森の中で勇者を目覚めさせたら、一目惚れされました!?【R-18】

Rila

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22.誤解①

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「それでは、ザイールのところに行くか」
「……はい」

 私と同じ能力を持つ人間に会うのは正直怖い。
 だけど今の私は、ユーリの協力者として共に行動をしている。
 ユーリのことは信じているし、その彼が信頼している相手ならば、私も信じて見ようと思う。

 それに鑑定眼を持っているのは私も同じだ。
 疑念を感じたら、彼のステータスを覗いてしまえばいい。

(きっと大丈夫だよね。傍にはユーリだっていてくれるのだし……)

「どうした? 会いに行くのは怖いか?」
「少しだけ……」

 強ばった顔をしていたせいで、彼に私の心情を読み取られてしまったようだ。
 私は困った様にへらっと笑って誤魔化した。

「あの男は敵では無いと思うが、初めて会う人間を信用しろというのも難しいことだよな。心配なら無理に会わなくても構わないぞ。セラの嫌がることはしないと約束したからな」
「いえ、大丈夫です。直接会った方がどんな人か分かると思うし。それに私はユーリの協力者ですからっ! 同行します」

(もしユーリが騙されていたら、私が守ることも出来るかもしれない……)

 何も知らない私の方が、客観的な目線で見ることが出来るはずだ。
 彼は一度身内に陥れられている。
 ユーリの話では、ザイールは過去に王宮に仕えていたと言っていた。
 ということは、ユーリの弟とも面識があるということだ。
 ザイールには悪いが、可能性がゼロではない以上、疑ってかかったほうが今は賢明かもしれない。 

「心強い協力者だな」

 褒められているのかは分からないが、こんな風に言われると少し照れてしまう。
 それと同時に嬉しくも感じていた。
 私のことを、協力者だと認めてくれているということだから。


 ***


 部屋と前まで辿り着くと、ユーリは扉をトントンと軽くノックした。
 するとゆっくりと扉が開き、ギルド員の女性が「どうぞ、お入りください」と言って中に招き入れいてくれた。
 部屋の奥に視線を向けると、ザイールの姿が目に入った。

「お待ちしておりました」
「遅くなって悪かったな」

「いえ、とんでもございません。さあ、こちらのソファーにお座りください。お茶とお菓子をご用意してございますので」

 ザイールは丁寧な口調で挨拶をしていた。
 まるでどこかの貴族のような、そんな雰囲気すら感じてしまう。
 執事服のような黒いスーツをしっかりと着こなし、姿勢もとても綺麗だ。

「わざわざ悪いな。セラ、座ろうか」
「は、はいっ」 

 中央にあるテーブルの元まで移動すると、私はユーリと並ぶようにしてソファーに腰掛けた。
 ザイールは私達が座るのを見届けると、対面するように腰を下ろした。
 ギルド員の女性は、お茶をカップに注ぎ終えると「ごゆっくりしていってくださいね」と言って部屋から出て行った。

「まずは自己紹介からしておきましょうか。私はザイール・クレヴァーと申します。今はこちらの街でギルド長をしております。ユーリウス様とは、少しご縁がありまして……」
「お前が有名な冒険者であったことや、私に仕えていた話はしてある。彼女はセラだ。成り行きで今は協力関係を結んでいる」
「セラと言います。よろしくお願いしますっ」

 ザイールは初対面の印象と同じように、穏やかな口調で挨拶をしてくれた。
 愛想が良くとても話しやすそうな人間だ。
 しかしザイールにはクレヴァーと言う家名が付けられている。
 ということは、間違いなく貴族なのだろう。
 貴族相手だと思うと、なんだか急に緊張してきてしまう。

「セラさん、よろしくお願いしますね。ユーリウス様が、随分と可愛らしい方をお連れになれていて驚きました。どういった関係なのか少々気になりますが、野暮なことは聞かないでおきます」
「そうしてくれ。お前と話すと長くなりそうだからな。この後は彼女と街を散策する予定だから、用事を済ませたら直ぐに出て行くつもりだ」

「やはり……、そういうことでしたか!」
「詮索はしないんじゃなかったのか?」

 二人は随分と仲よさそうな雰囲気で話していた。
 気心の知れた間柄といった感じなのだろう。

「お前にいくつか聞きたいことがある」
「もしかして、バルムートで聖女が現れたという噂のことですか?」

 いきなり聖女の話題を出されて、私はドキッとした。
 次第に心の奥がモヤモヤしてきてしまう。
 避けられない話題であることは分かっているが、今は『聖女』という言葉をあまり聞きたくはなかった。

「その話も気になるが、我が国での噂を何か聞いてはいないか?」
「アルヴァール帝国の噂ですか? それなら……、弟君のマルセル殿下が現在バルムートに滞在しているという話くらいですかね。ユーリウス様が行かれる予定だったはずが、急遽変わられたとか……」

 その話を聞いて、ユーリは目を細めた。
 勘が鋭いのか、ザイールは「何かありましたか?」と問う。

「私を見ても驚かないところからして、何となく察しは付いていたが、……そういうことか。バルムートに向かう途中、私はマルセルに闇討ちされた。お前の元にこの話が届いてないということは、帝国内部で箝口令が敷かれたということか」
「なっ……!」

 ユーリの話を聞いて、ザイールの表情は一変した。

「これは冗談では無い。お前も私と弟の間に確執があることは知っていたはずだ」
「それはそうですが、まさか……そんなこと。信じられない……、あのマルセル様が……」

「聖女の情報に気を取られていて、焦りが油断を呼んだ。私もまだまだということだな、はは……」
「何を呑気に笑っておられるんですかっ! 生きていたから良かったものの……」

 ザイールは本気で驚いているように見える。
 ユーリが冗談を呟くと、ザイールは怒ったように声を荒げた。
 これはきっと本気で心配しているのではないだろうか。
 今の状況を見る限り、ザイールは敵では無いように思える。
 まだ確信は持てないが、今のザイールの姿を見て私は少しだけほっとしていた。

「ああ。分かっている。だが、こうしてちゃんと生きているぞ。セラは私の恩人だ」
「……っ」

 ユーリは突然私の方に視線を流した。
 優しく微笑む瞳と目が合い、私の心臓はドキッと飛び跳ねる。

「おお、そうでしたか。セラさん、ユーリウス様を助けてくださり本当に感謝致します。この方は帝国には無くてはならない存在だ」
「いえ、そんなっ……。私は大したことはしていません、本当に……!」

 ザイールは私に礼を言うと、深々と頭まで下げて来た。
 私は慌てるように胸の前で手を振り否定した。
 私がした事と言えば、キスをして目覚めさせたことだ。
 思い出すとまた恥ずかしくなってきてしまう。

(何回このことに頭を悩ませればいいの? ……もうやだ)

「大したことだろう。セラと出会わなければ、私は今ここに存在していなかったかもしれないのだからな。セラが聖女であるという証明だな」
「……?」

(今、なんて……?)

「セラさんが聖女様……!?」
「ち、違いますっ!!」

 私は思わず叫んでしまった。
 すると二人の視線が私に向けられる。

「隠さなくてもいい。セラと話していると、この世界のことをあまり知らないように思えた。その違和感は一度だけではなく、何度もあったからな」
「それはっ……」

 鋭い考察に私は言葉を詰まらせてしまう。
 勘付かれないように一応気を付けてはいたが、私はこの世界に来てまだ二ヶ月程しか経っていない。
 無意識のうちに、うっかりと口を滑らせた可能性もある。

 だけど問題はそれだけではない。
 ユーリは私のことを、どうやら聖女だと勘違いしているようだった。
 そのことに私はかなり戸惑っている。

(どうしよう。私、聖女じゃないのに……!)

「このことは誰にも伝えてはいなかったが、アルヴァールを発つ数日前に、夢の中で女神から神託を受け取ったんだ。近いうちに聖女が現れると。そして出会えば直ぐに分かる、自分の直感を信じるようにと女神は言われた」

 ユーリは私の瞳を真っ直ぐに見つめながら、スラスラと話を続けていく。
 夢の中で聞いたお告げを本気で信じているようだ。
 ここは私がいた世界とは根本的に何もかもが違うので、こういったことも単なる思い込みだと断定は出来ない。
 現に私も女神の加護を受けているのだから、彼の言うことには信憑性を感じる。
 しかし、肝心なところを誤解している。

 私が戸惑った顔色をしていると、彼は落ち着かせようとしてくれているのか、私の手の上からそっと掌を重ねてきた。
 だけど私の表情は変わらない。
 それどころか更に追いつめられていく。

 ユーリは私が聖女だと思っていたから、今まで優しく接してきてくれたのだろうか。
 私がはっきりと否定したら、彼はきっと残念がるはずだ。
 意図してやったことではないが、結果的に騙したみたいで罪悪感すら覚えてしまう。

「ユーリ、違うの……。私、本当に聖女じゃない。ごめんなさいっ……」

 私は彼の手を引き剥がすと、泣きそうな顔で答えた後に俯いた。
 聖女じゃないと分かったら、どんな反応をされるのか。
 それを見るのが怖くて、未だに顔を上げられずにいる。

「セラ、もう分かっていることだ。別に隠す必要なんて無いんだぞ」
「ユーリウス様、セラさんには何か事情がおありなのではないでしょうか? まずは話を聞いてみては……? 私は一度席を外しましょうか。その方がセラさんも落ちついて話が出来ると思いますので」

「ザイール、すまない。そうして貰っても構わないか。セラと二人で話がしたい」
「勿論です。それでは私は失礼させて頂きますね」

 ザイールは私達に気を遣ってくれると、その後すぐに部屋から出て行った。
 残された私達は二人きりになってしまい、緊張と気まずさから鼓動が上がっていく。
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