猫舌ということ。

結愛

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動き

第73話

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「いやぁ~なんかいろいろしていただいちゃって、ありがとうございました」
「いえいえ。まさか母がご飯食べてく?なんて言うと思ってなかったので
なんかすいません」
「全然全然!めちゃくちゃ美味しかったですし」
「母も喜んでました」
「良かったです」
エレベーター前に到着する。妃馬さんが下ボタンを押してくれた。
下向きの矢印のボタンが光る。
階数が表示されたモニターを見ると9階で止まっていたようだった。
「9階」
「しばらくお待ちください」
「ここ何階まであるんですか?」
「12階ですね」
「あ、意外と高い」
「何階くらいまでだと思ってました?」
「ん~10階くらい?」
「そんな変わらないじゃないですか」
そう笑っていると目の前のエレベーターの扉が左右に開く。ほとんど同時に乗り込む。
妃馬さんがボタン前に立ち、1階のボタンを押す。エレベーターの扉が閉まる。
なぜか無言の時間が続いた。
内臓が少し浮き上がる感覚があったがすぐ正常の位置に戻る。扉が開く。
「あ、先いいですよ」
と言われエレベーターの外に出る。扉の側面を抑え扉が閉じないようにする。
「ありがとうございます」
エレベーターホールからポストの前に行き
ガラスの自動ドアが開き、マンションのエントランスに出る。
ホールは煌々と暖かい色のライトがついていて、外は暗くぼんやり景色が見える程度だった。
「ここで大丈夫ですよ」
僕は立ち止まり妃馬さんに言う。
「え?いや、駅まで送りますよ」
「いや、気持ちはもちろん嬉しいですけど
駅まで送ってもらったら今度は僕が駅まで送ることになるので」
「いや、駅でバイバイでいいじゃないですか」
「僕は妃馬さんを無事家まで送るのが仕事なので」
執事モードになり頭を下げる。
「え、でも…」
と渋る妃馬さんに
「あ、じゃあ…」
僕も内心もう少し話したいというのもあり
「コンビニでも行きます?」
と提案する。
「コンビニ?」
「いや、まぁコンビニじゃなくてもいいんですけど、ちょっと散歩して戻ってきます?」
「…はい!じゃあそうします!」
そう言って2人で外へ出た。
外に出るとやはり少しだけ涼しい夜の微風が吹いていて春の夜の匂いがした。
2人で駅までの道を歩き出す。
「そういえばお父さん優しい方でしたね」
「はい。ちょっと天然ですけどね」
そのときあの場面を思い出した。

「困りま…すというか、ね?嫌われないに越したことはないですから」
すると
「ん?」
と妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんと姫冬ちゃんがニヤニヤしながら
「なんで困るのー?」
「なんで困るんですかー?」
と攻めてきた。
「ねぇ?お父さん」
と妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんがお父さんに振ると
「ん?うん。うん?なんの話?」

思い出し少し笑い、少し照れた。
道中他愛もない話をしていると駅が見え、駅近くのコンビニの看板が光っているのも見えた。
「なんかテキトーにコンビニ行きます?とか言いましたけど、なんか買うものあります?」
コンビニまで十数メートルでコンビニの話をし始める。
「んん~ていうかお財布持ってきてないからどっちにしろ買えないです」
僕はここで妃馬さんが買いたいものを奢るのもおかしいと思ったので
「妃馬さんプリン好きですか?」
「プリンですか?最近食べてないですけど好きですよ?」
そういう話をして
「あ、コンビニいいですか?」
「あ、はい」
そう言って2人でコンビニに入る。この場所コンビニに入るのは初めてだったが
同名のコンビニは内装がある程度同じだと思ったので
杏仁豆腐やゼリー、プリンなどが置いてある棚に向かった。
1番オーソドックスなプチップルンプリンを手に取る。
1つ取ると1個分奥にもう1つあり、2つ目を1つ目に重ねる。
同じように奥から3つ目を取るとちょうど3つで無くなった。
左手に重ね2つ、右手に1つプリンを持ち、レジに向かう。
少し派手目な同じ歳か少し下くらいの女性が接客してくれる。
ピッ、ピッ、ピッ。バーコードを読み込む音が3回聞こえ
「3点で453円になります。レジ袋はご利用でしょうか?」
「あ、はいお願いします」
お会計を済ませてレジ袋を受け取った。
「あーとぉーざーしたー」
「What time is it now?」が「掘った芋いじるな」と聞こえるほど
「ありがとうございました」とは聞こえたがなんか違うような気もした。
コンビニを出る。ずっと僕の後ろをついてきていた妃馬さんも一緒にコンビニを出た。
「じゃ、帰りますか」
僕は今着た道を折り返す。
「私が送るはずだったのに」
「今後も最終的には僕が妃馬さんを送り届けます」
「じゃあ、私が怜夢さん家を知ることはないのか~」
そう言われ少しだけ想像した。僕が妃馬さんを連れて自分の家の前にいる。
どういう経緯だ?その経緯が全く考えつかず
ただなぜだか自分の家の近くに妃馬さんを連れてきていた。
その状況を想像するだけでなぜか心臓が軽く跳ねた。
「いや、まぁ、仮にあったとしても最後は僕が妃馬さんを送り届けますから」
すると
「じゃあ怜夢さん家を知れる可能性はあるということですね?」
イタズラっぽい表情で少し上目遣いで聞いてくる妃馬さんを見ると
さっきよりも大きく心臓が跳ねた。
「いや、まぁ、事と次第によってはあるかもしれませんよね」
「事と次第ー?」
またイタズラっぽくニヤニヤする妃馬さんに
「やっぱ似てますね」
話を逸らす。
「え?似てます?」
「はい。そのニヤけ顔とか」
「ちょっ、ニヤけ顔って」
今度は僕がイタズラっぽく揶揄うように言う。
「お母さんもそっくりな表情してました」
「あぁ、今日のことですね」
「ですです」
そこから妃馬さんがお母さんと似てる話や妃馬さんと姫冬ちゃんの違いの話をしていると
根津家が入っているマンションのエントランスが見えた。
白い色が強い街灯で照らされる歩道とは違い
エントランスの光で照らされた付近の歩道は黄色味を帯びた明かりが反射していた。
エントランス前につき
「到着しました」
と言う。
「到着しましたね。また駅まで送りましょうか?」
と笑っていう妃馬さん。
「無限ループですか?」
僕も笑う。
「なんか送るつもりが2度手間ですいません」
「好きでやってるんで気にしないでください」
少し無言の時間が訪れる。レジ袋から1つプリンを抜きバッグに入れる。
「あ、これ」
と言ってレジ袋を妃馬さんに差し出す。
「え?」
「これもしよかったら」
「でもこれ」
「はい。プリンです。良かったら妃馬さんが買った体で姫冬ちゃんと一緒に食べてください」
「いいんですか?」
「もちろん」
そして少し妃馬さんに近づきひそひそ声で
「安いプリンですけどひさしぶりに食べると、とんでもなく美味しく感じますよ」
と言い
「じゃ、また大学で」
と言って帰ろうと踵を返し歩き出す
「ありがとうございます!気をつけて!」
振り返ると妃馬さんが手を振ってくれていた。
手を振り返す。前を向き直り歩き出す。角を曲がり立ち止まる。
バッグからイヤホン、ポケットからスマホを取り出し
スマホにイヤホンを接続し、耳に突っ込む。
音楽アプリを起動し「お気に入り」のプレイリストをシャッフル再生し
ついさっきも歩いた道を歩き出す。ついさっきは妃馬さんと歩き、楽しく会話をし笑っていた。
耳に聞こえていたの妃馬さんの話し声、笑い声だったが
今僕の鼓膜を震わせているのはお気に入りの曲だった。
お気に入りの曲をBGMについさっきの妃馬さんを思い出す。
幻影で隣に妃馬さんが見える気がして顔がニヤけた。右の掌で口元を隠す。
いつの間か先程入ったコンビニの看板が見えるところまで歩いてきていた。
コンビニに僕が入り、少し後に妃馬さんが入った。
そんな見えていない幻影を見えているように感じコンビニを通り過ぎる。
9時頃ということもあり駅周辺は駅から出てきた人がたくさんいた。
少なくもあるが駅に向かっている人もいた。その少ない人の中に僕も入り
交通系電子マネーを改札にタッチする電子音が近づき、入り口専用で空いている改札を通る。
ホームで電車を待つ。幸いなことに電車はすぐに来て、電車に乗り、スマホを取り出す。
LIMEアプリを開き、妃馬さんとのトーク画面を開く。
メッセージを打つ部分をタップするとキーボードが出てきた。そして文字を打ち始める。

「今日は本当にありがとうございました。
妃馬さんからお出掛けに誘ってもらってから
今日のお出掛け最中もずっと嬉しく、楽しかったです。
僕ばっか楽しんで、妃馬さんも楽しめていればいいんですけど…。
そしてお家にまでお邪魔させてもらって
夜ご飯までご馳走になって本当にありがとうございました。
妃馬さんがよければ、ぜひまた一緒に出掛けましょう。
お母様、お父様、姫冬ちゃんにもよろしくお伝えください。
疲れたと思うのでゆっくり休んでください」

送信ボタンをタップし、もう一度メッセージを打つ。

「ありがとう」

そう打って出てきたフクロウが
「ありがとうございました」と礼儀正しくお辞儀をしているスタンプを送った。
ホームボタンを押し、アプリがズラッっと並んだ画面になる。
赤と黒の禍々しい意味がわかると怖い話のアプリのアイコンをタップし
意味がわかると怖い話を読みクイズを解いて、自分の家の最寄り駅で降りる。
いつもの帰り道を歩き、家の周辺の景色が見えてきて自分の家が見えた。
家の前についたとき、なぜか夢の国から出たような魔法が解け、現実に戻った感覚がした。
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