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動き
第74話
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ドアノブを下ろしドアを引いて玄関に入る。
微風が吹く外から無風の玄関に入るとなぜか少し不思議な感覚がした。
ドアの開く音が聞こえたのか
母がリビングに通じるドアが開かれた状態のドアの枠の右側からひょこっっと顔を出し
「おぉ、おかえり」
その母の言葉を聞いてなのか姿は見えないがリビングの奥のほうから
「おかえりー」
と妹の声も聞こえた。
「ただいま~」
靴を脱ぎながら言う。漂う焼き魚の香り。今日の夜ご飯は焼き魚だったのか。
そんなことを思いながら、脱いだ靴をシューズクローゼットを開き、しまおうとすると
背後からトットットッっと足音が迫ってきた。
「ねぇ、根津さんてどんな人?」
母の声だった。
「んーいい人」
「まぁそれはわかるよ」
「とりあえず手洗うわ」
きっと妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんと
うちの母が電話で話したとき妃馬さんや姫冬ちゃんのことを話しているはずなので
「女の子」だということはバレているはずなのでとりあえず話を逸らす。
母の横をすり抜け洗面所に行く。
足元にバッグと姫冬ちゃんのプレゼントの服が入ったビニール袋を置き
手を洗い、うがいをする。荷物一式を持ち階段を上る。
自分の部屋に入り、荷物を置き、着替える。部屋を出て階段を下り、リビングに行く。
「あ、お兄ちゃん。結婚の挨拶成功したー?」
妹がソファーの背もたれ部分に肘を乗せ、ニヤニヤしながらこちらを向き言う。
なにバカなこと言ってんだ。と思う前に心臓が跳ねた。
「は?」
とだけ言いキッチンに入り、自分のグラスに氷を入れ冷蔵庫を開く。
今日スーパーに買い物に行ったのか、飲み物も全然減っていないものばかりで
食材もパンパンに入っていた。飲み物を見ると、ひさびさにSanta(サンタ)グレープがあり
ひさびさに見ると飲みたくなってしまい、Santaグレープのペットボトルを取り出し
キャップを開ける。プシュッっという音と共にSantaグレープ特有の香りも飛んできた。
氷を入れたグラスに注ぐ。
シュワワシュワシューという音とカランカランコロンカランと氷同時がぶつかる音が聞こえる。
注ぎ終えその場で一口飲む。駄菓子のガムのような味にそこそこ強い炭酸。
懐かしい感じがした。飲んだ分をもう一度注ぎ、冷蔵庫に戻す。
「ねぇ、どんな人なの?姫冬ちゃんと妃馬ちゃんって」
かわした質問を改めてしてくる母。さすがにもうかわせないと思い
「あぁ~変わった名前の子たち」
と人柄などではなく名前のことを言った。
「ん?」
と言う母に
「あぁ~」
と言う妹。妹は僕のスマホの通知を勝手に見て妃馬さんの名前は知っていたので
妹が母に説明する。
「へぇ~綺麗な名前の子だねぇ?」
「ねぇねぇ姫冬ちゃんって人は?どんな名前?」
「一応夢香より歳上なんだから「さん」付けしなさい」
「へいへーい。で?姫冬「さん」はどんな字書くの?」
「お姫様の「姫」に春夏秋冬の「冬」って書いて「ヒメ」」
「「わぁ~キレぇ~」」
母と妹がハモった。
「お風呂作ってくる」
と言いキッチンにグラスを置き、お風呂場へ行こうとすると
「あ、もうできてるよ」
と言われる。そういえば母も妹も
髪を乾かしたんだろうが少ししっとりと水分を含んだ髪をしていた。
「あぁ。じゃあ入ってそのまま寝るわ」
「あいよーおやすみー」
「おやすみー」
グラスを持ち
「おやすみー」
リビングを出る。階段を上り一度部屋へ戻り
ローテーブルにグラスを置き、枕元で充電していたスマホのホームボタンを押す。
妃馬さんからメッセージが届いていた。立ったまま通知をタップし、メッセージを確認する。
「こちらこそ姫冬のプレゼント選びに付き合ってもらってありがとうございました。
私もずっと楽しかったです!私のほうこそぜひまた一緒に出掛けたいです!
でも…次は怜夢さんが誘う番ですけどねニヤ( ꒪ͧ꒳꒪ͧ )ニヤ
はい!母にも父にも姫冬にも伝えておきます!怜夢さんもゆっくり休んでくださいね!」
顔がニヤけた。
「顔文字かわいっ」
そう呟きなぜかベッドに座らず、立ったまま返信をした。電源を切り枕元に優しく投げる。
着替えの下着のパンツと今日着たTシャツと今日履いた靴下を持ちお風呂へ向かう。
洗面所兼脱衣所で服を脱ぎ、洗濯機の上に乗せる。
お風呂のすりガラスの扉を開き、お風呂場へ入る。
ムワッっとした湿気と生温い熱気が襲う。
湯船の蓋を開き、お風呂で体と髪を洗い、湯船に足を入れる。足を一度抜く。
ペチャポンという音がお風呂に響く。少し熱くゆっくりと足を入れ、体を入れる。
「あぁ~」
ついおっさんみたいな声が漏れる。パネルを見ると39℃。
春にしては…妥当な温度。肩までではなく胸辺りまで浸かる。
水面が波打つ。鼻から息を吸い込み
「はぁ~」
口から出す。疲れがドッっと押し寄せてきた。
少し黄色みがかったお風呂場の壁と屋根が交差する角をボーッっと眺める。
ついさっき押し寄せてきた疲れがじわじわとお湯に溶け出していく感覚があった。
疲れが出ていった空き容量の部分に今度は眠気が入り込んできた。あくびが出る。
湯船から出てシャワーの温度を冷水にして顔にかける。
必然的に胸辺りにもかかり、心臓がキュッっと縮まる感覚があった。
それと同時に顔の肌が引き締まる感じもあり、目も覚めた。目を見開き鼻から息を吸い込み
「ふぅー」
と口から吐き出す。脱衣所に出る。
タオルで頭をぐしゃぐしゃし、ある程度の水分をタオルに吸収させる。その後に体を拭く。
タオルを頭から垂らし、着替え用の下着のパンツを履きぐちゃぐちゃに脱ぎ散らかした中から
元々履いていた下着のパンツと今日着たTシャツ、今日履いた靴下を洗濯カゴに投げ入れる。
スウェットパンツを履き、Tシャツとパーカーは手に持ち、上半身裸のまま部屋に戻る。
ベッドの上にパーカーとTシャツを投げ、ベッドに仰向けに倒れる。
染み1つない天井をしばしボーっと眺める。体を回転させスマホを手に取る。
ホームボタンを押す。妃馬さんと鹿島からのLIMEの通知があった。
妃馬さんからの通知をタップしメッセージを確認する。
「27日ですか?たぶん姫冬講義入ってるんじゃないかな?
危ないですよ!wお風呂では寝ないように気をつけてくださいね!
じゃ、私もお風呂入って寝ますので、また大学で!おやすみなさい!」
そのメッセージの後に猫が布団に入って寝ているスタンプが送られていた。
そのメッセージに返信し、僕もフクロウが木の上で寝ているスタンプを送った。
トークの一覧に戻り、今度は鹿島とのトーク画面を開く。
「おいおいー。お帰りです?」
呑気なメッセージになんとなく安心する。
「帰ったよ」
送ってすぐ既読の文字がつく。すぐに電話が飛んできた。
通話ボタンをタップし、スピーカーのボタンもタップする。
「おいおいー」
いつもの挨拶。
「おいおいー」
「で?」
「で?とは?」
ローテーブルの上のテレビのリモコンを手に取りベッドに寝転がり
テレビのリモコンの赤く丸い電源ボタンを押す。ドラマがやっていた。
「だから、デートよデート!」
今まで見たことなかったドラマを見てみる。
「だからデートじゃないんだって」
何気なく眺めていただけだったが意外とおもしろく
1話から見ていないことを後悔するほどだった。
「でもデートの定義ってなんなんすか?」
「うわっめんどくさい子供の質問みたいなのきた」
「いやいやごめんごめん。違くって。デートって思ったらデートなんじゃないって」
テレビから視線を上にズラす。
ボーっと壁と天井の交わる角を眺めながらデートと思ったらデートか。と思い
デートって思ったことあったかな。と考える。
「あぁ」
考えながら空返事をする。
「今日実況撮れる?」
「うん」
「疲れてない?」
「んん~お風呂入ったときドッっときたけど今はへーきかな」
「おっし!じゃあサクッっと撮って寝て」
「おん。あんがと」
「じゃ、パス4(パスタイム スポット 4)でパーティー作るからボイスつけて入って。
あ、ワメブロ(ワールド メイド ブロックス)やるからよろしく」
それを最後にテロンッと電話が切れた。少しドラマを見たらちょうどCMに入ったので
ベッドから起き上がりパスタイム スポット 4のコントローラーのホームボタンを押し
本体の電源をつけ、テレビのリモコンで入力切り替えをする。
青い画面になりユーザーを選び、鹿島から招待されたパーティーに入る。
「おーい!マイク入ってないぞー」
パスタイム スポット 4の近くにしまっていたマイク付きのヘッドホンを取りに
テレビに近づき、ヘッドホンを手に元の位置に戻り
コントローラーにヘッドホンを接続し、ヘッドホンを頭に着ける。
「お、きたきた!」
「こないだの続きね?」
「そそ。前回は拠点となる場所を見つけて
素材集めて拠点のベースができて終わったんよね」
「そうそう。まだ壁もできてないんよ」
「でもベッドは第一話で作れたからー。そうな。
今回はとりあえず安心して眠れるベッドルーム作ってもらっていい?」
拠点作りは基本的に僕の担当だ。
「なるほどな。オッケーオッケー。で鹿島は引き続き探索?」
「そそ。でベッドルームができたら「できた」って言ってもらって
オレが拠点帰ってオレのリアクションって感じかな。
でベッドルームができるまでのメイキングは怜ちゃんのチャンネルで流してもろて」
「なるほど。オッケーオッケー」
「で、できれば2本撮りたくて、2本目は特別こういう感じってのがないんだけど
怜ちゃんはとりあえずいつも通り拠点作りの続きを
オレは探索って感じでいい頃合いで拠点で締めって感じで」
「おん。いいよ。じゃ、とりあえずワメブロ起動して招待して」
「あいよー」
その後1本の動画を撮った。
編集で15から20分ほどになるだろうが作業時間としては1時間半くらい作業していた。
「おつかれぇ~」
「おつ~」
「どうする?続けて撮る?飲み物とか取り行く?」
「あぁ、飲み物取り行ってくるわ~」
「ん!じゃ、オレも飲み物取り行ってこよー」
僕はマイクのスイッチをオフにして
ヘッドホンを取りグラスを持ち、暗くなった廊下を進み階段を下りる。
1階の廊下は暗かったが、閉まっているリビングの扉のすりガラス部分から光が漏れ出ていた。
リビングの扉のドアノブに手をかけ、扉を押し開ける。
リビングに入ると母がソファーでテレビを見ていた。
「あ、まだ起きてたのー?」
母が僕に気づき声をかける。僕はキッチンの電気をつけ、冷蔵庫を開きながら
「そっくりそのまま返しまーす」
「撮ってたドラマ見てから寝ようと思ってね」
四ツ葉サイダーを注ぎ冷蔵庫を閉める。
「まぁはやめに寝なよ」
「そっくりそのまま返しまーす」
そう言われ、リビングの扉のドアノブに手をかける。すると背後から
「おやすみー」
と母に言われたので
「おやすみー」
と返しリビングを出る。暗い階段を上り、暗い廊下を進み部屋に戻る。
ローテーブルにグラスを置き、ベッドに胡座で座る。ヘッドホンを手に取り頭に着ける。
マイクをオンにしようとしたが向こうから音が聞こえたので
オンしようとしていた手を止め、耳を澄ます。
きっと鹿島がMyPipeで動画を見ているのだろう。
男の人の話し声や笑い声とMyPipe特有の効果音が聞こえてきた。僕はマイクをオンにし
「なに見てんのー」
と聞く。
「あー今ねNSSPさんの動画見てた」
「あぁ、好きよな鹿島その人たち」
「めっちゃ好き。なんだろうなぁ~なんか高校のころとか、中学のころ思い出す」
「あぁ~なんか鹿島に1回勧められて見たけど
たしかに学生のころマジの仲良しグループでわちゃわちゃしてる感は感じた」
「だろ!?そこがいい!アホみたいに気取ったり、カッコつけたりしない感じ
マジで好きだし憧れる」
「憧れる」
つい笑ってしまった。
「おい!なにわろてんねん!」
「いや、憧れるって。鹿島有名になったら、たぶん気取るだろうなぁ~って思って」
「気取らん気取らん。寒くね?有名になった途端気取ったり、カッコつけたりって」
「まぁ寒いかな」
「だろ!?やるなら人気ないときから気取れよ!カッコつけてろよ!って思うやん!」
「なに?誰か特定の人おるん?」
鹿島の勢いにまたつい笑ってしまった。
「いや、いないけど。まぁオレらは有名になっても気取らずに行こうや」
「はいはい」
流して次の動画の撮影の話になる。
「次始まりはちょっとした茶番じゃないけど
ようやくできたベッドルームでコント的なの撮ってから
挨拶って形で始めようと思うんだけど」
「ん。コント?は決まってんの?」
「いや。ぼんやりとしか」
「ぼんやりってどんな?」
「ほら、ベッドルーム、まぁベッド自体は離れてるけど
ベッドルーム自体は2人での部屋じゃん?だからなんか修学旅行の恋バナ的なのとか?」
「あぁなるほどね?…オチは?」
「んん~どんなんがいいかな?」
「あぁ~まぁここはテキトーな名前でいいけど
たとえばなんか恋バナの助走みたいなの話して
「オレイディオの好きな人知ってるよー」的なことオレが言って
「いや、わかるわけない。言ってみ?正解ならちゃんと言うから」って鹿島が言って
オレがテキトーな名前、例えば「あれだろ?鈴木さん」って言った後に
「リアルの話出すな」的なので終わらすとか」
「あぁ~なるほどね」
「まぁテキトーな名前出すけど、編集でピー音で隠してもろて」
「ほうほう。じゃ、それで行こう」
そこから撮影が始まった。
微風が吹く外から無風の玄関に入るとなぜか少し不思議な感覚がした。
ドアの開く音が聞こえたのか
母がリビングに通じるドアが開かれた状態のドアの枠の右側からひょこっっと顔を出し
「おぉ、おかえり」
その母の言葉を聞いてなのか姿は見えないがリビングの奥のほうから
「おかえりー」
と妹の声も聞こえた。
「ただいま~」
靴を脱ぎながら言う。漂う焼き魚の香り。今日の夜ご飯は焼き魚だったのか。
そんなことを思いながら、脱いだ靴をシューズクローゼットを開き、しまおうとすると
背後からトットットッっと足音が迫ってきた。
「ねぇ、根津さんてどんな人?」
母の声だった。
「んーいい人」
「まぁそれはわかるよ」
「とりあえず手洗うわ」
きっと妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんと
うちの母が電話で話したとき妃馬さんや姫冬ちゃんのことを話しているはずなので
「女の子」だということはバレているはずなのでとりあえず話を逸らす。
母の横をすり抜け洗面所に行く。
足元にバッグと姫冬ちゃんのプレゼントの服が入ったビニール袋を置き
手を洗い、うがいをする。荷物一式を持ち階段を上る。
自分の部屋に入り、荷物を置き、着替える。部屋を出て階段を下り、リビングに行く。
「あ、お兄ちゃん。結婚の挨拶成功したー?」
妹がソファーの背もたれ部分に肘を乗せ、ニヤニヤしながらこちらを向き言う。
なにバカなこと言ってんだ。と思う前に心臓が跳ねた。
「は?」
とだけ言いキッチンに入り、自分のグラスに氷を入れ冷蔵庫を開く。
今日スーパーに買い物に行ったのか、飲み物も全然減っていないものばかりで
食材もパンパンに入っていた。飲み物を見ると、ひさびさにSanta(サンタ)グレープがあり
ひさびさに見ると飲みたくなってしまい、Santaグレープのペットボトルを取り出し
キャップを開ける。プシュッっという音と共にSantaグレープ特有の香りも飛んできた。
氷を入れたグラスに注ぐ。
シュワワシュワシューという音とカランカランコロンカランと氷同時がぶつかる音が聞こえる。
注ぎ終えその場で一口飲む。駄菓子のガムのような味にそこそこ強い炭酸。
懐かしい感じがした。飲んだ分をもう一度注ぎ、冷蔵庫に戻す。
「ねぇ、どんな人なの?姫冬ちゃんと妃馬ちゃんって」
かわした質問を改めてしてくる母。さすがにもうかわせないと思い
「あぁ~変わった名前の子たち」
と人柄などではなく名前のことを言った。
「ん?」
と言う母に
「あぁ~」
と言う妹。妹は僕のスマホの通知を勝手に見て妃馬さんの名前は知っていたので
妹が母に説明する。
「へぇ~綺麗な名前の子だねぇ?」
「ねぇねぇ姫冬ちゃんって人は?どんな名前?」
「一応夢香より歳上なんだから「さん」付けしなさい」
「へいへーい。で?姫冬「さん」はどんな字書くの?」
「お姫様の「姫」に春夏秋冬の「冬」って書いて「ヒメ」」
「「わぁ~キレぇ~」」
母と妹がハモった。
「お風呂作ってくる」
と言いキッチンにグラスを置き、お風呂場へ行こうとすると
「あ、もうできてるよ」
と言われる。そういえば母も妹も
髪を乾かしたんだろうが少ししっとりと水分を含んだ髪をしていた。
「あぁ。じゃあ入ってそのまま寝るわ」
「あいよーおやすみー」
「おやすみー」
グラスを持ち
「おやすみー」
リビングを出る。階段を上り一度部屋へ戻り
ローテーブルにグラスを置き、枕元で充電していたスマホのホームボタンを押す。
妃馬さんからメッセージが届いていた。立ったまま通知をタップし、メッセージを確認する。
「こちらこそ姫冬のプレゼント選びに付き合ってもらってありがとうございました。
私もずっと楽しかったです!私のほうこそぜひまた一緒に出掛けたいです!
でも…次は怜夢さんが誘う番ですけどねニヤ( ꒪ͧ꒳꒪ͧ )ニヤ
はい!母にも父にも姫冬にも伝えておきます!怜夢さんもゆっくり休んでくださいね!」
顔がニヤけた。
「顔文字かわいっ」
そう呟きなぜかベッドに座らず、立ったまま返信をした。電源を切り枕元に優しく投げる。
着替えの下着のパンツと今日着たTシャツと今日履いた靴下を持ちお風呂へ向かう。
洗面所兼脱衣所で服を脱ぎ、洗濯機の上に乗せる。
お風呂のすりガラスの扉を開き、お風呂場へ入る。
ムワッっとした湿気と生温い熱気が襲う。
湯船の蓋を開き、お風呂で体と髪を洗い、湯船に足を入れる。足を一度抜く。
ペチャポンという音がお風呂に響く。少し熱くゆっくりと足を入れ、体を入れる。
「あぁ~」
ついおっさんみたいな声が漏れる。パネルを見ると39℃。
春にしては…妥当な温度。肩までではなく胸辺りまで浸かる。
水面が波打つ。鼻から息を吸い込み
「はぁ~」
口から出す。疲れがドッっと押し寄せてきた。
少し黄色みがかったお風呂場の壁と屋根が交差する角をボーッっと眺める。
ついさっき押し寄せてきた疲れがじわじわとお湯に溶け出していく感覚があった。
疲れが出ていった空き容量の部分に今度は眠気が入り込んできた。あくびが出る。
湯船から出てシャワーの温度を冷水にして顔にかける。
必然的に胸辺りにもかかり、心臓がキュッっと縮まる感覚があった。
それと同時に顔の肌が引き締まる感じもあり、目も覚めた。目を見開き鼻から息を吸い込み
「ふぅー」
と口から吐き出す。脱衣所に出る。
タオルで頭をぐしゃぐしゃし、ある程度の水分をタオルに吸収させる。その後に体を拭く。
タオルを頭から垂らし、着替え用の下着のパンツを履きぐちゃぐちゃに脱ぎ散らかした中から
元々履いていた下着のパンツと今日着たTシャツ、今日履いた靴下を洗濯カゴに投げ入れる。
スウェットパンツを履き、Tシャツとパーカーは手に持ち、上半身裸のまま部屋に戻る。
ベッドの上にパーカーとTシャツを投げ、ベッドに仰向けに倒れる。
染み1つない天井をしばしボーっと眺める。体を回転させスマホを手に取る。
ホームボタンを押す。妃馬さんと鹿島からのLIMEの通知があった。
妃馬さんからの通知をタップしメッセージを確認する。
「27日ですか?たぶん姫冬講義入ってるんじゃないかな?
危ないですよ!wお風呂では寝ないように気をつけてくださいね!
じゃ、私もお風呂入って寝ますので、また大学で!おやすみなさい!」
そのメッセージの後に猫が布団に入って寝ているスタンプが送られていた。
そのメッセージに返信し、僕もフクロウが木の上で寝ているスタンプを送った。
トークの一覧に戻り、今度は鹿島とのトーク画面を開く。
「おいおいー。お帰りです?」
呑気なメッセージになんとなく安心する。
「帰ったよ」
送ってすぐ既読の文字がつく。すぐに電話が飛んできた。
通話ボタンをタップし、スピーカーのボタンもタップする。
「おいおいー」
いつもの挨拶。
「おいおいー」
「で?」
「で?とは?」
ローテーブルの上のテレビのリモコンを手に取りベッドに寝転がり
テレビのリモコンの赤く丸い電源ボタンを押す。ドラマがやっていた。
「だから、デートよデート!」
今まで見たことなかったドラマを見てみる。
「だからデートじゃないんだって」
何気なく眺めていただけだったが意外とおもしろく
1話から見ていないことを後悔するほどだった。
「でもデートの定義ってなんなんすか?」
「うわっめんどくさい子供の質問みたいなのきた」
「いやいやごめんごめん。違くって。デートって思ったらデートなんじゃないって」
テレビから視線を上にズラす。
ボーっと壁と天井の交わる角を眺めながらデートと思ったらデートか。と思い
デートって思ったことあったかな。と考える。
「あぁ」
考えながら空返事をする。
「今日実況撮れる?」
「うん」
「疲れてない?」
「んん~お風呂入ったときドッっときたけど今はへーきかな」
「おっし!じゃあサクッっと撮って寝て」
「おん。あんがと」
「じゃ、パス4(パスタイム スポット 4)でパーティー作るからボイスつけて入って。
あ、ワメブロ(ワールド メイド ブロックス)やるからよろしく」
それを最後にテロンッと電話が切れた。少しドラマを見たらちょうどCMに入ったので
ベッドから起き上がりパスタイム スポット 4のコントローラーのホームボタンを押し
本体の電源をつけ、テレビのリモコンで入力切り替えをする。
青い画面になりユーザーを選び、鹿島から招待されたパーティーに入る。
「おーい!マイク入ってないぞー」
パスタイム スポット 4の近くにしまっていたマイク付きのヘッドホンを取りに
テレビに近づき、ヘッドホンを手に元の位置に戻り
コントローラーにヘッドホンを接続し、ヘッドホンを頭に着ける。
「お、きたきた!」
「こないだの続きね?」
「そそ。前回は拠点となる場所を見つけて
素材集めて拠点のベースができて終わったんよね」
「そうそう。まだ壁もできてないんよ」
「でもベッドは第一話で作れたからー。そうな。
今回はとりあえず安心して眠れるベッドルーム作ってもらっていい?」
拠点作りは基本的に僕の担当だ。
「なるほどな。オッケーオッケー。で鹿島は引き続き探索?」
「そそ。でベッドルームができたら「できた」って言ってもらって
オレが拠点帰ってオレのリアクションって感じかな。
でベッドルームができるまでのメイキングは怜ちゃんのチャンネルで流してもろて」
「なるほど。オッケーオッケー」
「で、できれば2本撮りたくて、2本目は特別こういう感じってのがないんだけど
怜ちゃんはとりあえずいつも通り拠点作りの続きを
オレは探索って感じでいい頃合いで拠点で締めって感じで」
「おん。いいよ。じゃ、とりあえずワメブロ起動して招待して」
「あいよー」
その後1本の動画を撮った。
編集で15から20分ほどになるだろうが作業時間としては1時間半くらい作業していた。
「おつかれぇ~」
「おつ~」
「どうする?続けて撮る?飲み物とか取り行く?」
「あぁ、飲み物取り行ってくるわ~」
「ん!じゃ、オレも飲み物取り行ってこよー」
僕はマイクのスイッチをオフにして
ヘッドホンを取りグラスを持ち、暗くなった廊下を進み階段を下りる。
1階の廊下は暗かったが、閉まっているリビングの扉のすりガラス部分から光が漏れ出ていた。
リビングの扉のドアノブに手をかけ、扉を押し開ける。
リビングに入ると母がソファーでテレビを見ていた。
「あ、まだ起きてたのー?」
母が僕に気づき声をかける。僕はキッチンの電気をつけ、冷蔵庫を開きながら
「そっくりそのまま返しまーす」
「撮ってたドラマ見てから寝ようと思ってね」
四ツ葉サイダーを注ぎ冷蔵庫を閉める。
「まぁはやめに寝なよ」
「そっくりそのまま返しまーす」
そう言われ、リビングの扉のドアノブに手をかける。すると背後から
「おやすみー」
と母に言われたので
「おやすみー」
と返しリビングを出る。暗い階段を上り、暗い廊下を進み部屋に戻る。
ローテーブルにグラスを置き、ベッドに胡座で座る。ヘッドホンを手に取り頭に着ける。
マイクをオンにしようとしたが向こうから音が聞こえたので
オンしようとしていた手を止め、耳を澄ます。
きっと鹿島がMyPipeで動画を見ているのだろう。
男の人の話し声や笑い声とMyPipe特有の効果音が聞こえてきた。僕はマイクをオンにし
「なに見てんのー」
と聞く。
「あー今ねNSSPさんの動画見てた」
「あぁ、好きよな鹿島その人たち」
「めっちゃ好き。なんだろうなぁ~なんか高校のころとか、中学のころ思い出す」
「あぁ~なんか鹿島に1回勧められて見たけど
たしかに学生のころマジの仲良しグループでわちゃわちゃしてる感は感じた」
「だろ!?そこがいい!アホみたいに気取ったり、カッコつけたりしない感じ
マジで好きだし憧れる」
「憧れる」
つい笑ってしまった。
「おい!なにわろてんねん!」
「いや、憧れるって。鹿島有名になったら、たぶん気取るだろうなぁ~って思って」
「気取らん気取らん。寒くね?有名になった途端気取ったり、カッコつけたりって」
「まぁ寒いかな」
「だろ!?やるなら人気ないときから気取れよ!カッコつけてろよ!って思うやん!」
「なに?誰か特定の人おるん?」
鹿島の勢いにまたつい笑ってしまった。
「いや、いないけど。まぁオレらは有名になっても気取らずに行こうや」
「はいはい」
流して次の動画の撮影の話になる。
「次始まりはちょっとした茶番じゃないけど
ようやくできたベッドルームでコント的なの撮ってから
挨拶って形で始めようと思うんだけど」
「ん。コント?は決まってんの?」
「いや。ぼんやりとしか」
「ぼんやりってどんな?」
「ほら、ベッドルーム、まぁベッド自体は離れてるけど
ベッドルーム自体は2人での部屋じゃん?だからなんか修学旅行の恋バナ的なのとか?」
「あぁなるほどね?…オチは?」
「んん~どんなんがいいかな?」
「あぁ~まぁここはテキトーな名前でいいけど
たとえばなんか恋バナの助走みたいなの話して
「オレイディオの好きな人知ってるよー」的なことオレが言って
「いや、わかるわけない。言ってみ?正解ならちゃんと言うから」って鹿島が言って
オレがテキトーな名前、例えば「あれだろ?鈴木さん」って言った後に
「リアルの話出すな」的なので終わらすとか」
「あぁ~なるほどね」
「まぁテキトーな名前出すけど、編集でピー音で隠してもろて」
「ほうほう。じゃ、それで行こう」
そこから撮影が始まった。
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いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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