小町のひとりごと

夢酔藤山

文字の大きさ
25 / 41

……あかね雲の行方(8)

しおりを挟む
 恐る恐る振り返ると、二人の子を連れた見覚えのある顔が立っているではありませんか。
「八百か?」
「はい」
 まさしく妹の八百です。
 伴う子等は、察するに宮様との間に生まれた皇子でしょう。
 わたしは思わず目を細めて、この子等に慈愛の眼差しを傾けてしまいました。ほんに、宮様が小野に初めて御越し下されたときの面影に、よう似ておられる。
「宮様は?」
「小原の御所内の仏間にて」
「……そうか」
 宮様は毎日仏間にて故人を偲び供養をなさっておられる。この心配りと優しさは、明らかに在原業平さまの遺産でござりましょう。
「姉さまが参られたと知ったら、さぞや小野宮さまも喜びましょう。どうか、一緒に小野郷へお戻り頂けませんか」
 しかし、わたしは断りました。
 別に妹に対しての嫉妬や怨嗟は、ございません。それでも固辞したのは、ようやく塞ぎかけた古傷が、何やらこじ開けられそうな、そんな恐怖があったからなのです。
 在原業平さまの墓所で、わたしたち姉妹は四方山話を交わしました。

 そのなかで識ったこと。

 宮様は小野に隠棲してから、地域の者たちと親しみ、土地柄や自然に根差した生活を営んでおられる。ただそこにいるだけで、世話付き糧付きという内裏風の暮らしを捨て、己の手で職を営む道を、宮様は選ばれたそうです。
 轆轤(ろくろ)を廻して椀や木工細工を造る仕事。宮様はこれを木地師(きじし)と呼んでおられるそうです。
宮様の侍従たちもそれに倣い、職を全うすべく、地位も身分も捨てて、毎日働いておられるとか。確かにふたりの皇子の手も、絹のような白肌ではござりません。山の中を走り回る村童のように、節くれて土臭い。
 でも、元気ならいい、それでいい。
 宮様も、名も知らぬふたりの甥宮たちも。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

神楽坂gimmick

涼寺みすゞ
恋愛
明治26年、欧州視察を終え帰国した司法官僚 近衛惟前の耳に飛び込んできたのは、学友でもあり親戚にあたる久我侯爵家の跡取り 久我光雅負傷の連絡。 侯爵家のスキャンダルを収めるべく、奔走する羽目になり…… 若者が広げた夢の大風呂敷と、初恋の行方は?

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...