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出会い
第18話
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するとアナウンスが聞こえてくる。急行の電車が通過するアナウンスだった。
そのアナウンスを聞きながら僕は鹿島の左に背後から回り込み
今度は左の脇に人差し指を刺す。するとまた空気が漏れ出たような
「はひゅー」
と先程から比べると我慢したのかなと感じられる声だか音のようなものを出し
腕組みしたまま左に体を曲げる。鹿島が背後の僕を見る。
僕は肘を曲げ腕を鹿島のほうへ突き出し、両手の指をウェーブするようにし
イヤらしい手つきを見せる。
「その手見るだけで寒気がするわ」
と腕組みしたまま肩を上げ首をすくめた状態になる。
すると突風を引き連れた急行という番長が目の前を走り去って行った。
その突風に少しよろめく2人。全く気にせず、イヤらしい手つきの僕に
「そういえば怜ちゃんのチャンネルはどうなん?」
と聞いてきた。
そう。僕も鹿島に誘われてチャンネルを作って動画を投稿しているのだ。
「オレも全然よ」
「これで怜ちゃんのチャンネルチェックしてめっちゃ登録者数いたらオレ暴れるよ?」
鹿島は鞄から自分のスマホを取り出し操作する。
「さっき脇ちょんしたときも暴れそうになってたけどな」
「あんなんくすぐり弱いやつならみんな暴れ回るって」
そう言った鹿島の顔と今の今まで忙しなく動いていた手も止まる。
恐らく僕のMyPipeのチャンネルを見ているのだろう。
それにしても鹿島の表情が読めない。
驚いているようなショックを受けているような。
…あれ?…。今までの話の流れからして…。
もしかして…。もしかして登録者数爆上がりしてたりするのか!?
そんな期待をしながらも顔は知らぬ存ぜぬな表情で鹿島に
「どうかした?」
と尋ねる。すると
「怜ちゃん…登録者数が…」
やっぱり!本当に?これは現実か?
そんなことを思いながら
「え?なに?」
と神妙な面持ちになり尋ねる。
「登録者数が…オレより多いじゃん!」
と僕のMyPipeのチャンネルの画面にしたスマホを僕の顔の前に突き出してくる。
ワクワクしながら登録者数の数字を見る。26人。
ワクワクと期待のパズルが崩れ去った。崩れ去った裏側にあった文字は「現実」。
「先週と変わってないじゃん。鹿島知ってたろ」
僕と鹿島は仲良くなってからというもの
ほぼ毎日のようにオンラインゲームを一緒にしている。
そのときボイスチャットで会話をしているため
「今日なにがあった」や「この番組おもしろかった」など
いろいろ話しているため知っているはずなのである。
「ふふふ~知ってた~」
とワザとらしい怒った顔から自然な笑顔へと変わった。
「んふふ~良い笑顔」
「知ってたけど~知ってたけど~なんで本数多いオレより
全然投稿してない怜ちゃんのほうが登録者数多いの!?納得いかな~い!」
軽く地団駄を踏む。
「やっぱ暴れるやん」
「まぁ怜ちゃん良い声だしなぁ~。しゃーないか」
そう。これもMyPipeを始めた1つのキッカケだ。
母にも父にも妹にも鹿島にも言われて少しその気になったのかもしれない。
オレって良い声なんだ。
と。
そして良い声が話題になって人気チャンネルになるかもしれない。
とも思った。が、やはり現実は違った。
最初に撮ったのはモンスターナンバーライズの動画。
全然新作ではなかったが今発売されているシリーズの中では1番最新作には違いないし
自分のペースでできるのがこれだった。
特にこれといって企画は思い付かなかったし
プレイスキルが飛び抜けてあるわけでもなかったので
「[モンナンRise]動画始めました。よろしくお願いします。[初投稿]」
となんの変哲もない初動画を投稿した。
投稿する完了ボタンを押すのに少しだけ勇気がいった。
投稿して2日はソワソワとドキドキで
日常を日常通り出来ていたかも自信がないくらいだった。
夜中1時。ベッドの上で寝転がり
意を決してスマホで自分のチャンネルを開き、初投稿動画の再生数を確認した。
「もしかしたら何千、何万再生いってるかも」という気持ちと
「どうせ再生数なんてゼロだ」という気持ちが
どちらが重いかどちらが軽いかわからず、心の中で天秤がぐらぐら揺れていた。
投稿した動画のタイトルから視線を下げる。再生数17。
これが現実だった。たぶん初投稿で再生数17はマシかもしれないが少しショックを受けた。
しかしショックを隠すように装う。誰に見られているわけでもないのに。
自分の心をも騙そうとする。自分の心など騙せるはずもないのに。
それからも週1くらいのペースで動画を投稿していった。
画面録画を開始し、ゲームをしてその動画をパソコンで編集してと
ゲーム実況動画の作成、投稿とは意外と手間暇の掛かるものだった。
しかし成果が出ない。動画を投稿して再生数が多いときで50回程度。
僕のやる気は上がることはなかった。
しかし嬉しいコメントがついたときがあった。
「良い声ですね」というコメントだった。
このコメントを見つけたのは大学に向かう電車内でのことだった。
僕は嬉しくて嬉しくて本当に胸が躍るような
胸の内側で太鼓を叩いてお祭りを開催しているような
上半身の嬉しさが溢れて両足が少し浮いた。文字通り浮き足だった。
ただ電車内。右にも左にも人が座っているし、前にも人が立っていた。
僕は口角が上がるのを必死で堪え、コメントに返信した。
「ご視聴、コメントいただきありがとうございます!
声、褒めていただき嬉しいです!」
いつもより指がはやく動いた。そんな気がした。
コメント1つでこんなに嬉しいんだ。
そう噛み締めた。その日から少しだけやる気が上がった。
そのやる気に比例して成果も上がる。…そんな世界ではない。
そんなことはわかっていたけど、1カ月やる気を出して2日に1本くらいのペースで投稿した。
けど結果はいつもと変わらなかった。
1本だけ100再生くらいの動画があったくらいで現実なんてこんなもんだと思った。
そんなこんなでやっているうちに登録者は26人になっていたのだ。
そのアナウンスを聞きながら僕は鹿島の左に背後から回り込み
今度は左の脇に人差し指を刺す。するとまた空気が漏れ出たような
「はひゅー」
と先程から比べると我慢したのかなと感じられる声だか音のようなものを出し
腕組みしたまま左に体を曲げる。鹿島が背後の僕を見る。
僕は肘を曲げ腕を鹿島のほうへ突き出し、両手の指をウェーブするようにし
イヤらしい手つきを見せる。
「その手見るだけで寒気がするわ」
と腕組みしたまま肩を上げ首をすくめた状態になる。
すると突風を引き連れた急行という番長が目の前を走り去って行った。
その突風に少しよろめく2人。全く気にせず、イヤらしい手つきの僕に
「そういえば怜ちゃんのチャンネルはどうなん?」
と聞いてきた。
そう。僕も鹿島に誘われてチャンネルを作って動画を投稿しているのだ。
「オレも全然よ」
「これで怜ちゃんのチャンネルチェックしてめっちゃ登録者数いたらオレ暴れるよ?」
鹿島は鞄から自分のスマホを取り出し操作する。
「さっき脇ちょんしたときも暴れそうになってたけどな」
「あんなんくすぐり弱いやつならみんな暴れ回るって」
そう言った鹿島の顔と今の今まで忙しなく動いていた手も止まる。
恐らく僕のMyPipeのチャンネルを見ているのだろう。
それにしても鹿島の表情が読めない。
驚いているようなショックを受けているような。
…あれ?…。今までの話の流れからして…。
もしかして…。もしかして登録者数爆上がりしてたりするのか!?
そんな期待をしながらも顔は知らぬ存ぜぬな表情で鹿島に
「どうかした?」
と尋ねる。すると
「怜ちゃん…登録者数が…」
やっぱり!本当に?これは現実か?
そんなことを思いながら
「え?なに?」
と神妙な面持ちになり尋ねる。
「登録者数が…オレより多いじゃん!」
と僕のMyPipeのチャンネルの画面にしたスマホを僕の顔の前に突き出してくる。
ワクワクしながら登録者数の数字を見る。26人。
ワクワクと期待のパズルが崩れ去った。崩れ去った裏側にあった文字は「現実」。
「先週と変わってないじゃん。鹿島知ってたろ」
僕と鹿島は仲良くなってからというもの
ほぼ毎日のようにオンラインゲームを一緒にしている。
そのときボイスチャットで会話をしているため
「今日なにがあった」や「この番組おもしろかった」など
いろいろ話しているため知っているはずなのである。
「ふふふ~知ってた~」
とワザとらしい怒った顔から自然な笑顔へと変わった。
「んふふ~良い笑顔」
「知ってたけど~知ってたけど~なんで本数多いオレより
全然投稿してない怜ちゃんのほうが登録者数多いの!?納得いかな~い!」
軽く地団駄を踏む。
「やっぱ暴れるやん」
「まぁ怜ちゃん良い声だしなぁ~。しゃーないか」
そう。これもMyPipeを始めた1つのキッカケだ。
母にも父にも妹にも鹿島にも言われて少しその気になったのかもしれない。
オレって良い声なんだ。
と。
そして良い声が話題になって人気チャンネルになるかもしれない。
とも思った。が、やはり現実は違った。
最初に撮ったのはモンスターナンバーライズの動画。
全然新作ではなかったが今発売されているシリーズの中では1番最新作には違いないし
自分のペースでできるのがこれだった。
特にこれといって企画は思い付かなかったし
プレイスキルが飛び抜けてあるわけでもなかったので
「[モンナンRise]動画始めました。よろしくお願いします。[初投稿]」
となんの変哲もない初動画を投稿した。
投稿する完了ボタンを押すのに少しだけ勇気がいった。
投稿して2日はソワソワとドキドキで
日常を日常通り出来ていたかも自信がないくらいだった。
夜中1時。ベッドの上で寝転がり
意を決してスマホで自分のチャンネルを開き、初投稿動画の再生数を確認した。
「もしかしたら何千、何万再生いってるかも」という気持ちと
「どうせ再生数なんてゼロだ」という気持ちが
どちらが重いかどちらが軽いかわからず、心の中で天秤がぐらぐら揺れていた。
投稿した動画のタイトルから視線を下げる。再生数17。
これが現実だった。たぶん初投稿で再生数17はマシかもしれないが少しショックを受けた。
しかしショックを隠すように装う。誰に見られているわけでもないのに。
自分の心をも騙そうとする。自分の心など騙せるはずもないのに。
それからも週1くらいのペースで動画を投稿していった。
画面録画を開始し、ゲームをしてその動画をパソコンで編集してと
ゲーム実況動画の作成、投稿とは意外と手間暇の掛かるものだった。
しかし成果が出ない。動画を投稿して再生数が多いときで50回程度。
僕のやる気は上がることはなかった。
しかし嬉しいコメントがついたときがあった。
「良い声ですね」というコメントだった。
このコメントを見つけたのは大学に向かう電車内でのことだった。
僕は嬉しくて嬉しくて本当に胸が躍るような
胸の内側で太鼓を叩いてお祭りを開催しているような
上半身の嬉しさが溢れて両足が少し浮いた。文字通り浮き足だった。
ただ電車内。右にも左にも人が座っているし、前にも人が立っていた。
僕は口角が上がるのを必死で堪え、コメントに返信した。
「ご視聴、コメントいただきありがとうございます!
声、褒めていただき嬉しいです!」
いつもより指がはやく動いた。そんな気がした。
コメント1つでこんなに嬉しいんだ。
そう噛み締めた。その日から少しだけやる気が上がった。
そのやる気に比例して成果も上がる。…そんな世界ではない。
そんなことはわかっていたけど、1カ月やる気を出して2日に1本くらいのペースで投稿した。
けど結果はいつもと変わらなかった。
1本だけ100再生くらいの動画があったくらいで現実なんてこんなもんだと思った。
そんなこんなでやっているうちに登録者は26人になっていたのだ。
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