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52.お揃い

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「それじゃあ、私も一度私室に戻って準備をしてくるよ。エミリーの準備が出来る頃にまた迎えに来るからね」
「……はい…」
ザシャは優しく微笑むと、まだ少し重い瞼にそっと口付けた。

「……っ…」
「ふふっ、まだ少し眠そうな顔をしているね。昨日は遅くまで話していたから当然かな…」
ザシャは楽しそうな口調で話すと、ベッドから出て行った。

ベッドに一人きりになってしまうと、なんだか少し寂しさを感じてしまう。
だけど今日はまたすぐにザシャと会えるのだから、今は我慢しようと思った。

「……エミリー、また後でね…」
「…あ、あのっ…!」
私はあることを思いだし、ザシャの手を引っ張った。
するとザシャは僅かに目を細め、少し意地悪そうな顔をして私の顔を覗き込んできた。

「どうしたの…?私と離れるのは寂しい?」
「ち…違いますっ…」
ザシャの顔が目の前にあり、私は思わず顔を赤めてしまうが、すぐに否定した。
するとザシャは少し残念そうな表情を見せた。

「…今日はザシャさんと一緒に過ごす日じゃないですか…、昨日ユリアさんと一緒にいる時、ザシャさんとお揃いみたいに服の色を合わせていましたよね…?私も合わせた方が良いんですか?」
「ああ、そのことか…。ユリア嬢と色が被ったのは偶然だよ、別に合わせる必要は無いけど…、エミリーが合わせたいのならお揃いにする…?」
ザシャの言葉を聞いて、私は『お揃いにしたい』と望むような顔をザシャに向けてしまっていた。
それに気付いたザシャは可笑しそうにクスクスと笑い出した。

「ふふっ、エミリーは本当に分かりやすいな。そんなところも可愛いね。お揃いにしたい…?」
「……ザシャさんがいいなら……したい…かも」
私が恥ずかしそうにもじもじしながら答えると、ザシャは布団を捲り突然私のことを横向きに抱きかかえた。

「ザ、ザシャさんっ!?」
突然、体がふわっと浮き上がり驚いてしまうが、落ちないように慌ててザシャの首に手を回した。
そしてザシャは室内の奥にあるクローゼットの方へと移動して行った。



「エミリーが選んだ服に私も合わせるから…何を着るのか私に教えてくれるかな…?」
ザシャはクローゼットの前で私の事をゆっくり下ろしてくれた。

「…あ、ありがとうございますっ…!今選びますねっ…!」
私は明るい表情を浮かべると慌てるようにクローゼットを開いた。
そして中に入ってる服やドレスを選び始める。

(ザシャさんとお揃いに出来るんだ…。嬉しい…どれにしようかな…)

「ザシャさんは…ワンピースとドレスだったらどっちがいいですか?」
「そうだな…、昨日はエミリーのドレス姿を余り見られなかったから…ドレスもいいな」
ザシャが悩みながら答えているのを聞くと「ドレスですね!」と言い、私はドレスの方を探し始めた。

(ザシャさんは大人っぽいものが好きなのよね…)

私が真剣な表情をドレスに向けて悩んでいると「エミリーはどれが好みなの?」と耳元で囁かれびくっと体を震わせてしまう。

「…ひぁっ…、び…びっくりさせないでくださいっ…」
「必死に悩んでるエミリーが可愛くて、ついね…」

(いきなり耳元で囁かないでっ…!びっくりして心臓が止まるかと思った…)

「エミリーはこういうタイプのドレスが好みなの?」
ザシャは私が見ていた胸元が大きく開いているドレスに視線を向けると不満そうな声を漏らした。

「え…っと、ザシャさんはこういう方が好きなんですよね?」
「え…?どうして…?」

「だって…昨日の私が着ていたドレスを見て似合ってたって言ってくれたから…。あのドレス…カトリナ様を真似てみたんです…。ザシャさんって大人ぽいし、それなら隣にいる人も同じ雰囲気の方が好みなのかなぁって…」
私がそう答えると、ザシャは苦笑していた。

「あー…、なるほどな。少し意外だったんだよ、エミリーがあの色のドレスを選んでいたことにね…。そういう理由だったのか…、確かに昨日着ていたのはカトリナ嬢が選びそうなドレスだったな…」
「……?」
ザシャは昨日の出来事を思い返すように一人で納得している様子だった。

「似合っていたっていうのは間違いでは無いけど、エミリーのイメージ的には…こっちの淡い色の方がもっと似合いそうな気がするな…」
ザシャは淡い空色のドレスを手に取った。

「うん、明るい表情のエミリーにぴったりな色だな…。エミリーって色々な表情を見せるから空みたいな存在だよな…。それでいて見ていると癒やされるし、存在を感じると安心出来る。表情は変わるけど…いつも傍に存在していて、消えないもの…」
「……っ…」
突然そんなことを言われると私は照れてしまう。

「照れてるの…?可愛いな…」
「ザシャさんが…突然、変なことを言うからっ…」

「別に変なことじゃない。エミリーの存在は私の心の大半を独占しているし、絶対に消えないものだからね…。……だからね、絶対に手放す気は無いよ」
ザシャは優しい瞳で、それでいてまっすぐに私の瞳の奥を見つめていた。

私が顔を赤く染めながらドキドキしていると、ザシャは小さく笑い「エミリーはどれにするの?」と再度聞いてきた。
私はその言葉にハッとして、ザシャから視線を外し再びドレスへと戻した。

ここまで言われたら、これ以外を選ぶ事なんて出来なかったし、私もザシャが選んでくれたこの空色のドレスを着たいと強く思った。

「……これに…します」
「ふふっ、そうか。きっとすごく似合うはずだ…。名残惜しいけど、暫くお別れだね…」
ザシャは食むように私の唇に口付けると、ゆっくりと剥がして離れていった。

「外に待機している使用人に伝えておくよ。それじゃあ、また後でね…」
ザシャはそう言うと部屋を出て行った。

ザシャが出て行った後も、私の顔の熱は暫くの間冷めることが無かった。
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