。自我のセーブが出来ず、噛まれた時から全身が皇帝に支配されているような感覚だった。その感覚から逃げたいのに、逃げることも叶わず縋ってしまう自分が嫌で仕方がなかった。

涙を見られないように俯いて必死に堪える。ギュッと目を閉じていく。
「自分の意思とは関係なく、無理やり吸血行為をされて、陵辱されたのですね」
「・・・・・はい、そして、「孕め」と毎日言われて、中に出されて・・・・私、わ、たし・・・・イヤぁ━━━!」
限界だった。白練色の髪を掴み、イヤイヤと頭を振る。

皇帝が下腹部を撫でては「孕ましてあげようね」と呪文の様に唱えて、胎内に皇帝の残滓を受け入れ続けていた。毎朝、起きるたびに、自分の下半身がベトベトに濡れて、お風呂にいく度に、太腿を伝う感覚が気持ち悪くて嫌で、泣きそうだった。
もし、このまま皇帝の言っていた事が現実になったら、どうしょうと、不安の日々を送っていたのだ。

その、不安が高みに登りとうとう、決壊してしまった。あれ程堪えていた涙は溢れてしまい、頬を濡らす。嗚咽混じりの声が周りに響く。

その時、第四室長の有栖川ありすがわが動き、夜神を抱きしめる。
「っ、室長・・・・・」
「大丈夫。日守衛生部長がちゃんとその辺りを、説明してくれる。怖がることはないのよ」
名前を呼ばれた日守衛生部長は、手に持っていた書類をパラパラとめくり、目当ての書類を見つけると説明する。
「はい。夜神大佐が飲まれている薬で処置してますので、安心して下さい」
「ねぇ?大丈夫だったでしょう。ちゃんと考えて動いているから。夜神大佐は妊娠してないから」
有栖川室長は抱きしめながら、夜神が掴んでグシャグシャななった白練色の頭を手櫛で整えていく。
その行為が気持ちいいのと、ちゃんと対処されている安心感からか、有栖川の胸に顔を埋め、鼻を鳴らしていく。しばらくすると落ち着いてきたのか、ゆっくりと顔を上げていく。

「有栖川室長、ありがとうございます。もう、大丈夫です。日守衛生部長もありがとうございます」
顔を上げて、有栖川室長を見上げていつもの微笑みを浮かべる。そして、顔だけ日守衛生部長に向けて同じ様に微笑む。

ある程度落ち着いたと判断されて、上層部の一人が口を開く。
「夜神大佐、確認です。大佐は帝國の皇帝、ルードヴィッヒ・リヒティン・フライフォーゲルに毎夜、「色の牙」と言われる吸血行為で、催淫効果のある物質を体内に流し込まれ、合意ではなく陵辱的に辱められ、また、相手の性液を受け入れ続けた。以上で間違いないですね?」
「はい。間違いないです」
今までの事を確認する為に、まとめていかれる。その間も有栖川室長は夜神の横についていた。

「分かりました。また、体に残痕が多数見つかりました。日守衛生部長、成分結果をお願いします」
「はい、こちらは七海少佐からの依頼で調べました。結果ヒト由来の鉄が検出されました。血液の鉄分と同じです。夜神大佐もし、言えそうなら言ってもらえませんか?」
日守衛生部長が書類をめくり、言われた所の検査結果を説明する。それを聞いていた夜神は皇帝の「鎖」を思い出した。

「はい・・・・・皇帝が使う力の一種だと思います。体内で鎖を精製して、手の平や背中から出して、拘束したり、攻撃したりします。力の範囲も広く、切り離された鎖でも皇帝の意思で動きます」

鎖の力は嫌と云うほど見ていたし、その身に刻み込まれた。
三年前はその攻撃から、虎次郎は負傷し、先生は目の前で体を穿かれた。
帝國では体に巻き付いて拘束されて、時には吊るされて何度も皇帝を受入れた。剰えあまつさえその鎖が男性性器の形を模して、皇帝の残滓で満たされた中に入れられ、歩いたり座ったりするだけで顔が赤くなるのに、それが突然振動するのだ。人前で何度声を出してしまったことか。

夜神にとって皇帝の鎖は既に恐怖の対象だった。だから病室で式部の隊員が鎖鎌を落とした時に、一気に記憶が駆け巡り反応してしまったのだ。
その結果、鎮静剤を投与されるほどの出来事が起こってしまった。

「では、残痕はその鎖で間違いないのですね?」
「はい。そうです」
「分かりました。私からは以上です。他の方は特にありませんか?」
時間的にも、本人の気力的にもそろそろだと判断した上層部は、委員会を終了する為、周りを見て質問者がいないか確認する。
「いないようなので、これで終了します。夜神大佐ありがとうございます。ゆっくりと休んで下さい。日守衛生部長後はお願いします」
「了解しました」
そうして、上層部の人達は部屋から出て行った。残ったのは有栖川室長と日守衛生部長だけだ。

「夜神大佐に渡さないといけない物があるのよ!」
有栖川室長がポン!と夜神の肩を叩いてニッコリする。
「何でしょうか?」
渡される物が気になり質問する。有栖川室長は自分が座っていた椅子元に置かれた袋を手に取り、夜神に満面の笑みで渡す
「そろそろ秋服を考えないとでしょう?はい、宿題。入院している間にしなさいよ?」
夜神は有栖川室長の言葉に驚いて、目を開いた。そして目頭が熱くなってしまい、慌て顔を伏せる
「・・・・・私、この宿題いつも苦手だったんです。けど、今はとても嬉しいです。ありがとうございます」

ここにも一人、変わらずに接してくれる人が居ることに、夜神は泣いて喜んでしまった。
「夜神大佐は整っているのに、服装が無頓着過ぎるから困るのよね~。式部隊長と「困った」と悩んでいるのよ?けど、楽しんでいるのも事実なのよね~。泣くほど宿題が嬉しいなんて、良かった!二冊ほど多くしたから頑張りなさい。終わったら式部隊長に渡しなさいね」

受け取った袋ギュッと大事に抱え込み、涙目で有栖川室長に微笑む。それをみて有栖川室長も、いつもの艶やかな笑みで夜神に笑いかける。
「そろそろ、私も部屋に戻らないと。日守衛生部長。後はお願いしますね」
「はい、任せて下さい」
そうして、緩く巻いた髪を揺らして部屋から出て行った。

「夜神大佐、良かったですね。周りの人達は大佐の事が大切なんですよ。大佐は一人ではないんですからね」
嵐山大佐が亡くなった時に、日守はそこに居て、夜神が泣きながら「一人にしないで」と叫んでいたことを覚えている。だから第一室のみんなや藤堂元帥、有栖川室長の行動は夜神にとって驚きと、そして一人ではない事への再確認になっただろう。

「はい。みんな私にとって大切な人たちです。大事な仲間です。守れて良かった」
「勿論、私も大佐の事を守りたいと思ってます。こちらの薬を置いておきますので飲んで横になって下さい。今日は、色々と疲れたと思うので、充分に休んで下さい」
日守はサイドテーブルに薬を置いて部屋を出ていく。

夜神はそれを手に取り、言われた通りに飲んで横になる。するといつの間にか瞼が閉じて眠りについていた。
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