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51.不安

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「あ…アイロスさん、お…おはようございますっ…」
私はザシャとベッドにいる所を見られて恥ずかしそうに、それでいて気まずそうな表情を浮かべながら、辿々たどたどしく答えた。

「……ザシャ様、どうしてこちらに…」
アイロスは私の言葉など聞かずに、僅かに眉を寄せてザシャの方へと視線を向けた。

(まずいわ…!アイロスさんが来ることをすっかり忘れていた…。こんな所を見られるなんて…)

「アイロスは、普段から朝はこうやってエミリーの寝ている部屋まで入って来るのかな?」
「……こいつは寝起きが悪く、起こさない限り昼まで平気で寝ていますので…」
アイロスは目を細めて私のことをじっと睨んできた。

「……っ…」

(だってベッドがふわふわで気持ちいいのだから仕方ないわ…、二度寝最高よ!)

私はそんな事を考えながら、引き攣った笑みをアイロスに返した。

「確かに、エミリーの傍付きに任命したのは私だけど…、寝ている女性の部屋に勝手に入るのは余り感心出来た事ではないね」
「……申し訳ありません…。以後配慮します」
アイロスはザシャの言葉に頭を下げていた。

私の所為でアイロスが怒られていると思うと、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「ザシャさん…、アイロスさんを責めないで。悪いのは私が二度寝してしまったからで…アイロスさんは仕方なく起こしに来てくれただけなの…。私…明日からはちゃんと起きれるように頑張りますっ…!」
「朝はアイロスでは無く、別の者に頼んでおくからエミリーは気にしなくていいよ」
ザシャは優しい声で呟くと、アイロスの前だというのにそっと私の額に口付けた。

「……っ…!」
「……ザシャ様…」
私が戸惑っていると、アイロスも動揺した顔でザシャに問いかけていた。
アイロスのこんなにも狼狽えた姿を見るのは初めてかもしれない。

「ん…?何かな…」
「ザシャ様は、エミリーとは……その…どういった関係で…」
アイロスは聞きづらそうに言葉を濁すように聞いてきた。

今はお互いナイトガウンを羽織っていて、服を纏った状態だが同じベッドにいるのだから、ただならぬ関係に見えてしまうのは当然のことだろう。
現にザシャとはそういうことをしてしまったのだから、そう思われても仕方が無い。

「アイロスには話しておくべき事かな…。私は…この選考期間を経た後、エミリーを正式に婚約者に決めようと思っているんだ」
「……は?何かの…冗談ですか…?」
アイロスは目を丸くさせ、すごく驚いた表情を見せていた。
はっきりと婚約者にすると宣言されると恥ずかしくなり、私は顔を俯かせてしまう。

「エミリーとなら、理想の未来が作れる気がするんだ…。だからアイロスにも協力してもらいたいと思っている…」
「ちょっと…待ってください…!話が…違います…」
アイロスは更に焦ったように、ザシャへと声を向ける。

(アイロスさん…?)

明らかにアイロスの態度がおかしいことに私も気付き始めていた。
やっぱり私とは釣り合わないから反対されるのだろうか…。
そう思うと私の表情も自然と曇り始めていく。

「……あの話なら、私が望んでいた事では無いのはアイロスも分かっているよね…?あれは勝手に周りが進めていることであり、私はそれに従うつもりは一切無いよ…」
「……でも、…「アイロス。ここで話すことでは無いよ」」
アイロスはまだ何か言いたげな表情をしていたが、ザシャに遮るように止められてしまい、腑に落ちないような顔で俯いていた。

(何の話をしているの…?)

私が不安そうな表情をしていると、私の手を包むようにザシャの掌が重ねられた。
私はザシャの体温に気付いて不安そうな瞳をザシャに向ける。
するとザシャは私に優しく微笑んだ。

「エミリー…変な話をしてしまってごめんね。だけどエミリーが心配するような事は何も無いから…そんな顔はしないで…」
「………」
私はザシャの言葉に小さく頷き、弱々しく笑顔を作ってみせるが、アイロスの方に視線を向けると、アイロスは未だに黙ったまま俯いていた。

「アイロス…、エミリーはこれから起きる支度をするから一度部屋を出て行って貰えるか…?私も一度私室に戻るから、そこで少し話をしようか…」
「……はい、かしこまりました…」
アイロスは私達の方に向かい、一度頭を下げるとそのまま静かに部屋を出て行った。

部屋には私とザシャの二人きりになってしまう。
そしてアイロスの発言がどうしても気になったままだった。

「そんな顔をしないで…」
「やっぱり私とじゃ…アイロスさんも納得出来ないですよね…」
するとザシャは少し困った顔を見せた。

「エミリーには…もう隠し事はしないと決めたから、どうしてアイロスがあんな態度を取ったのか…話すよ」
「……っ…」
私はザシャに不安そうな瞳を向けた。

なにか嫌な事の様な気がする。
だから聞くのが少し怖かった。

「聞きたくないのなら、無理には言わないけど…遅かれ早かれエミリーの耳にも入ることになると思うから…誤解されないように私の口から話しておきたい。だけど…それは今じゃなくても構わないよ。エミリーが聞きたくなった時で…」
ザシャは私を落ち着かせるように優しい口調で話してくれた。

だけどアイロスをあんなにも動揺させる程の事なのだと思うと、早く知って私に何か出来ることがあるのだとすれば、何かアイロスの助けになりたいと思った。
アイロスは最初は嫌な態度ばかり取って怖い人だと思っていたけど、私の為に色々動いてくれて、今では感謝するほどの存在になっていた。

私との婚約の話をし始めた瞬間アイロスの態度が変わった。
きっと婚約に関しての話であることは間違いないと、私も気付いていた。
ザシャの口ぶりからもあまり良い話では無いことはなんとなく想像が付く。

「……あの、じゃあお茶会が終わった後でも…いいですか?」
「うん、もちろん…それで構わないよ」

「ありがとうございますっ…!」

お茶会の間は楽しく過ごしたかった。
きっとその話を聞いてしまえば、私は動揺してそれどころではなくなってしまうかもしれない。

だからその後に聞くことに決めた。
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