探偵と助手の日常<短中編集>

藤島紫

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運転者にはノンアルコールのカクテルを。

パーティーの夜に 2

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 殺人、と言う言葉に紗川は眉を寄せた。
 犯人当てと言う軽い言い方からは思い至らなかった言葉だ。
 女性は面白そうな顔で微笑んでいる。

「女優が殺されたとなれば、大騒ぎになっていそうですが……未だ、そう行った報道は耳にしていません」
「情報が出ないようにしてるみたいだから。まあ、嘘だって思ってもいいけど」
「では、創作だと思って聞くことにします」
「あはは、そうして」
「それで、四名のうちの一名が殺されたと言うことは、残りの三名が発見したと言うことでしょうか」
「それがさ。みんな酔いつぶれて寝ちゃったから、朝になって警察が来て、はじめて知ったんだよね。女優が殺されたって」
「警官に起こされた?」
「そう」
「じゃあ、死体はパーティーをしたマンションの一室ではなく、別の場所で発見されたのでしょうか」

 共に飲んでいた友人達ではなく、別の誰かが遺体を発見したのでなければ、警察が知らせにくるはずがない。
 紗川の問いに、彼女は頷いた。

「そう。みんなびっくりよ。前の日、結構飲んでたし。みんなぼんやりしてたところへ、警察が来てさ? 何が起きたか分からないでいるうちに、ADの子が捕まっちゃったんだよね」
「理由は?」
「ほらADは女優と付き合ってたって言ったでしょ? どうも別れ話が出てたみたいでさ。でも、男のほうは別れたくなかったらしくて」

 なるほど、よく聞く痴情の縺れと判断したのだろうと、紗川は内心で頷いた。

「となると、別れるの別れないのが動機の殺人だって思うでしょ? でもそんな簡単な事件じゃないんだな」
「だからこその犯人当てですね。ところで、警察がADを犯人としたのは動機以外では何があったのでしょうか」
「目撃者がいるわけよ、サンタのカッコした奴が怪しいって。彼はさ、サンタクロースのカッコしてたのよね。だから捕まっちゃった」

 そう言って、あごひげをたくわえ荷物を背負うサンタクロースを連想させる仕草をした。

「彼だけサンタクロースの服を着ていた……それが決定打になったと言うことは、目撃情報があったのですか?」

 彼女はうなずく。

「マンションのすぐ前に中学校があるんだけどね、そこ、午前一時に警備の人が見回りにくるらしくてさ。その警備員がサンタクロースのカッコをした男が大きな荷物を背負ってマンションから出て行くのを見てたんだって」
「遺体はマンションの外で発見されている……他のメンバーは被害者が外に出て行くのを見てはいないのですよね?」
「そう」
「では、サンタクロースのプレゼントに見せかけて死体を運び出したと警察は考えていたのでしょうか」
「正解。さすが探偵。話が早いなあ」
「しかし、ADだけが怪しいとは言い切れません。あらかじめ用意しておけば誰にでもサンタクロースの格好はできますよ」
「まあねー。クリスマスだし。衣装だけなら簡単かも」
「ですから、それだけが理由とは思えないのですが……」
「マネージャーはすごくマッチョで大きいんだよね。昔プロレスやってたらしくって。警備の人が見た姿と明らかに違ってたんだって。だから、マネージャーじゃない」
「サンタクロースの衣装を着て荷物を背負っていたなら、ごまかせてしまいそうですが?」
「マネージャー、2メートル近い大男だからさ。体重も100キロ超えてるし」

 なるほど、それ程の大男となれば、サンタクロースの衣装を着ていても特徴を隠せない。
 紗川は頷き、「では貴女の同僚は?」と尋ねた。

「女だからね。スタントと言っても、車だから。そんなに筋肉があるわけじゃないしね。参考までに見てみる? カースタントの筋肉」

 彼女は二頭筋を膨らませるように拳を作ったが、特に筋肉質と言う印象は受けない。

「同僚もこんなもん。女の子をかついで歩いたらよたよたしちゃう。警備の人が見た時は、そんなによたよたしてなかったって話だし。同僚には無理だわ」

 言いながら荷物を背負ってふらつく動きをする。
 紗川は頷いてから、ならば警察の判断は正しいのでは? と答えた。
 様々な意見があるが、日本の警察は優秀だ。特に殺人事件ともなれば、刑事課が動く。激務と分かっていて刑事になるのはそれなりの意欲がある者だけだ。
 しかし彼女は首を振った。

「でも、ADが犯人だと、おかしいんだよね」
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