豹変したお兄様に迫られました【R18】

Rila

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11.優しい兄

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 王都の中心部に到着し馬車から降りると、賑やかな話し声があちらこちらから響いてくる。
 私は先程もらったばかりの帽子を早速かぶってみると、彼は「すごく似合っているよ」と言ってくれて、嬉しいけれど照れてしまう。
 帽子のつばが広めに作られているため、日差しが眩しいと感じることもない。

「フィー、どこか行きたいところはある?」
「えっと……」

 急にそんなことを聞かれ、私はあたふたとし始める。
 デートについては色々と妄想を膨らませていたが、どこに行くかについては全く考えていなかったからだ。

「それじゃあ、とりあえず色々見て回ろうか。途中で行きたいところが見つかったら教えてくれればいいから」
「はいっ!」

 そういうと、ルシエルは自然な動作で私の手を繋いだ。

「……っ!」
「フィーは小さいから、はぐれないようにこうしておくよ」

 こんな人混みの中、指を絡ませるように恋人繋ぎをされて最初は戸惑ってしまう。
 周囲に視線を巡らせてみると、私達に興味を持っている者はいないようだ。
 また私が過剰に気にしすぎているだけだと分かると、次第に周りが気にならなくなっていく。

(また、私の悪い癖が出ちゃった……)

「とりあえず、貴族街のほうに行ってみようか」
「は、はいっ」

 貴族街と聞いて、私はドキッとしてしまう。
 実はここにはあまり来たことがない。
 一応私も貴族の一員ではあるが、元は平民だったこともあり、入るのに勇気がいり中々踏み込むことが出来なかった場所だ。

「どうしてそんなに緊張した顔をしているの? 始めてってわけでもないだろう?」
「ここには貴族しかいないから、周りの目が気になってしまって」

「フィーだって立派な貴族だろう。仕草だって、誰が見ても貴族令嬢にしか見えないよ」
「ほ、本当に?」

 普段から嫌味を言われることが多いため、自分がちゃんと貴族令嬢としてやれているのか自信がなかった。
 それに今日は隣にはルシエルがいる。
 私のせいで彼にまで迷惑をかけたくない。
 そう思うと、余計に緊張してしまう。

「本当に。それなら試してみようか。ってことで行こう」
「あっ、待って……」

 ぐいっと手を引かれて、私は引っ張られるように連れて行かれた。
 貴族街に入ると、街の外装もガラッと変わる。
 中心部の広場や一般街は露店が多かったが、ここにはそのような簡素な店は一つも存在しない。
 しっかりとした建物で、そのどれもが凝った作りになっている。

「フィー、堂々としていればいいんだよ。まずは顔を上げようか」
「は、い」

 彼に促され俯かせていた顔を上げてみる。
 多少緊張は残るが、隣にルシエルがいてくれると思うと安心することが出来た。

「いい子だね。何か言われたら僕が対処してあげるから、フィーは何も心配することはないよ」
「だ、大丈夫ですっ!」

 ルシエルはいつだって甘いくらいに私には優しくしてくれる。
 それは本当に有り難いことだし、嬉しいことだ。
 しかし、何でも彼に頼りきってしまうのは、少し違う気がする。
 私は彼の前で、情けないだけの妹にはなりたくなかった。

「強気だね。じゃあ、その時は二人で反撃しようか。僕のフィーを貶す命知らずの者になんて情けは無用だからね」
「お兄様、怖いです」

 彼はにっこりとした顔をしているが、目は決して笑っていない。
 それにさりげなく『僕のフィー』と言ってくるところに私は戸惑ってしまう。

「そう? だけど、安心して。絶対にフィーには敵意を向けることはないから」
「は、はい……」

 昔からルシエルは過保護と思うくらい、私のことを守ろうとしてくれる。
 しかし私は邸内にいる彼のことしか知らない。
 
(私以外の人にも、同じように優しいのかな)

 そんなことを考えると、少し妬けてしまう。


 ***


「フィー、ここの店に入ろうか?」
「は、はいっ」

 外装を見ただけでは、ここが何の店なのかは分からなかった。
 中に入ってみると数人の貴族の客がいて、ショーケースの中にはキラキラと光り輝く宝飾品の数々が綺麗に並べられている。
 どうやらここは宝石店のようだ。

「うわぁ、すごい……」

 宝石を見るのは決して珍しいことではない。
 社交シーズンが始まると綺麗なドレスを纏い、こういった宝飾品を身に付けて着飾る機会があるからだ。
 しかし、ここまで多くの宝石が並べられているのを見ると感動してしまう。

(本当に様々な色の宝石があるのね。装飾もすごく凝った作りになっていて素敵。値段も……)

「フィーはこういうものは好きかな?」
「すごく繊細な作りで、どれも素敵に見えます」

「そっか。それならば、二つ目のプレゼントも気に入ってもらえるかな」
「え?」

 またプレゼントという単語を聞いて、私は困惑した顔を見せてしまう。

「実はフィーの卒業に合わせて、用意していたものがあるんだ。ちょっと受け取ってくるから、フィーは自由に店内を見ていて」
「あ、あのっ!」

「どうしたの? もしかして、手を繋いだままがいい?」
「ち、ちがいますっ! そうじゃなくて……。ついさっき、帽子をもらったばかりですっ!」

 ルシエルは冗談を挟んできたので、私は慌てて答えた。

「言っておくけど、二つじゃないよ」
「……っ!!」

 彼はしれっと答え、私は言葉を失う。

(まだ、あるの?)

「そんな困った顔をしないで。これは僕がしたくてしていることだよ。出来ればフィーの笑顔を見れたら最高なんだけど」
「…………」

 そんな風に言われてしまうと、なんて答えたらいいのか分からなくなる。
 たしかにプレゼントは嬉しいけど、私ばかりがこんなに沢山もらってしまっていいのだろうか。

「私には、お返し出来るものがありません」
「そんなことはないよ。フィーが傍にいてくれることで僕は幸せな気持ちになれる。もし、それでも気になるいうのであれば、毎日僕に最高の笑顔を見せて」

 ルシエルは優しい表情を浮かべると、静かに答えた。
 彼の言葉が胸の奥深くに届くと、心がじわじわと温かくなっていく。
 きっと今の私は感動しているのだろう。
 毎日笑顔を見せるということは、ずっと傍にいてと言われているような気がしたからだ。

「泣きそうな顔をしているフィーを一人にはしておけないね。一緒に受け取りにいこうか」
「……っ、はいっ」

 私の目尻には涙がじわりと浮かんでいる。
 彼は私の手を引いて歩き出したので、その掌をぎゅっと握りしめた。
 
(この手を絶対に離したくないっ!)

 彼が私を必要としてくれている限り、ルシエルへの特別な感情を抱いたまま生きていこうと私は心に決める。

 そして私のために贈ってくれた二つ目のプレゼントは、彼の瞳の色に良く似た青色の宝石が埋め込まれたペンダントだった。

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