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「─────明日、緊急だが、我々上層部で答申委員会を開く。夜神中佐の体調の問題もあるかも知れないが、我々も情報が欲しいのでわかってほしい。場所はここで、夜神中佐はベットに居ていいので」
ナースコールの後、藤堂元帥や長谷部室長、日守衛生部長や、上層部の面々が入ってきて、日守衛生部長の診察が終わると藤堂が口を開いたのだ。

藤堂は緊急で開かれる委員会の説明をする。本当なら体調が良くなってからと考えていたが、周りがそれを認めなかった。
その為、藤堂は場所などを最大限配慮してほしくて、夜神が無理のないように色々と手配した結果だ。

「了解しました。ご配慮頂き感謝します。委員会の時にスケッチブックを準備していて欲しいのですが、よろしいでしょうか?」
「理由は?」
「言葉では説明出来ないものだからです」
「・・・・・分かった。準備しておこう。あと、夜神中佐。中佐には女性のみの答申委員会もある。我々の委員会が終わった後にしていく予定だが、大丈夫だろうか?」

女性のみの答申委員会と聞いて、夜神は震えてしまった。その委員会が適用されるのは性的暴行、被害を受けた者のみが適用されるためだ。
一瞬、ルードヴィッヒからの執拗な行為を思い出して、自分で自分を抱きしめていた。

夜神の変化に、上層部の女性と日守衛生部長が駆け寄り背中を擦ったり、頭を撫でたりして落ち着かせようとする。
「大丈夫、この委員会では黙秘権もあるから。話したくなければ話さなくてもいいから。ねえ?」
「私もいるから、体調を見ながら進めていくから。何かあったら、すぐに私が助けるから」
二人からの行為に、何とか落ち着きを取り戻した夜神は藤堂の顔を見る。常に厳しい顔立ちで、笑うことがない藤堂だが、今は眉が少し下がり、心配しているのがすぐに分かった。

「すみません。取り乱しました。お二方もありがとうございます」
これ以上心配をかけさせたくなくて、いつもの微笑みを作って二人に軽く頭を下げる。
「大丈夫なのね。無理をしてはダメだからね」
「大丈夫です。ご心配お掛けしました」
夜神と女性二人のやり取りが終わると、藤堂は明日の開始時間を告げてこの場は解散となった。

部屋から上官らが出ていく時、外の扉で待機していた庵は敬礼で見送る。その時日守衛生部長は夜神に向かって思い出したように話しかける。
「夜神中佐。お腹空いてるでしょう?お粥準備してるからそれ食べてね。少しでも胃に入れないと、薬飲めないから。残してもいいから」
そう告げて部屋から出ていく。そして庵は夜神に視線を移すと、顔色が青くなっているのに気がつく。
「中佐!!大丈夫ですか?気分が悪いんですか?」
慌て駆け寄り、背中を擦る。体も小刻みに震え、息も荒くなっている。
「食事・・・・自死、食べなきゃ、食べなきゃいけない」
庵の腕を掴みながら、小声で「食べなきゃ」と繰り返す。その異様さに庵は驚いた。

─────夜神中佐は何処まで皇帝に、身も心も踏み躙られて、恐怖を植え付けられたのか・・・・・

「無理して食べなくてもいいんですよ。食べなかったことを怒る人はいません」
背中を擦っていた手はいつの間にか止まり、その変わり力を込めて自分の胸に夜神を抱きしめる。
「庵君?」
「一人で食べるのが嫌なら、一緒に食べましょう。売店で何か買ってくるので待っていてください」
そう言って庵は立ち上がり売店に向かうため扉を開ける。
「庵君!?行ってしまった・・・・・」
扉に伸ばした手を自分の膝に置く。そして「ふふふっ」と笑みをこぼす。気遣いが嬉しかったのだ。

「それにしても、なんで抱きしめてくれたんだろう?」
庵の突然の行動に夜神はびっくりしたのと、そして安堵感があったのだ。
「でも、なんか嬉しい」
夜神は目を閉じて、庵が帰ってくるのを待った。

売店でおにぎりなどを買って部屋に戻ると、サイドテーブルには食事が乗っていた。
「遅くなりました。一緒に食べましょう中佐」
庵は椅子に座り袋からおにぎりを出していくなかで、夜神をチラッと見る。俯いたまま食べようとしない。
「中佐、お腹空いてないんですか?なら無理に食べることないですよ。誰も怒ったりしません」
「・・・・・・でも、食べないと自死行為したらダメなの・・・・・・」
「自死行為?違いますよ。体が欲してないなら、無理する必要はないですよ」
「何も起らない?」
「何も起こりません。けど、薬を飲むなら少しは入っていた方が良いかもしれないですね。プリンと白桃ゼリーどっちか好きですか?」
「・・・・・白桃ゼリーが好きです」
いきなりの選択で戸惑ったが、夜神はゼリーを選ぶ。すると庵は袋をゴソゴソしてゼリーとスプーンをサイドテーブルに置く。
「デザートです。お粥少しでも食べたら、ゼリー食べていいですよ」
「えっ?なんで?」
「これなら食べれると思ったんです。完食しなくてもいいので、少し食べましょう」
夜神は庵の説得により、スプーンで一口お粥を掬って口に運んでいく。
だが、それは口に運ばれる直前で止まってしまった。



『あーあ、それは自死行為だね』
あの時の事が嫌でも思い出す。手首を縛めいましめられて、口の中に食事を流し込んでは、ルードヴィッヒに何度も突かれていく行為。
吐き出したら進軍を仄めかされて、何度も許しを請う事をした。

「あ、あぁ・・・」
スプーンを持つ手が震えだしていく。たが、その手を両手で包み込んでゆっくりと茶碗に戻される。
「無理に食べる事はしなくていいですよ。中佐が食べなかったからといって、誰も責めたり、怒ったりしません。そこは知っていて下さい。ゼリーなら食べたくなったらいつでも食べれますから、冷蔵庫の中に入れときますね」

食事をする行為に、何故か恐怖で食べることの出来ない夜神を、攻めるわけでも、慰めるわけでもなく、ただ静かに見守ることにした。
食べなかったからと言って、何も起こらないことも説明していく。

「ごめんなさい。食べたくないわけじゃないの。ただ、怖いの。食事を抜いたら自死行為とみなされて、帝國の軍が攻めると言われ続けて、最後は・・・・・」
「無理に思い出さなくても大丈夫です。夜神中佐が頑張ってくれたから、帝國が攻めてこなかったんですね。中佐は凄いです。そして、ここは日本です。もう、帝國ではないので、誰も脅したりしません。だから食べたい時に食べればいいですし、一食抜いても誰も文句言いません。だから気に病む必要はないんです」

夜神の両手を庵の両手で包み込むように握り、夜神が頑張ってくれたから、軍勢が押し寄せることなく、今日も平和だと伝える。だから、これ以上責めないでほしいことも合わせて言っていく。
「時間がかかってもいいので、少しづつ食べていきましょう。俺、付き合いますよ・・・・・そうだ!!食堂の煮込みハンバーグを食べることを目標に頑張りましょう!目標があれば良いんじゃないですか!?」

庵は夜神に提案をする。大好きな食べ物ならいけるのではないかの考えたからだ。
「・・・・・・・ありがとう。凄い名案だね。そうだね。目標があれば食べることも出来るかもしれないね。うん、頑張ってみるね」

庵の提案をありがたく受け入れて、一口だけ食べてみる。時間はかかったが、食べることが出来た事を庵と二人で静かに喜びあった。
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