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動き
第72話
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なんとなく来客の僕が最初におかずを貰うのはどうかと思ったので
まずは中華スープを飲むことにした。お椀を左手に持ちお箸でかき回す。
卵と半透明の玉ねぎとニンジンが反時計回りにグルグル回る。
僕は息を吹きかけ気休め程度に冷やし、スープを啜る。熱かった。熱かったが美味しかった。
「おいし」
と呟く。
「お口に合ってよかった。どんどん食べてね」
妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんが笑顔で言う。
「はい。いただきます」
お椀を置き、左手にお米の盛られたお茶碗を持ち、今度は鶏肉に箸を伸ばす。
小皿に一度バウンドさせ鶏肉を口へ運ぶ。一口噛み切り、残りはお米の上に乗せ、咀嚼する。
ほんのり優しい甘辛い味にお酢の酸味が合わさり
鶏肉1つは大きいのにさっぱりとペロリと食べられる味付けだった。
鶏肉は鶏肉自身の油でトゥルトゥルで見ていないのに油で光った筋肉の断面を感じた。
もう一口噛み切り咀嚼しながらお米を口に放り込む。
お酢でさっぱりはしているものの甘辛い味付けが奥にあるのでお米とも合う。
夢中で食べていたら
お茶碗に盛られたお米は半分になっており、鶏肉は大きめのものを2つ食べていた。
「どお?美味し?」
妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんにそう聞かれて
まだ口に入っていた鶏肉とお米を飲み込むまで待ち
「はい。とても美味しいです」
そう答える。
「良かったぁ~。お父さんは?」
とそこではっきりした。やはり妃馬さんと姫冬ちゃんのお父さんだった。
「ん?美味しいよ」
と笑顔で妃馬さんと姫冬ちゃんのお父さんが答える。
「この人もそうだけど、この子たちも普段美味しいとか言ってくれないから嬉しいわ」
妃馬さんと姫冬ちゃんはテレビを見ながら食事をしていて
自分たちの名前が呼ばれ、チラッっとこちらを見た。
「美味しいよ。いつもそう思ってるよ」
続いて姫冬ちゃんも
「そうそう」
「だったら暑ノ井くんみたいに言ってくれても、ねぇ?」
妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんが僕のほうを見る。僕がなにかを言おうとする前に
「だって怜夢先輩はお客さんだしそりゃ言うでしょ。ねぇ?」
今度は姫冬ちゃんが僕のほうを見る。僕はどう返答していいかわからず
「あ、まぁ。うちもそんなもんですよ。母の作った料理はもちろん美味しいですし
父も妹も美味しいと思ってるでしょうけど
いつも大概他愛もない会話をして食べ終わります。
前、僕の友達が僕の家で夕食を食べたことがあったんですけど
そのとき、母が妃馬さんと姫冬さんのお母さんと同じこと言ってました。
なんだろう。もちろん美味しいし、もちろん毎日感謝もしてるんですけど
小っ恥ずかしいというか…。だから「母の日」が特別な日扱いなのかなぁ~なんて」
そう言うと妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんと姫冬ちゃん、2人とも納得した様子だった。
僕は箸をほうれん草のナムルに伸ばし
左手に小皿を持ち、ほうれん草のナムルの盛られたお皿に近づけ
小皿にほうれん草のナムルを盛って自分のもとへ置く。
小皿に盛ったほうれん草のナムルを箸で掴み、口へ運ぶ。
シャキシャキとコリコリの間のような食感で、ほうれん草の濃い味とごま油の香り
そしてほんのりだけどしっかりといるのがわかるニンニクの香りが鼻から抜け
野菜なのにおかずのように食べられた。
「あぁ~美味しい~」
「嬉しい~明日もうちでご飯食べる?」
妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんは冗談を言う。
「食べたいですけど、ご迷惑ですし、うちの母もうるさいので」
と笑ってやんわり断る。
「まぁでもまたぜひおいで?ね?お父さん」
「え?あ、うん。暑ノ井くん良い子だし、またおいで?」
妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんとお父さんの優しい言葉にほっっとする。
「なんか怜夢先輩、安心した?」
鋭い。姫冬ちゃんのあまりの鋭さに驚きが顔に出ていた。
「なんで?なにに安心したの?」
妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんが食い気味に聞いてきた。
「いや、まぁ妃馬さんと姫冬さんと仲良くさせてもらって
まぁ女の子の実家にお邪魔するってなったら普通に緊張して。しかも妃馬さんから
妃馬さんと姫冬ちゃんのお父さんは高校の教師をされてるって聞いてたから
勝手にお堅い方なのかな?とか思ったり
妃馬さんと姫冬ちゃんのお父さんとお母さんに嫌われたら…」
そう言いながらその先おかしなことを言おうとしていることに気づいた。
気づいたがもう止めることができなかった。
「困りま…すというか、ね?嫌われないに越したことはないですから」
すると
「ん?」
と妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんと姫冬ちゃんがニヤニヤしながら
「なんで困るのー?」
「なんで困るんですかー?」
と攻めてきた。
「ねぇ?お父さん」
と妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんがお父さんに振ると
「ん?うん。うん?なんの話?」
事前に聞いていた通り少し天然の方のようだった。
「あ、それよりさ」
妃馬さんと姫冬ちゃんのお父さんが僕のほうを見る。
なぜか緊張感が蘇り、僕は少し背筋を伸ばした。
「なんで「妃馬さんと姫冬ちゃんの」ってつけるの?めんどくさくない?」
緊張感のせいか質問を飲み込むのに少々時間を要した。
質問の内容を理解したとき数本張り詰めていた緊張の糸が数本
プツンップツンッという音を立て切れた。
「え、あぁ。ただ「お父さん」「お母さん」って言ったら、あのドラマとかでよくある
「君にお父さんと呼ばれる筋合いはない!」って言われたりするかなと…」
そう言うと
「言わない言わないよ」
と妃馬さんと姫冬ちゃんのお父さんが笑う。
「暑ノ井くんが妃馬か姫冬と付き合ってて、結婚するってなったときに初めて会って
そのときに「お父さん」って呼ばれたら、付き合ってるときに1度も挨拶どころか
顔も出さなかったくせに。って思って
「君にお父さんと呼ばれたくはないね」とは言うかもしれないけどね?」
「あぁそれは失礼というか…ちゃんと事前に挨拶しろって話ですもんね」
「そうそう。あとはあれね。暑ノ井くんはそうは見えないけど
常識的じゃない人だったり礼儀知らなかったり
そういう子はまぁ男の子だろうが女の子だろうがあんまいい気はしないよね」
「はい。わかります。わかりますっていうか
僕も仲良くなるまでに気合う合わないももちろんありますけど
親と会わせられるかとかそういうこと考えたりします」
その後「妃馬さんと姫冬さんの」を付けずに「お父さん」って呼んでいいと言われ
その後もお父さんやお母さんと話していると
いつの間にかダイニングテーブルには空のお皿ばかりになっていた。
あったのは誰も手をつけなかった納豆ピラミッドだけだった。
「ごちそうさまでした」
と各々が言いお母さんが食器を片付ける。妃馬さんがそれを手伝い、僕も手伝った。
「あ、ありがとうねぇ~。ごめんね、お客さんなのに」
「あ、いえ。これくらいは」
するとお母さんが洗い物を始めようとする。
「あ、私やるからいいよ」
と妃馬さんが代わりにやると言った。それを聞きお母さんは「お?」と言う顔をし
「じゃあ、お願いね?私お風呂作ってくる」
と言って廊下に向かった。妃馬さんの横に行き
「僕も手伝います」
「いいですよ。姫冬と座って休んでてください」
「これ使ってもいいですか?」
とスポンジ置きに置いてあったスポンジを手に取る。
「もう。いいって言ったのに」
そう言いながらも僕の持っているスポンジに食器用洗剤をかけてくれた。
「ありがとうございます」
そう言ってスポンジを揉み泡立てる。2人並んで食器を洗う。
「慣れてますね」
「たまに洗い物するんで」
「お手伝いですか?」
「んん~まぁ?でもバレないようにやったりします」
「あ!わかるかも」
「感謝されるようなことでもないし」
「わかります。「手伝う」って言っても「いいよ」って言われるし」
「でもさっきはあっさりでしたけど?」
「はい…。なんか今日は」
そんな話をしているとお母さんが帰ってきた。
「あら。暑ノ井くんもやってくれてるの?よかったのにぃ~。お風呂も入ってく?」
そう笑いながらいうお母さんに
「いや、さすがに」
と笑って返す。
「なんか夫婦みたいだね」
姫冬ちゃんの唐突な言葉に心臓が跳ね上がった。妃馬さんのほうを見れなくなった。
食器を取ろうとして妃馬さんの指に僕の左手の小指が当たる。パッっと避けるのも変だと思い
心臓がバクバクの中ゆっくりと食器を手に取りスポンジで洗う。
お父さんは姫冬ちゃんと一緒にソファーで飲み物を飲みながらくつろいでいた。
姫冬ちゃんとお母さんのニヤニヤ顔の視線の中、無言で洗い物をし終えた。
「じゃ、今日は本当にありがとうございました」
お母さんとお父さんにお礼を言う。
「そっか。駅まで車出そうか?」
お父さんが提案してくれる。
「あ、いえ。道覚えてるしそんな時間かからないので。ありがとうございます」
「そっかそっか。気をつけてね。またおいで」
お父さんにそう言ってもらえた。嬉しかった。
「ありがとうございます。機会があればぜひ」
「そっか~もう帰っちゃうのね。じゃあこれからもうちの妃馬と姫冬をよろしくね」
「はい!…はい?いや、こちらこそよろしくお願いします」
お母さんとも会話を交わす。
ソファーの前のローテーブルのところに置いたバッグを取ろうと近づく。
「どうぞ」
姫冬ちゃんが渡してくれた。
「ありがとう」
「また来てくださいね」
「うん。皆さんがよければね」
「じゃあ明日にでも」
「スパン短すぎでしょ」
そう笑ってバッグを受け取り肩にかける。
「私駅まで送ってくるね」
そう言って自分の部屋に入る妃馬さん。僕はリビングから廊下に出て廊下を進み
玄関で靴を履いているときに背後からカッチャンと扉が開き
カチャットンと扉が閉まる音が聞こえた。靴を履き終え振り返る。
薄手のカーディガンを着た妃馬さんが立っていた。
妃馬さんの後ろにはお父さんお母さん、姫冬ちゃんが立っていて見送りに来てくれていた。
「お邪魔しました。美味しいご飯ありがとうございました」
お礼を今一度言う。
「いーえ。またおいで?」
「怜夢先輩また大学でー!」
「気をつけてね」
僕は軽く頭を下げドアノブを掴み押す。ガッチャンと重い音が鳴り扉が開く。
少し涼しい夜風が舞い込んできた。
「じゃ、ちょっと行ってくる」
妃馬さんの声が聞こえる。
「気をつけていってらっしゃい」
「くれぐれも気をつけてな」
お母さんとお父さんの声も聞こえ、妃馬さんが出てくるまで玄関の扉を開けたままにして
妃馬さんが外に出たのを確認して今一度
「お邪魔しました。ありがとうございました」
と頭を下げて扉を閉める。閉まるまでの扉の隙間から
お父さんお母さん、姫冬ちゃんが手を振ってくれているのが見えた。
ゆっくりとガッチャンと扉を閉め、外廊下を歩き出す。
まずは中華スープを飲むことにした。お椀を左手に持ちお箸でかき回す。
卵と半透明の玉ねぎとニンジンが反時計回りにグルグル回る。
僕は息を吹きかけ気休め程度に冷やし、スープを啜る。熱かった。熱かったが美味しかった。
「おいし」
と呟く。
「お口に合ってよかった。どんどん食べてね」
妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんが笑顔で言う。
「はい。いただきます」
お椀を置き、左手にお米の盛られたお茶碗を持ち、今度は鶏肉に箸を伸ばす。
小皿に一度バウンドさせ鶏肉を口へ運ぶ。一口噛み切り、残りはお米の上に乗せ、咀嚼する。
ほんのり優しい甘辛い味にお酢の酸味が合わさり
鶏肉1つは大きいのにさっぱりとペロリと食べられる味付けだった。
鶏肉は鶏肉自身の油でトゥルトゥルで見ていないのに油で光った筋肉の断面を感じた。
もう一口噛み切り咀嚼しながらお米を口に放り込む。
お酢でさっぱりはしているものの甘辛い味付けが奥にあるのでお米とも合う。
夢中で食べていたら
お茶碗に盛られたお米は半分になっており、鶏肉は大きめのものを2つ食べていた。
「どお?美味し?」
妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんにそう聞かれて
まだ口に入っていた鶏肉とお米を飲み込むまで待ち
「はい。とても美味しいです」
そう答える。
「良かったぁ~。お父さんは?」
とそこではっきりした。やはり妃馬さんと姫冬ちゃんのお父さんだった。
「ん?美味しいよ」
と笑顔で妃馬さんと姫冬ちゃんのお父さんが答える。
「この人もそうだけど、この子たちも普段美味しいとか言ってくれないから嬉しいわ」
妃馬さんと姫冬ちゃんはテレビを見ながら食事をしていて
自分たちの名前が呼ばれ、チラッっとこちらを見た。
「美味しいよ。いつもそう思ってるよ」
続いて姫冬ちゃんも
「そうそう」
「だったら暑ノ井くんみたいに言ってくれても、ねぇ?」
妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんが僕のほうを見る。僕がなにかを言おうとする前に
「だって怜夢先輩はお客さんだしそりゃ言うでしょ。ねぇ?」
今度は姫冬ちゃんが僕のほうを見る。僕はどう返答していいかわからず
「あ、まぁ。うちもそんなもんですよ。母の作った料理はもちろん美味しいですし
父も妹も美味しいと思ってるでしょうけど
いつも大概他愛もない会話をして食べ終わります。
前、僕の友達が僕の家で夕食を食べたことがあったんですけど
そのとき、母が妃馬さんと姫冬さんのお母さんと同じこと言ってました。
なんだろう。もちろん美味しいし、もちろん毎日感謝もしてるんですけど
小っ恥ずかしいというか…。だから「母の日」が特別な日扱いなのかなぁ~なんて」
そう言うと妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんと姫冬ちゃん、2人とも納得した様子だった。
僕は箸をほうれん草のナムルに伸ばし
左手に小皿を持ち、ほうれん草のナムルの盛られたお皿に近づけ
小皿にほうれん草のナムルを盛って自分のもとへ置く。
小皿に盛ったほうれん草のナムルを箸で掴み、口へ運ぶ。
シャキシャキとコリコリの間のような食感で、ほうれん草の濃い味とごま油の香り
そしてほんのりだけどしっかりといるのがわかるニンニクの香りが鼻から抜け
野菜なのにおかずのように食べられた。
「あぁ~美味しい~」
「嬉しい~明日もうちでご飯食べる?」
妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんは冗談を言う。
「食べたいですけど、ご迷惑ですし、うちの母もうるさいので」
と笑ってやんわり断る。
「まぁでもまたぜひおいで?ね?お父さん」
「え?あ、うん。暑ノ井くん良い子だし、またおいで?」
妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんとお父さんの優しい言葉にほっっとする。
「なんか怜夢先輩、安心した?」
鋭い。姫冬ちゃんのあまりの鋭さに驚きが顔に出ていた。
「なんで?なにに安心したの?」
妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんが食い気味に聞いてきた。
「いや、まぁ妃馬さんと姫冬さんと仲良くさせてもらって
まぁ女の子の実家にお邪魔するってなったら普通に緊張して。しかも妃馬さんから
妃馬さんと姫冬ちゃんのお父さんは高校の教師をされてるって聞いてたから
勝手にお堅い方なのかな?とか思ったり
妃馬さんと姫冬ちゃんのお父さんとお母さんに嫌われたら…」
そう言いながらその先おかしなことを言おうとしていることに気づいた。
気づいたがもう止めることができなかった。
「困りま…すというか、ね?嫌われないに越したことはないですから」
すると
「ん?」
と妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんと姫冬ちゃんがニヤニヤしながら
「なんで困るのー?」
「なんで困るんですかー?」
と攻めてきた。
「ねぇ?お父さん」
と妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんがお父さんに振ると
「ん?うん。うん?なんの話?」
事前に聞いていた通り少し天然の方のようだった。
「あ、それよりさ」
妃馬さんと姫冬ちゃんのお父さんが僕のほうを見る。
なぜか緊張感が蘇り、僕は少し背筋を伸ばした。
「なんで「妃馬さんと姫冬ちゃんの」ってつけるの?めんどくさくない?」
緊張感のせいか質問を飲み込むのに少々時間を要した。
質問の内容を理解したとき数本張り詰めていた緊張の糸が数本
プツンップツンッという音を立て切れた。
「え、あぁ。ただ「お父さん」「お母さん」って言ったら、あのドラマとかでよくある
「君にお父さんと呼ばれる筋合いはない!」って言われたりするかなと…」
そう言うと
「言わない言わないよ」
と妃馬さんと姫冬ちゃんのお父さんが笑う。
「暑ノ井くんが妃馬か姫冬と付き合ってて、結婚するってなったときに初めて会って
そのときに「お父さん」って呼ばれたら、付き合ってるときに1度も挨拶どころか
顔も出さなかったくせに。って思って
「君にお父さんと呼ばれたくはないね」とは言うかもしれないけどね?」
「あぁそれは失礼というか…ちゃんと事前に挨拶しろって話ですもんね」
「そうそう。あとはあれね。暑ノ井くんはそうは見えないけど
常識的じゃない人だったり礼儀知らなかったり
そういう子はまぁ男の子だろうが女の子だろうがあんまいい気はしないよね」
「はい。わかります。わかりますっていうか
僕も仲良くなるまでに気合う合わないももちろんありますけど
親と会わせられるかとかそういうこと考えたりします」
その後「妃馬さんと姫冬さんの」を付けずに「お父さん」って呼んでいいと言われ
その後もお父さんやお母さんと話していると
いつの間にかダイニングテーブルには空のお皿ばかりになっていた。
あったのは誰も手をつけなかった納豆ピラミッドだけだった。
「ごちそうさまでした」
と各々が言いお母さんが食器を片付ける。妃馬さんがそれを手伝い、僕も手伝った。
「あ、ありがとうねぇ~。ごめんね、お客さんなのに」
「あ、いえ。これくらいは」
するとお母さんが洗い物を始めようとする。
「あ、私やるからいいよ」
と妃馬さんが代わりにやると言った。それを聞きお母さんは「お?」と言う顔をし
「じゃあ、お願いね?私お風呂作ってくる」
と言って廊下に向かった。妃馬さんの横に行き
「僕も手伝います」
「いいですよ。姫冬と座って休んでてください」
「これ使ってもいいですか?」
とスポンジ置きに置いてあったスポンジを手に取る。
「もう。いいって言ったのに」
そう言いながらも僕の持っているスポンジに食器用洗剤をかけてくれた。
「ありがとうございます」
そう言ってスポンジを揉み泡立てる。2人並んで食器を洗う。
「慣れてますね」
「たまに洗い物するんで」
「お手伝いですか?」
「んん~まぁ?でもバレないようにやったりします」
「あ!わかるかも」
「感謝されるようなことでもないし」
「わかります。「手伝う」って言っても「いいよ」って言われるし」
「でもさっきはあっさりでしたけど?」
「はい…。なんか今日は」
そんな話をしているとお母さんが帰ってきた。
「あら。暑ノ井くんもやってくれてるの?よかったのにぃ~。お風呂も入ってく?」
そう笑いながらいうお母さんに
「いや、さすがに」
と笑って返す。
「なんか夫婦みたいだね」
姫冬ちゃんの唐突な言葉に心臓が跳ね上がった。妃馬さんのほうを見れなくなった。
食器を取ろうとして妃馬さんの指に僕の左手の小指が当たる。パッっと避けるのも変だと思い
心臓がバクバクの中ゆっくりと食器を手に取りスポンジで洗う。
お父さんは姫冬ちゃんと一緒にソファーで飲み物を飲みながらくつろいでいた。
姫冬ちゃんとお母さんのニヤニヤ顔の視線の中、無言で洗い物をし終えた。
「じゃ、今日は本当にありがとうございました」
お母さんとお父さんにお礼を言う。
「そっか。駅まで車出そうか?」
お父さんが提案してくれる。
「あ、いえ。道覚えてるしそんな時間かからないので。ありがとうございます」
「そっかそっか。気をつけてね。またおいで」
お父さんにそう言ってもらえた。嬉しかった。
「ありがとうございます。機会があればぜひ」
「そっか~もう帰っちゃうのね。じゃあこれからもうちの妃馬と姫冬をよろしくね」
「はい!…はい?いや、こちらこそよろしくお願いします」
お母さんとも会話を交わす。
ソファーの前のローテーブルのところに置いたバッグを取ろうと近づく。
「どうぞ」
姫冬ちゃんが渡してくれた。
「ありがとう」
「また来てくださいね」
「うん。皆さんがよければね」
「じゃあ明日にでも」
「スパン短すぎでしょ」
そう笑ってバッグを受け取り肩にかける。
「私駅まで送ってくるね」
そう言って自分の部屋に入る妃馬さん。僕はリビングから廊下に出て廊下を進み
玄関で靴を履いているときに背後からカッチャンと扉が開き
カチャットンと扉が閉まる音が聞こえた。靴を履き終え振り返る。
薄手のカーディガンを着た妃馬さんが立っていた。
妃馬さんの後ろにはお父さんお母さん、姫冬ちゃんが立っていて見送りに来てくれていた。
「お邪魔しました。美味しいご飯ありがとうございました」
お礼を今一度言う。
「いーえ。またおいで?」
「怜夢先輩また大学でー!」
「気をつけてね」
僕は軽く頭を下げドアノブを掴み押す。ガッチャンと重い音が鳴り扉が開く。
少し涼しい夜風が舞い込んできた。
「じゃ、ちょっと行ってくる」
妃馬さんの声が聞こえる。
「気をつけていってらっしゃい」
「くれぐれも気をつけてな」
お母さんとお父さんの声も聞こえ、妃馬さんが出てくるまで玄関の扉を開けたままにして
妃馬さんが外に出たのを確認して今一度
「お邪魔しました。ありがとうございました」
と頭を下げて扉を閉める。閉まるまでの扉の隙間から
お父さんお母さん、姫冬ちゃんが手を振ってくれているのが見えた。
ゆっくりとガッチャンと扉を閉め、外廊下を歩き出す。
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