本当の絶望を

夕浪沙那

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1章

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「それはお前の解釈による。
すぐに荷物をまとめろ、いいな?」

解釈による…
ミカエラがラビラ様と婚約するのなら、私はここにいては体裁が悪い。

考えずともわかる。

「どうした、返事は?」

この家では侯爵、侯爵夫人からの言葉には、内容がどうであれ10秒以内に返事をしなければならないルールがある。

背けば何かしらの制裁が待っている、みなが怯えるルールだ。

「…」

私は初めてルールに背いた。

背いたというより、ただ悔しくて言葉が出てこなかった。

「…ぁ、あまりに酷すぎます。
私はラビラ様との婚約のために全てを捧げてきたのに…」

「自由で、無責任で、自分勝手で、苦労したこともないミカエラがどうして…不平等すぎます…」
 
私にとってラビラ様との婚約は唯一の希望で、
地獄から天国への架け橋だった。

20歳になれば侯爵邸を離れて王宮に住むことが約束されていた。

婚約のためにできることは全てやってきた。

それが生きる理由となって、私を支えてくれていた。

「ご苦労だった。
お前がミカエラと違って従順でよかったよ」

「な、納得できません」

「それはローズ、お前の都合だろ。
それにお前には何もできっこないのだぞ」

お父様の口調が強くなる。

「侯爵家、そして王家の秘密を…」

私だって、輝かしい貴族たちの裏の姿をそれなりに知っている。
私でも刃を突き立てられる。

「わからずやめ、
お前が秘密を漏らすようなそぶりをみせたら、
謀反を働いたとしてお前と、そしてお前の取り巻きまで1人残らず処刑する」

東洋で作られた、特注のパイプが私に投げつけられる。
 
「この日が来た時点で、ローズ、お前は詰んでいるのだ。何一つ打つ手が残されていないのだからな」

反論したくても言葉が出てこない…

「まったく、こんな情けない姉を持ったんだ…
ミカエラも気の毒なものだ」

私が処刑されるのは別にいい。

この先、生きていく気力も残っていない。

ただ何の罪もない取り巻きの人まで…
ソフィーだけは処刑させられない。

「ッチ」

噛んだ唇から血が垂れる。

お父様からの指示を受け入れ、部屋を後にした。

~~

「西の都へ向かうことにりました、準備をお願いします。私は少し休みます」

「わかりました…」

今は話せる状態でないことを悟ったのか、
ソフィーはすぐに準備に向かった。

お父様の部屋から自室までがこんなに長く感じるのは初めてだった。

1歩ずつ足を踏み出しているのに、距離が
一向に縮まらない。

まだか…まだか…

倍以上の時間をかけ、やっと自室が見えてきたとき、どうして長く感じたのかがわかった。

扉の前で妹のミカエラが仁王立ちで私を待っていた。

見るだけで吐き気が襲ってくる…

時間がかかったのは本能が足にストップをかけていたのだろう。

ミカエラが待っていることに私は気づいていた…

距離が近づき、ミカエラは私に気づいた。

見たことのないドレスに身を包んでいる。

またお母様が買い与えたのか…

獲物を見つけたハンターのように私のことを睨みつけてきた。

私もミカエラを強く睨み返した。

普段こんなことしたら、お父様とお母様に
告げ口され、アザだらけされるのだが…

もうそんなことはどうだっていい。

ここまで尽くしてきたのに、
タイミングが来たら、用済みとして切り捨てる。

まったく、本当に終わっている…



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